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音楽なんかじゃ、何も変わらない。

音楽なんかじゃ、何も変わらない。
音楽が好きな人なら、一度は感じたことがある気持ちではないだろうか。

僕は、「好きなものはなんですか?」と聞かれたら、真っ先に「音楽です。」と答えるくらいには音楽が好きだ。
今から約10年前くらい、僕が大学生だったころ、最高の娯楽と言えば音楽談義だった。

バイト上がりの夜中に、友達の家に集まって、日付が変わって、日が昇り出すまで、永遠とビートルズのアルバムを流し続けながら、ビートルズのどの曲が好きか、なぜその曲が好きなのか、曲を通じて何を表現したかったのか、を眠たくなるまで語り合うことが最高の娯楽だった、僕。
ユーチューブで、自分の好きなアーティストの関連動画を漁って、新しいお気に入りのアーティストを自慢気な顔で友達に紹介することが、最高に好きだった、僕。

そんな僕が、まるで魔法にでもかかってしまったように、ピタッと音楽に興味を失った時期がある。
大学を卒業して、新卒で入社した会社で日々の業務に忙殺されていた頃から、数年間。新しく自分のお気に入りの曲を探そうとしたり、自分の好きな曲のメッセージ性を掘り下げたり。大学時代に、毎日歯磨きをするように自然にやっていたことが全くできなくなった。

その原因は何か。
「音楽なんかじゃ、何も変わらない。」と思ったからだ。
(ここで、誤解のないように説明をしておくと、音楽消費するだけの立場からすると、何も変わらないと感じたということだ。もし、自分が作曲をして演奏を披露するなど表現側の立場なら、また違ったと思う。)

好きな曲を掘り下げたからって、何になるの?
何も、自分の人生変わらないじゃん。
そんなことやっている暇があれば、仕事やゴルフのスキルを磨いた方がよっぽど将来に役立つじゃん。そもそも、音楽好きな人いないし、この会社。
コミュニケーションの何の役にも立たないじゃん。こんなことばかり思っていた。

仕事の付き合いのカラオケで、「1曲歌えよ。」なんて言われても、
自分が好きでも何でもない、JPOPを歌うことが大切だった。
入社して初めて、同じ部署のメンバーと一緒にカラオケに行った時、先輩から「好きな曲歌えよ。」と言われたので、言葉通りに、
Weezerのバディホリーを歌ったら、場が凍りついた上に、先輩に、
「あ〜。君って、そういう独特な感じの人?」と言われたので、それ以来、会社のカラオケでは好きな曲を歌うのをやめた。

僕からしたら、独特でも何でもなくて、大学時代だったら、
「え?バディホリー知らんの?人生損しとるで、それ。」という会話が普通だったので、バディホリーを知っていることで人生を損したことがとても辛かった。
僕と、アーティスト、大学の友人、全部否定されたような気がした。

CDを買う代わりに、ゴルフ用品を買えば会社の人は喜んだ。
好きなアーティストのロングインタビューに詳しくなるより、社内の人気がある女の子の周辺情報に詳しい方が会社の人は喜んだ。
音楽に詳しくなることより、別のことの方が会社の人は喜んだ。

そうだよなぁ。
音楽が、直接的に貧困問題を解決するわけじゃないし、リストラされた人に職をあげれるわけでもないし、世界から戦争を無くすわけでもないよなぁ。
そもそも、ちっぽけな俺の生活さえ救えてないもんなぁ。

今考えると、とても幼く一面的な物事の見方しかできていないと思うが、当時はそんなことを考えて、結果、音楽から離れた。

そして、休日を返上して上司と一緒にゴルフをしなければ、出世ができないという、最低な事実を知ったことをきっかけに、僕は会社を退職した。
ちょうどその時、やりたいことがあったため、会社を続けるかどうか悩んでいたこともあって、「我が退職に、一片の悔い無し!」状態で退職後、実家に戻ってやりたいことのために、日々やるべきことをやっていた。

しかし、実家に帰っても、相変わらず音楽に興味を失ったままだった。
会社を辞めたことで、収入源がなくなったことで、何かしら自分で稼ぐ必要が出てきたので、アルバイトを始めたが、まぁ、そこでも案の定、音楽の話なんてできる人なんていなかった。それどころか、「ゴルフをしたくなかったから、仕事を辞めた。」と退職理由を説明したら、ゴキブリを見つけた時のような顔で「そうなんですか・・・。」と言われたので、仕事以外の会話は極力しないよう努めていた。

そんなある時、当時付き合っていた彼氏と一緒に、昼ごはんを食べにうどん屋に向かってドライブをしていたら、突然彼氏が「サカナクション好き?」と聞いてきた。サカナクション・・・。当時、彼らの曲で知っている曲は、1曲しかなかったが、その曲のPVと曲の世界観が自分の中ではかなり印象的かつ、好みだったので、こう答えた。

「サンプルしか知らんけど、あの曲は好きやで。」

彼氏は、満面の笑みをこぼしながらこう言った。
「センスええやん。笑」
やかましい。俺の方が、お前よりも色んな音楽聴いとるわ。何で上からやねん。
そう思いながらも、悪い気分はしなかった。
「サカナクション全部貸してあげるけん。好みの曲があったら、教えてや。というか、絶対好きやと思うけんライブ一緒に行こうや。」

お前、ビートルズはイエスタデーしか知らんのに、よう俺の好みわかるな・・・。と思いつつも、久しぶりに自分の知らない音楽を聴くという行為に、心のどこかでワクワクしているのを感じながら、借りたアルバムを1枚ずつ聴いていった。


悲しい夜の中で
蹲って泣いてたろ
街の灯りが眩しくて 眩しくて
通り過ぎて行く人が
立ち止まってる僕を見て
何も知らないくせに笑うんだ 笑うんだ
                 サカナクション(白波トップウォーター)

これは、白波トップウォーターという曲の歌詞の一部だ。
初期の作品で、ファンの中でも人気が高い曲だと思うし、僕もサカナクションの曲でTOP3に入るくらい好きだ。

何も知らないくせに笑うんだ笑うんだ
そうだ。自分のことを何も知らないくせに、勝手に馬鹿にしやがって。
会社を辞めて、自分のやりたいことのためにアルバイトをやっていることの何が悪いんだよ。お前達がやってる仕事って、人を馬鹿にできる程偉いのかよ・・・。それに自分が音楽にどれだけ救われてきたかも知らないのに、自分の好きな音楽を馬鹿にするなよ・・・。


そう・・・、救われてきたのだ。
それを、白波トップウォーターが思い出させてくれた。
確かに、音楽の力でわかりやすい変革を起こすのは難しいかもしれない。
でも、僕のように1人の人間の心を救い、生きる力を与えることはできると思う。

だから、音楽なんかじゃ、何も変わらない。
そう思っている、当時の僕のような人達にこう言いたい。

音楽なんかじゃ、何も変わらないは、ウソだよ。」と。


文章中に出てきた、楽曲はこちら。


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fatty男
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