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『Collar×Malice -Unlimited-』雑感/彼は怪物だったのか

はじめに

 これまでnoteに投稿してきた記事が「感想」というカテゴリーに属するものだとしたら、今回の記事は「感想」ほどカッチリとはしていない「雑感」です。感想と雑感の差異についてはもちろん個人の裁量と言ってしまえばそこまでなので、かなり大枠な位置付けではあるのですが……。

 今回雑感を綴ろうと思った『アンリミ』が『Collar×Malice』のファンディストとしての位置付けだったので、すべてに触れることはせずに自分の記憶の端書き程度のものを書いて行こうと思います。本来であれば異なるかたち(それこそ、これまでと同様の、あるいはもっとしっかりとした形式のものを)でまとめる予定だったのですが想像以上の手こずってしまったので、今回こういったかたちでまとめました。

 ゼロの感情を形式的に、あるいは構造的に書き綴るにはまだまだ技量不足だというところを痛感した次第です。以下、ゼロという人物について書くものになるので彼の本来の名前などにも触れつつ、雑感とさせていただきます。

星野市香と、

 改めて本作主人公である星野市香について。前回の『カラマリ』に関する記事では主に攻略キャラクターたちについてまとめたため個別で書き連ねておかなかった彼女について、わたしが感じたことを前段階として並べておきます。

 まず、ある意味で彼女といつも密接な関わりがあった弟・星野香月に触れながら書いていきます。彼と星野市香の関係性はどのルートにおいても書かれていますが(関係性の修復までの道程はすべてのルートで書かれていると思います)、どうして星野香月という存在が必要だったかというアプローチから考えるのであれば、「星野市香」というキャラクターを成立させるためだったのではないかと感じました。

 アドニス編のような特例を除き、並み居る敵相手に所謂無双をするような最強ヒロインではないにしろ、星野市香はよくよく考えると特異な存在ではないでしょうか。それこそ、後述する彼の目に止まるくらいには。

 星野市香を取り巻く人々の口から語られる星野市香の揺るぎない精神は、彼女の首輪在りきで語られるものが殆どですが、しかし、後述する彼は、首輪という存在なくして(その後実験的試みで星野市香に首輪をつけますが)、星野市香という存在の特異な性質、揺るぎない精神に触れたのでしょう。恐らくは、誰よりも早く。

 その揺るぎない精神がどのように培われたものかと言えば、やはり家庭環境ではないでしょうか。星野市香が置かれた家庭環境は冷遇、と一言で切り捨てるにはあまりにも一般的で、後述する彼の生まれと比較してしまえば充分に幸福と言えます。けれど、優秀な弟である香月と比較され、両親には期待を掛けてもらえないという境遇は星野市香の自尊心を確実に傷付け、誰にも救われない焦燥感を尖らせていったことは、様々なエピソードから見て取れます。

 彼女と両親の関係は本編でも、あるいはファンディスクでも改善されることなく終わります。彼女の幼少期のエピソードとして、後に愛時ルートで語られることとなる誘拐された過去がありますが、それこそ、誘拐された過去を関係回復の足掛かりとすることだって出来たはずなのに(誘拐された時どれだけ心配だったか、どれだけ無事を喜んだのか)それをしなかったということは、やはり彼女の存在は星野の家において「不要なもの」であることを断定されたようで、筆舌に尽くしがたいものがあります。その、ある種の傷こそ、彼が星野市香に期待を掛けた根本的な土壌になってしまったことが理解できるからこそ。

共に過ごした「    」

「お前と一緒に過ごした同期の冴木弓弦も、テロを企てた冴木弓弦も、名前を持たずに生まれた誰かも、ここにいる俺も」
「違わない。すべて、俺の一面だ。ただ、見せていた側面が違うだけ」

 冒頭に引用した台詞は愛時ルートの後日談で死刑囚として服役している冴木弓弦と面会した際、彼の口から出た台詞になります。以上を元に、以降では三方から見た彼、そして、最終的にはひとりの人物として、冴木弓弦という人物について考えて行くかたちになります。

 今回の項目としては、共に過ごした冴木弓弦、つまりは星野市香と共に警察学校で学び、同期として、一警察官として配属される運びとなった冴木弓弦についてになります。

 警察学校時代、どのように出会ったのかはアドニス編で語られていますが、その際、冴木弓弦の視点から見た星野市香について「……あの頃から、お前の信念はまっすぐだった」「普通に生きてる善良な人たちを守るために悪を排除する。その意思はハッキリしてたよな」と語られます。そして、それに対する言葉として、そう、いざというときに犯罪者――【悪意のある人間】を撃つためだ。とも、星野市香は独白しています。

 警察組織に属している以上、上記のような意思を掲げている者は少なくはないと思います。しかし、星野市香がその中でも冴木弓弦の目に止まったのは、弱者のために強者を挫くという決意を正しく固めている、という点ではないでしょうか。本来属する組織は異なれど、確かに、星野市香が掲げる理想にシンパシーを感じたという点において、疑う余地はないように思います。

テロを企てた「    」

 では、どうして冴木弓弦ではなく、ゼロして、星野市香に首輪をつける必要性があったのか。同士だと感じたのであれば正当な方法で執行者たちにそうしたようにスカウト行為を行えばいいにも関わらず、今回のような方法を選択したのか。その点に関しては『アンリミ』ではなく本編でも開示されている情報ではありますが、この世界からすべての悪、たったひとりの悪を残してすべてが滅びた後、悪の生き残りである自分自身をも殺害することができる人物を、彼が欲していたからです。

 アドニス編序盤でのゼロが星野市香相手に昔話をした際、星野市香は懐かしむべきではない過去に思いを馳せ、声を荒げて制止します。その際、ゼロの口から出た言葉が「星野、お前はなにも変わってないな」「安心したよ」という台詞であることからも、それが窺えます。

 確かに、アドニスという組織に属することを選んだ星野市香は世間一般からして見ればれっきとしたテロリストにひとりになるわけですが、その立場すら、ゼロの視点から見てしまえば星野市香という一警察官が警察官になるよりも前に打ち立てた目標に向けて一歩一歩その歩みを進めているのだ、という見方になるわけです。これは最終的に星野市香が下した決断にも通ずるポイントになるものの、この段階では星野市香は自身のことを私は、変わった。変わってしまった。前の私なら、こんなことは思わなかった。と感じています。ゼロがどのような点に関してそう口にしたのか知らないからこそ、星野市香の心は激しく揺れます。それすら、ゼロにとっては星野市香が殺した健全な情の蘇生を図っているだけなのでしょうけども……。

 そもそも、ゼロという人間の本心が非常に捉えにくいものになっている根本の原因は彼が今後のプランを誰にも開示していないことにあるように思います。だからこそ、御國れいはゼロから星野市香に向けられている感情について理解することが出来ず、恋愛感情ではないのか、という推測を打ち立てます。幼い頃からの付き合いであるはずの異母兄弟からの理解も誤ったものでしかないのであれば、それこそ、ゼロと感情を、目的を同じにする存在は本人の意思がどうあれ、星野市香ただひとりだけであると言っても、過言ではないのでしょうか。それを、星野市香が理解出来ていないという構造がアドニス編全体の捻れた感情構造を生んでいるのですが……。

 また、ここで確認しておかねばならない点として、アドニスという宗教組織を前身とする組織の中でのゼロという存在についても確認しておく必要があるのかな、と思います。元々アドニスの前身となる組織は、御國れいの母親は中心となりあくまでもただの宗教組織として活動を行っていた組織になります。公安に目を着けられていたこともある、と語られてはいるものの、虎視眈々とその時を窺っていたと表現されており、その時がやってくる前、御國れいが中学生の時分に母親は亡くなったとされています。

 御國れい本人は母親から救済者となるための教えを受けていたと語っていますが、結局現在のアドニスという組織はゼロを教祖(≠神)として成立しています。御國れいの母親がどのような考えで御國れいに教育を施していたのかは推測の域を出ませんが、恐らくは、御國れいこそがゼロに値する人物となるための教育だったのではないかと思います。母親の存命時は母親の敷いたレールを、そして母親が亡くなってからは父親に対する対抗心から、そして今、アドニスという組織の代表の座を異母兄弟であるゼロに明け渡し、あくまでの「自分自身」のために御國れいはアドニスという組織を政治の世界から擁護するかたちを取っています。いつか、アドニスという組織に限界が来ることもすべて承知の上で、いつか来る終わりを黙して待つという選択を御國れいは取った、というかたちです。

 このような危うい関係性にありながら、アドニスこそが血を超えたふたりの絆だと口にしつつ弱者を救済することを至上の目標として活動しているという構造は末恐ろしくもありますが、ふたりの出自が通常とは異なることから家族、血縁という要素のみで正常に繋がることがふたりには出来なかったのではないでしょうか。冴木弓弦と呼ばれていた人物がそうであったのかは横に置くとしても、御國れいには「家族だからこそ」「血縁だからこそ」の甘えと諦念が、確かにそこにあったように思えます。

 そもそものところで、白石ルート後日談で黒瀬柳こと13番と白石景之の対話で「神に迷いなど……あるはずがない。あってはならない……!」「じゃあなんで君は【ゼロ】じゃなくて【御國れい】に固執しているの?」という掛け合いが成されている段階で、御國れいは身の振りを誤ったのではないかとも受け止められます。せめて、御國れいが教祖の立場に収まっていれば、教導する者としての立場を冴木弓弦に与えることを選ばなければ、彼は本当の意味での救済者に成り得たのかもしれないですね。それがたとえ、自分自身すら救わない意味合いでの救済者であったとしても。

名前を持たずに生まれた誰か

 最後に。三方向から冴木弓弦という人物を読み解く上で、ある意味では最も難解で、そして、ある意味では最も平易であるとも言える存在について。名前を持たずに生まれてきた彼は、御國れいの異母兄弟である、あるいは御國れいの異母兄弟であるという記号しか持つことのない存在です。彼が御國れいの目に止まることもなく生きることになったのなら、彼はアドニスという教団を持つことも恐らくはなく、その生を終えたのかもしれません。彼のバイタリティを見るに、別のかたちでなんらかの行動を起こしていそうではあるものの、アドニスという組織がこれ程までに大きくなったのは母体とする組織が存在していたこと、政界との繋がりなどの要因があったことも否めないと思うので……。

 さて、そんな彼についてですが、作中では以下のように語られています。

「身近な人間の【死】によって、思想が変わることはあるのでしょうか」
「ゼロは母親が亡くなってから、世の中に蔓延する哀しみを感じ取るようになったそうです」
「……私にはその感覚がわかりません。自らが哀しむのなら理解できるんですが」
「ですが、もしゼロが母の死を哀しまず、他者の哀しみを感じるようになったというなら、それは……」
「そのときに、人間としての何かを失ったのだと思います」

 以上は、御國れいと星野市香の会話からの引用になります。間に挟まれる言葉は他にもあるものの、概ねこれさえ引用すれば、意味合いは正しく伝わるかと思います。予てより、母親や家族を失ったことを切っ掛けに人格形成が健全に行われなかったキャラクターを好きになる経験が多かったのでまさに好きなキャラクターの条件を抑えているわけですが、彼がそれだけで構成されたキャラクターなのかと言われると、それもそれで違う気がして来るような気持ちになります。

 御國れいは冴木弓弦という名すら持たない彼に、はじめて見た時から光を見出したと語っています。自分自身の感情をなにも持たないからこそ、御國れいは冴木弓弦という名すら持たない彼の中に救済者としての輝きを、光を見出したのかもしれません。その時まさに、御國れいはアドニスの前身組織に自らの意思でユダを招き入れてしまったのかもしれませんが……。

「我々のような組織にとっていちばん恐れるべきは内部崩壊です。ひとりのユダが理想を壊す」

 アドニスという組織にとってのユダが冴木弓弦であるのか、あるいは御國れい自身なのか、それとも星野市香なのかについて考えていくのもこれまで見えて来なかったものが見えそうなので面白いテーマなのではないか、とちらりと思ったり。

そして、統合

 ここで改めて、下記の台詞を確認してみます。

「お前と一緒に過ごした同期の冴木弓弦も、テロを企てた冴木弓弦も、名前を持たずに生まれた誰かも、ここにいる俺も」
「違わない。すべて、俺の一面だ。ただ、見せていた側面が違うだけ」

 これまでひとつの側面として読み解いてきた冴木弓弦という人物は主に三方ですが、それらすべて最終的に星野市香の前に現れた「悪」です。『カラマリ』の世界において、冴木弓弦という人物はどうしようもないほどの悪であり、ファンディスクである『アンリミ』においても彼に対し最後に与えられるものは一発の銃弾のみです。その過程で、確かに彼はある種の救いとも取れるものを得ることはありますが、救いを得てなお、彼と共に歩んでいくエンディングは存在しません。

 最終的に冴木弓弦を生かすことで彼に復讐をするというかたちのエンディングも存在しているものの、状況としては、星野市香が一番はじめに冴木弓弦を追い詰めたその時に、愛時さんからの制止を受け銃を下ろしてしまった構図と大差がないような気がします。当該シーンは銃を握った手をおろしかけた刹那、あの男と目が合う。ひどくガッカリしたような、哀しそうな顔をしていた。と描写されていたのですが、状況としては、ほとんどこの状況と変わらないんですよね。

 確かに、一番はじめに冴木弓弦を追い詰めたその時の星野市香は直情的で、とにかく弟の復讐を果たさねばならないという義憤に駆られた状態で、冴木弓弦に真実の救いを与え命を奪う存在ではなかったのかもしれません。けれど、その時確かに冴木弓弦は銃を下ろした星野市香にガッカリして、そして、哀しかったのかもしれないな、と思うと冴木弓弦という人物に与えるべき道は生きる道ではなく反対に死ぬ道であることが自然と浮かび上がるかたちになります。

 そして恐らく、それを与えることができるのは星野市香でなければならなかったはずです。作中でも語られている通り、星野市香がただひとり、彼に混じりけのない親愛の情を向けたというただそれだけの理由で。

 冴木弓弦は星野市香でなければならなかった理由を、決して口にすることはありませんでした。だからこそ御國れいは冴木弓弦から星野市香に向かう感情を恋愛感情であると推察し、そして星野市香は冴木弓弦という人物に憎まれているのかもしれない、と感じ二年間をアドニスという組織の中で共にしました。個を取り落としてしまった冴木弓弦は、そこになにもなかったからこそ誰にも知られることなく、アドニスの崩壊へとただ転がっていきます。そうでなければ、すべてを精算することができないのだと、星野市香が気がついてしまったからこそ。

 結局、アドニス編の存在意義というか、根幹にあるものというか、そういったものを頭から考えていった時残るのは冴木弓弦という人物への理解なのかと思いきやそうではなく、あの日あの時銃を握る手を下ろしてしまった星野市香が再び銃を握り、今度はその手を下ろさないまま決別することだったのかなと個人的には思います。

 恐らくゼロははじめて自分のために、自分の感情のためだけに涙を流し満たされた気持ちで星野市香から与えられる死を受け入れるかたちで物語は幕切れになりましたが、結局ゼロがここに至ってアドニスを存続し続けた理由は「アドニスがないと星野市香が困るから」でしかないんですよね。自分が理想とする世界がやって来ないことはとうに受け入れつつ、けれど星野市香が再び銃を握って目の前に立つ時、その時を心待ちにしつつ星野市香がそうするように彼女の情を揺り動かそうとする彼の行動は彼が口にしていた通り星野市香を地獄に突き落とすにも等しい行為なのですが……。

彼を凶行へと走らせた人間らしい理由を冴木君の中に見つけられれば、せめて許すか許さないかの選択ができるからだ。

 上記にもあるように、義憤というある種の狂気から覚めてしまった星野市香はどこかでずっと、冴木弓弦のことを理解しようとしていたのでしょう。ヒールにもそう願っただけの理由があり、背景があり、だからこそ、そうするに至ったのだという物語を、星野市香がずっと探していることを知っていて、冴木弓弦は自らの意思で三方の自分を星野市香の前で敢えて統合して見せたのではないでしょうか。星野市香がギリギリのところで信じ続け、願い続けていた冴木弓弦という人物も、アドニスを率いるゼロも、名前も持たずに生まれた彼も、すべて自分自身なのだということを。

「でも、何もしないで後悔するくらいなら、頑張ってみてから『やっぱりムダだったね』って笑い話にしたいんだ」

 だからこそ、彼は最後、同僚として星野市香と交わした言葉の中から上記を用いたのでしょう。彼を体言するような言葉だなと感じ、プレイ後数ヶ月に渡って忘れることのできない台詞を、結びとして書いて終えたいと思います。なんともなしに口にした言葉が、共感することしかなかった冴木弓弦へ対してのはじめての共感になったのだと願いつつ。

「あれがきっと、真理だよ。……俺も同じなんだ」

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