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『DAIROKU:AYAKASHIMORI』感想/妖を守るということ

不思議だらけの隠世で妖と繋ぐ心の絆

―ヒトナラザルモノ―
妖怪や幽霊と呼ばれる通常見ることが出来ないモノが見えたことで
国家公務員への道が開けた!?

しかし、彼女が配属されたのはその存在を秘匿された部署――

政府直轄特殊庁第六特別対策室
通称:妖守(アヤカシモリ) 
政府内でも知る人の少ないその部署は、
人ならざる者=妖怪に関する事案を扱う特殊な場所だった。

サクラタニと呼ばれる異世界が彼女の職場。
不思議だらけの隠世で妖たちを統括・管理する生活が始まる。

(*公式サイトより)

 ということで、今回は2020年5月28日よりオトメイトから発売した完全新作タイトル『DAIROKU:AYAKASHIMORI』(以下ダイロク)の感想記事です。

 発売してからそれほど日が空いていないタイトルですが、発売日から着手された方々は早々に攻略を終えることができたのではないでしょうか。わたし自身もそこまで缶詰になってプレイしたわけではありませんが、体感三日(ボイスを最後まで聞かない人間の体感です)もあれば充分にクリアできるボリュームだったように思います。

 事前の公式アナウンスの通り、人死にが出ないタイトルだったので妖と聞いて連想するようなおどろおどろしいシナリオ展開は特になく、悲恋ルートに関してもそこまで読後感の悪い悲恋ではなかったように思います。

 システム周りに少し触れておくんですが、発売当初から言われている通り話の繋がりに若干躓く可能性があります。フローチャートシステムを採用しているからなのか、シナリオの本筋でAと会話する→マップ選択でBの元に訪問する→シナリオの本筋に戻った際Aと会話した翌日の設定になっている……のような、若干時系列に違和感のある描写があったものの、個人的には満足行く一本でした。いつもシリアスしか読んでいない人間視点でいつもと異なるテイストのゲームをして楽しかった、が一言感想になりますが、以下でそれぞれの攻略キャラクターたちについてネタバレこみの感想を述べて行こうと思います。

瀬見季継(CV:豊永利行)

「……参ったな。俺、今叱られてるんだな? 君に」

 ゲーム一本プレイした時、メインヒーローに対して「よかった!」という感情をあまり抱かない人間なんですが、『ダイロク』では「よかった!」を彼に感じてしまいました。『ダイロク』唯一の人間の攻略キャラクターである瀬見班率いる瀬見季継です。

 彼のルートの気に入ったところはずばり恋愛の過程なんですが、恋愛が進むスピード感が物凄くよかったです。確かに『ダイロク』はそこまで時間をかけずにひとり攻略できてしまうくらのボリューム感なんですが、季継ルートを進めている時(初周に攻略したからかもですが……)物凄くゆったりと進む恋愛を見ることができたな……と感じました。

 ここに関してももしかすると好みが分かれるポイントなのかもしれませんが、ヒロインのしのが季継に対して「叱る」シーンが好きでした。そこを受けての台詞抜粋だったんですが、部下にはタスクを振れと指示しつつ、自分は物凄い重たいタスクを抱えており、それに気がついた部下がタスクを振ってくださいと申し出ても「え? 別に大丈夫だけど」みたいな態度を取るところとか、お前~! となりつつも、なんでもない顔をしながら物凄いものを抱えこんでいるキャラクターが好きな人間にはドンピシャでした。その上、彼の独白が物凄くいいんですよね。

 彼は高名な陰陽師の家系出身なんですが、それについて「生まれながらにして、『やり遂げよ』と用意されている道があるのだから、限界まで自分をコキ使うのが正しいと思って生きていた」とあるのが物凄く前向きすぎて、「うわあ前向きだ」といつもとは違う興奮も同時に煽られたのがよかったです。自分が破滅するまでその道に没頭する気はないけれど、できるのであれば太く長く、できるだけ自分の身体を酷使したい……という思考が減量期のビルダーのような思考でよかったですね。大団円ルートに非常に近しいところにいる男でした。

悪虂王(CV:鈴木達央)

「……悪鬼が怖いと、あなたは言っていました」
「その悪鬼にこんなことをして、怖くはないんですか?」

 妖と聞いて連想するようなダークな側面を一身に引き受けていたルートが彼のルートではないでしょうか。悪虂王という名の通り、隠すことなく直球で悪鬼としての側面が描かれます。

 彼がまだ人の身であった頃、どのように人間に絶望したのか。どうして悪鬼に身を落としたのか。悪鬼としての彼が一体人間になにをしたのか、すべてを知った上で彼を抱き寄せて「私があなたを守ります。悪虂さんが人間に絶望してしまわないように。悪虂さんが悪虂さんのままでいられるように」と妖守の名に相応しく彼の心を守ろうとするシーンなど、非常に絵になるシーンが多いルートだなと感じました。他にも悪夢の最中、悪夢と現実が入り交じってしのを押し倒すシーンなど、妖モチーフにこれを求めていた……という要素が物凄いです。

 また前述の季継ルートにも共通して言えることですが、攻略キャラクター目線のSSが物凄くいいです。とは言えど、攻略中に、時系列としておかしくないタイミングで見ることがやはり大前提になると思いますが……。妖と人間の恋愛を描く上で、やはり寿命は大きな生涯になると思うんですが、人間が短命種であることを知るほとんど永久の命を持つと言ってもおかしくはない彼らが通り過ぎていくものでしかない妖守というカテゴリーの中からひとつ飛び出して来たしのという存在をどのように受け止めるのか、そんなことが悪虂のSSから読み取れたのがよかったポイントですかね。「それまで一度でも多く彼女の笑顔を見たいと思うのは、乾きを感じず、腹も減らず、女の温もりも欲さない身空の私にとって、本当に不思議な望みだった」と表現されるのがかなり高得点でした。

 後述する比良が人間が短命であることに疲れ果ててしまい極力関わりを持たぬように努めるのとは異なり、そもそもはじめから人間を憎み、恨み、愛着など持たぬ彼だからこその感性だなということも感じられ……。

白月(CV:櫻井孝宏)

「……君がため」
「惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな……」

 他の妖たちがルートに入ると封印されそうになったり、討伐されそうになったりする中、白月のルートはわりと平穏だったな……という印象です。そもそも彼のルートが子狐の善意(物凄く迷惑な善意ですが……)を発端とするため、人間たちを広く巻き込んで展開する話ではなかったことも要因かと思いますが。

 とは言えど、悲恋ルートはしっかりと見たかったものを見せてくれたルートだと感じました。恋愛ルートでもキーアイテムになっている和歌を、悲恋ルートではこうやって使ってくるかと思うとまさに陰陽、恋愛ルートと悲恋ルートは表裏一体だなと感じました。

 彼を攻略している時に知ることができるんですが、共通ルートで投げかけられる「式神にしないか」という問いかけが実は彼が仕掛けたとんでもない即死質問(式神にすることを肯定するともう二度と会えなくなるなど……)だということもおまけで知ることができ、徹底してるな……と思いました。そこまでするか?

比良(CV:小林裕介)

「……こんな下衆さえも、人だというのに、何故――」

 とにかく序盤のボイスを聞こうとすると、ものすっっごく時間がかかります。平気で三点リーダー10個分くらいの沈黙を置いて来るので……。ただ、そこを超えるとわりと口数が多く、元来の人間への愛着のようなものを感じました。彼はわりと序盤……というか、共通ルート部分で源義経の名を出して来るので義経関連のシナリオが来るんだろうかと思わせておいて、最終的に彼のシナリオの骨子となる部分は別の人間についてだったのがそこから話を展開させるのか~と意外に思いました。

 彼のルートでは式神契約と行かないまでも、鳴らせばすぐさま彼がその場にやって来る便利アイテムを渡してくれ、そこが恋愛ルートでも悲恋ルートでも上手く活きているのがよかったですね。恋愛ルートは言うまでもなく、人魚の肉を狙う高官の息子にしのが襲われた際最後の最後で鳴らす(が、実はそれよりももっと前から待機しており鳴らしてもいないのに出て行けば見ていたのが知られてしまうという葛藤)シーンで活きてくるわけですが、悲恋ルートはしのが比良を現世に逃がし、投獄された際でも活躍します。あのエンド後、羽根の音が聞こえた=比良が牢まで迎えにやって来てくれた……という解釈でいいですよね? ダイロクの悲恋ルートは悲恋でありつつも悲惨すぎず、恐らくはこうなるんだろうなという細やかな希望を感じさせる終わり方だったので、読後感よく終えられたような気がします。

 また、最も人間という種族に興味がなさそうな比良が、人間になりたくともなれず、そんな生活の中で倦んでしまったという語り口で語られるところも物凄くよかったです。元々、自分よりも短命な生き物に愛情を抱いてしまう長命種が好きなんですがそれが上手いこと描かれていました。人間の醜さを知れば知るほどに、こんな存在すら人であるのに人にはなれない己を知り、けれどそんな醜さを持ち合わせる人間という種族に失望することもできない……というバランス感覚がよかったです。また、比良ルートは高尾が物凄い美味しいポジションでしたね。比良が人間に愛着を持っていることを知った上で、けれど比良に必要なのは瞬きの間に死んでしまうような短い命しか持たぬ妖守ではなく、比良と同じだけの人生を生きる者、また、そんな生き物になるだけの覚悟を持った者……という構図が終盤は魅力的に映りました。

 しのが人魚の肉を口にして転化を試みることをしなかったことも、比良ルートが魅力的だった一因ではないかと思います。しのに助けられた人魚が「大丈夫よ。あなたは、人魚姫にはならないから王子様を救い出して、泡にならず二人で幸せになるの」と語りかけるのも、なんだか示唆的でよかったですね。

湫(CV:逢坂良太)

「それに、オマエが教えてくれたんだろ。人を傷付けるやつはかっこ悪い、優しい方がかっこいいって」

 物凄いジェットコースタールートでした、彼のルート……。当初大蛇がしのを利用できる、と言っていたの、わたしはてっきりしのの血統を知っていたからなのかなと思ったんですが、藤桜の大玉に手を出すようなことはせずに物語が進行したので、結局しのを利用しようとしたのは一妖守としてだったのかなと腹落ちさせるのにわりと時間を要しました。

 それがなくとも湫の設定がわりと変則的だったというか、真実の開示のされ方が忙しない印象でした。はじめは青龍の転生体というところからスタートし、かと思えば大蛇とふたりで八岐大蛇の転生体というところに向かい、最終的には八岐大蛇が討伐された折傍にいたただの人の転生体、というところに落ち着いて、えーッ!? となりました。短い尺の中で物凄い舵取りをされた忙しないルートだな……とは思うものの、湫と大蛇の関係性が好みだったのでよかったです。自分の死の間際、人間の無垢な魂に触れたというただそれだけのために湫に自らを捧げることも厭わない大蛇の心情、物凄くデッカい感情を隠し持っていましたね……。

大団円

「妾は、妖のためにサクラタニを創った初代を好いておった」

 共通部分や季継ルートでチョロチョロと小出しにされるため、わりと気付いていたプレイヤーも多そうだったことが明かされるのが大団円ルートです。プレイヤーは恐らく「転生なのか?」「初代の傍流の血筋なのか?」の二択で迷うと思うんですが、わたしは完全に転生なんだろうなと思い込んでプレイしていた側の人間なので初代の傍流ということが明かされた段階でそっちか~とずっこけたんですが、確かにしのの祖母の話などを聞くに、妖という存在を恐らくは認めていて、しのにいろいろなことを教えていたことからも後者であった方が話は上手く繋がるんですよね……。完全に季継ルートの玉藻にミスリードされたかたちになりました。

 玉藻については引用した台詞の通り初代を好いていたことや、かつて常磐室長と恋仲だったことなどわりと盛りだくさんなんですが、個人的にはここのあたりがもう少し深く語られていたら……などと思ったりもしました。その話が童顔室長がいくつくらいの話だったのか、あるいはどうして破局したのかなど……。比良ルートを見る限り、妖と人間の恋愛に嫌気が差してというわけではないんだろうなと確信めいた気持ちは抱きつつ、その過程が非常に気になるキャラクター配置でした。大団円ルートで敢えて白月の口から「そもそも妖は人に恋はせぬだろう。故に、そのような事態もおこらぬはずじゃ」と語らせていることから、初代と玉藻の間にあったものが恋愛感情であったことを断定するような見方にはなってしまいますが。

 上記のような興奮もありつつ、結局皓鵺はなんだったのだろうか……と察しが悪いせいなのか、わりと今でも悩んでいる次第です。

 それでは。


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