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The Youthful Memories①

プロローグ

それはなんて青春

白く震えた 旅人に残る絆さ

たとえ遠く離れても 僕は僕だよ

ただそばに 今はそばに

あざやかな朝日を 浴びて歩こう

すべての愛と 過ちを道づれに

終わりの無い青春 それをえらんで

絶望の波にのまれても

ひたすら泳いで たどりつけば

また何か覚えるだろう

誰にでもある青春 いつか忘れて

記憶の中で死んでしまっても

あの日僕らが 信じたもの

それはまぼろしじゃない

SO YOUNG!!

ーTHE YELLOW MONKEY 『SO YOUNG』より一部抜粋


1st track 『SPARK』

 入学式はいい。新しい生活が始まる期待感がある。僕は退屈で平凡だった中学校生活に別れを告げて、高校での刺激ある新生活を期待していた。そんな風に思ってこの4月1日を迎えた。でも運命は残酷だ。3月31日の夕飯後から急激にお腹を下して、頭がクラクラし出した。熱を測ると38.6度。人生で最高の数字。『なぜこんな日に。。。?』という思いを持ちながら母親に伝え、薬を飲んで布団に入った。辛かったが、眠りにつくまでそれほど時間はかからなかったと思う。気付けば朝日がカーテンの隙間から差し込み、眩しくて目を覚ました。だが起きた瞬間すぐにまだ体に熱がある事がわかった。とりあえず寝汗をかいた服を全て脱ぎ捨て、新しい下着に変えて再度熱を測る。38.2度。これはもうどうしようもない。

 がっかりして母親に伝え、学校に電話を入れて貰おうとしたら、『もう高校生なんだから自分で電話をしなさい』と言われ、38度も熱があるのに自分で電話をさせられた。ボーっとした頭で『オトハカケルと申します。今日入学の生徒なんですが、病欠の連絡で電話しました。どうすればいいでしょうか?』と電話口の人に聞くと『マツモト先生に代わりますね』と言われ、マツモト先生が何者なのかわからないが、とりあえずそれどころではなかった。
「はい、マツモトです。」
マツモト先生は男だった。
「今日入学予定のオトハカケルと言います。実は昨晩から熱が出てしまって、今日も熱が下がらずお休みさせてください。」
「わかった。担任のヒノ先生に伝えておく。私は学年主任のマツモトです。宜しく。」
「宜しくお願いします。」
「初日から大変だな。明日には治して来いよ。」
「はい。ありがとうございます。」
マツモト先生は太く低い声をしていて威圧感があった。ヒノ先生は男なのか女なのかわからなかった。でもそんなことはどうでもいい。とにかく治すしかない、と思い朝ごはんを無理やり食べて寝た。とはいえ布団に入っただけで眠れたわけではない。ベッドの横に放置したケータイの通知にLINEが来ていた。ナツミからだった。
「なんくみ?」
オレが学校に行けていない事を知らないのだ。
「わからない。休んだ。」
「え?かぜ?」
「たぶん。熱ある。」
「クラス見てきてあげるよ。ちな私はA組。」
「さんきゅ。」
暫くしてまたナツミからLINEが来た。 
「カケルはB組。となり。」
「うん。ありがと。」
「早く治せよー。」
「おう。」
 ナツミはいわゆる幼馴染というヤツだが、めちゃくちゃ仲がいい訳では無かった。家は近くて歩いて6、7分。同じ町名の違う丁目の距離感。同じ幼稚園から中学までを過ごし、ナツミは第一志望に落ちて僕と同じ高校になってしまった。思春期を迎えた小学校高学年くらいから一定の距離を置くようになり、学校内では敢えて絡まないようにしていたが、長期の休みの時にはCDを貸し借りしたり、一緒に勉強や宿題をやったりする関係だった。ナツミは陸上部の中・長距離の専攻で、ショートカットの浅黒い笑顔の眩しい元気娘タイプで男子にモテた。僕もカワイイとは思うがタイプでは無かった。僕はまだ童貞で無尽蔵の性欲を腹の底に溜め込んでいたけれど、ナツミに欲情した事はなかった。

 ナツミにクラスを見て来てもらったところで僕になんのメリットがあるかわからなかったが、ナツミなりの優しさなんだろう。結局その日の午前中はダラダラして、母親が出勤前に作っていった焼きそばを食べた。昼のワイドショーをつけたが特にテレビを見る気もなく、なんとなく焼きそばを食べていると、なんだか聞いた事はあるが曲名やビジュアルが思い出せない音楽が流れてきた。「誰の歌だっけ?」と思ってテレビを見ると、ビジュアルも知らない細身の男性が歌っていた。テレビの画面の右端にはには『THE YELLOW MONKEY 復活ツアー好調!!』のテロップが張り付けられていた。

 僕は一瞬ビジュアルでもバンド名でもピンと来なかったが、一呼吸置いて鮮明に思い出した。父親が好きで良く聞いていたバンドだった。父親は自分のPCに入れたiTunesで良くこの曲を聴いていた。物心ついた頃から父親が仕事をしている横で一人、父親の蔵書の色んな図鑑を読むのが好きだった。父親が音楽を聴きながら仕事をしている横で、僕は好きなだけ図鑑を広げ、知的探求心を追求させて貰えていた。母親もこの時だけは僕に干渉してこなくて、僕は自由をその時間に感じていた。その時間に父親が聞いていた曲がさっきテレビで流れた歌だった。

 今年40の年になるはずだった父親は一昨年に突然倒れ、そのまま他界した。脳溢血だった。前触れは本当に無く、当時母親は憔悴してしまい大変だった。僕は悲しかったけれど、正直言ってそこまでではなかった。それよりも一家の経済的柱であった父の他界により、うちの家の収入はどうなるのだろうか?無事に高校に行けるのだろうか?という不安の方が大きかった。父は決して優しい人でもないし、厳しい人でもない、子供に対して一定の距離を置いていた人だった。そんな父親だったが、僕は父親の隣で図鑑を読む時間が好きだった。あの時間は名残惜しく、父親に感謝の気持ちを持つ事が出来るのだった。

 久しぶりに父親の屋根裏収納として作られた書斎に行き電気をつける。古い本と埃の混ざった匂いが鼻の奥まで入り込み、懐かしさがこみ上げた。階高140センチの高さに腰をかがめて奥まで歩き、2つの小さな窓を開ける。隣の家の新緑が目の前に見える。窓の下の小さなテーブルに座り、デスクスタンドの明かりをつけて、机の上のノートPCを開く。年代物で起動まで随分と時間がかかり、その間僕は積み上げられた釣り雑誌をパラパラとめくる。釣り雑誌に出てくる魚はキレイな物や珍しい物が無く退屈で魚の図鑑とは大違いだ。暫くしてPCから聞きなれない音がして起動した。父親のアカウントをクリックして、パスワードを入力する。父親は僕にだけパスワードを教えてくれていた。父親に断って許可を得た時だけ、僕はPCを開く事が出来た。特に開く用事もあまり無かったけれど、中2の時の技術の授業で出たPC基礎の宿題はそれでやらせて貰った。

 iTunesを開き『THE YELLOW MONKEY』の文字を探す。いや探すまでも無く、保存されているデータの半分以上が彼らのアルバムだった。その他洋楽が少し、Jポップが少し。さっきテレビで流れていた曲が聴きたかった。キャッチーでスピード感があるあの曲。頭の中にこびりついてすでにサビのメロディーなら歌えた。でも曲名がわからずベストアルバムを頭から聞いて探すことにした。『THE YELLOW MONKEY SINGLE COLLECTION』と題したアルバムの11局目にその歌は入っていた。曲名は『SPARK』。続けて3回聞いた。テレビで聞いたことのないサビ以外の部分も文句無しにカッコよかった。そして歌詞も気に入った。

新しい何かが俺の中で目覚める 世界は回る
君とスパーク 愛のスピーク 命は生まれ いずれ消えゆく

だからBaby 一瞬の火花の 中でうごめく 獣のように
声を殺して奪い合えれば 永遠なんて一秒で決まる

暗闇の中 すがりつくように
血がめぐるのを確かめている
(are you ready to spark?)

新しい 何かが俺の 中で目覚める 世界は続く
君とスパーク 夜はスネーク 心は強く だけど乱れる

真実を 欲しがる俺は 本当の愛で 眠りたいのさ
恥ずかしいけど それが全てさ 永遠なんて一秒で決まる

永遠なんていらないから

 入学式を逃した憂鬱な気持ちが1発で吹き飛んだ。新しい高校生活を迎える僕にピッタリの歌だと思った。熱が38度あったのに僕は興奮していた。熱で身体が熱いのか、興奮して熱いのかわからなかった。僕の身体の中で太陽が燃えているのを感じた。

 これが僕とイエモンとの出会いだった。イエモンが解散した年に生まれ、復活した年にイエモンを知り、父親からイエモン好きのDNAを引き継いだ僕が、イエモンに熱中しない理由はもはやどこにも無かった。

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