The Youthful Memories⑬
13th track 『プライマル。』
久しぶりに会うチーちゃんは25歳になり、ますます綺麗になっていた。僕はそのチーちゃんを見て少し安心した。思ったよりも自分の心がザワつかなかったからだ。僕が心の底から惚れ抜いたチーちゃんはあの頃のチーちゃんであり、今目の前にいるチーちゃんはもちろんその延長線上にいるけれど、僕はあの頃のチーちゃんとあの頃の僕だったから恋に落ちたのではないか、と思う事が出来た。
今回は母さんと一緒の訪問で母さんは1泊だけの上田滞在だったので、近藤家への滞在は短かった。2、3時間おしゃべりをして、仏壇に線香だけ上げて帰った。チーちゃんとは、まだ弾き語りは続けている事、大学は楽しい事、将来はまだ決めてないけれど、ミュージシャンではないけれど何か音楽に関わる仕事に就きたいと考えている事を話した。チーちゃんはまだあの時の男性とお付き合いを続けていて、ユミコさんの早く結婚しろ攻撃が強くてツライと言って笑った。
チーちゃんの結婚の話が決まったのはその3ヶ月後くらいだった。知ったのはチーちゃんからではなく、母さん経由だった。僕は驚きもせず、ショックも無く、素直に祝福が出来る気持ちになっていたので、チーちゃんにLINEをした。
『結婚決まったらしいじゃん。おめでとう!』
『ありがとう!式にはカヨコさんと一緒に来てね!』
『うん。もちろん。』
『余興でカケルの歌やってほしい。』
『恥ずかしいけど、チーちゃんが望むのなら。』
『でも『JAM』やられたらボロ泣きしそうだから他の明るいのにして。
『プライマル。』がいいな。』
『いいね!準備しておくよ。』
その日から4ヶ月後くらい、僕が大学2年になったばかりの時にチーちゃんの結婚式があった。チーちゃんのウエディングドレス姿は本当にキレイで、僕は見惚れていた。初めて見た新郎のコタニケイイチさんは優しそうな好青年で安心感のある人だった。チーちゃんがコンドウチヒロがコタニチヒロにもう変わっている事が僕には感慨深かった。順調に披露宴は進み、余興の時間が近づき、僕はエレアコの準備をしていた。司会の女性からの紹介を受け、マイクを渡された。
「えー、新婦のハトコにあたりますオトハカケルです。新婦は僕を弟のように可愛がってくれました。僕もチヒロさんを姉のように慕っていました。姉を奪われてしまうような気がして最初は寂しかったのですが、ケイイチさんのあの優しそうな顔を見て、これは安心出来るな、僕にはない魅力だな、と思って大人しく祝福する事にしました。」
会場が少し和んだ。
「今日やる曲は卒業がテーマの曲です。娘を見送る父の立場で書かれたような曲です。チヒロさんのリクエストでもあります。ご両親の下を卒業する2人に贈ります。それでは聞いてください。ザイエローモンキーで『プライマル。』」
あがり目とさがり目の モヤモヤを束ねいて
残さずに捨てることは 抱えるよりそれよりもねぇ?
愛とか強調すると 顔が変になるよ
では内緒 あなたよりも好きな人が他にいるから誰の景色? 清々しい 風が懐かしい
油絵のカサブタより リアルだって名言!VERY GOOD だいぶイケそうだ
振り切ったら 飛べそうじゃん今度は何を食べようか?
卒業おめでとう ブラブラブラ紅塗った君がなんか 大人のように笑うんだ
悪いから ずっと見とれてた
ありがとう絆と 先々の長い願い
花柄の気分もまた 1日のうちにたった6秒雪のように 深爪の朝を身にまとい
暖かな優しさほど 罪と知った名言!VERY GOOD だいぶイケそうだ
キツかったら 脱ぎゃいいじゃん今度は何を着てみようか?
卒業おめでとう ブラブラブラ紅塗った君がなんか 大人のようにまとうんだ
似合うけど ちょっとムリあった君の名は この僕に何を残したい
思い出は 重荷になると言うVERY GOOD だいぶイケそうだ
旅だったら消せそうじゃん今度は何を歌おうか
卒業おめでとう ブラブラブラ手を振った君が なんか大人になってしまうんだ
さようなら きっと好きだった
ブラブラブラ…
出席者全員が優しい拍手で曲の終わりを迎えてくれた。結局チーちゃんはボロ泣きしていた。チーちゃんのお父さんのヨシテルさんも泣いていた。そして僕も泣いていた事に気づいた。柔らかで優しい涙だったので歌に集中していて気がつかなかった。そして僕は同時にこの瞬間が僕の5年に及ぶ恋心が完全に昇華された瞬間だと気づいた。こうしてチーちゃんの結婚式は僕の恋心の卒業式にもなった。僕の心は晴れやかだった。青空のような気持ちとは、きっとこういう気持ちの事を言うんだろう。