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【現役薬剤師が解説】長期服用に気をつけたい4つの薬

※この記事は約10分で読めます

「先生、この薬ってなんで飲んでるんでしたっけ...?」

薬局での服薬指導中、こんな質問をよく受けます。薬を飲み始めた時には確かに症状があって必要だったはずなのに、いつの間にか"なんとなく"飲み続けているという方が実に多いのです。

私が勤務する薬局でも、こんな会話が日常的に交わされています。

「この胃薬、もう3年くらい飲んでるんですけど...」
「最初は胃が痛かったんですが、今は全然症状ないんです。でも先生が出してくれるので...」

実は、このような"漫然投与"(症状や経過の評価が十分に行われないまま、医薬品が継続して処方されること)は深刻な問題となっています。

厚生労働省の調査によると、65歳以上の高齢者の約7割が何らかの薬を服用しており、そのうち約3割が5種類以上の薬を常用しているとされています。

さらに驚くべきことに、日本老年医学会が実施した研究では、高齢者に処方されている薬の約4割が「見直しが可能」と判断されています。

つまり、私たちが日々服用している薬の中には、実は不必要なものが少なからず含まれている可能性があるのです。

私は現役の薬剤師として10年以上、数多くの患者さんと向き合ってきました。その中で痛感するのは、薬は確かに病気の治療に必要不可欠ですが、同時に「諸刃の剣」だということです。適切に使用されれば病気の治療に役立ちますが、漫然と使用され続けることで、かえって健康に悪影響を及ぼすケースも少なくありません。

今日は、特に注意が必要な4つの薬について、その危険性と安全な減らし方についてお話ししていきます。この記事を読むことで、あなたが飲んでいる薬が本当に必要なのか、見直すきっかけになれば幸いです。

この記事は以下のような方におすすめです:

  • 毎日何種類もの薬を飲んでいる方

  • 長期間同じ薬を飲み続けている方

  • 薬の副作用が気になっている方

  • 薬を減らしたいと考えている方

  • 健康に不安を感じている方

※注意:この記事は一般的な情報提供を目的としています。実際の服薬中止や変更は、必ず担当医に相談の上で行ってください。

では、具体的にどんな薬に注意が必要なのか、見ていきましょう。


知っておくべき「漫然処方」の4つの危険性

「薬を飲んで悪いことなんてないでしょう?」
実は、これは大きな誤解です。私が薬剤師として特に懸念しているのは、必要以上に薬を飲み続けることによる健康への影響です。以下の4つの危険性について、詳しく見ていきましょう。

1. 薬は体にとって「異物」

多くの方は意外に思われるかもしれませんが、薬は体にとって「異物」です。いくら効果の高い薬であっても、体に入った瞬間から私たちの体では様々な反応が起こります。

たとえば、解熱鎮痛薬を定期的に服用し続けると、体が薬の存在に慣れてしまい、本来の解熱機能や痛みへの対処能力が低下してしまうことがあります。これは、体が本来持っている自然治癒力を弱めることにつながります。

2. 副作用のリスクは服用期間と共に増加

「副作用が出ていないから大丈夫」と思っていませんか?

実は、目に見える副作用が出ていなくても、体の中では様々な変化が起きている可能性があります。長期服用による副作用は、しばしば静かに、そして徐々に進行します。

例えば、胃酸の分泌を抑える薬の長期服用は、以下のようなリスクが報告されています:

  • ビタミンB12の吸収低下

  • 骨折リスクの上昇

  • 腸内細菌叢の乱れ

3. 不必要な医療費負担

厚生労働省の調査によると、不適切な多剤服用による医療費の無駄は年間約2,900億円にも上ると推計されています。これは個人レベルで見ても、毎月数千円から数万円の不必要な出費となっている可能性があります。

4. 本来の健康改善が遅れるリスク

最も懸念されるのは、薬に頼り続けることで、本来取り組むべき生活習慣の改善が後回しになってしまうことです。
例えば、不眠症の治療で睡眠薬を服用し続けると、

  • 規則正しい生活リズムの確立

  • ストレス管理の改善

  • 運動習慣の見直し といった、根本的な解決につながる取り組みが疎かになりがちです。

これは単なる時間の無駄遣いではなく、あなたの健康な未来への投資機会を失っているとも言えます。
では、どうすれば良いのか?
この後、特に注意が必要な4つの薬について、具体的な問題点と安全な減らし方を詳しく解説していきます。まずは、あなたが日常的に服用している薬をチェックしてみましょう。
※重要:薬の使用を中止する際は、必ず医師に相談してください。自己判断での中止は危険です。

この4つの薬に気をつけよう

要注意な薬①:睡眠薬の落とし穴

「眠れないよりはマシ」
睡眠薬の長期服用で、よく耳にする言葉です。確かに、不眠に悩まされるのは辛いものです。しかし、安易な睡眠薬の使用は、思わぬ落とし穴につながる可能性があります。

なぜ睡眠薬が漫然処方されやすいのか?

私の薬局でよく見られるパターンは以下の通りです:

  • 一時的な不眠で処方を受けた

  • 薬の効果で眠れるようになった

  • 薬を止めることへの不安から継続

  • 結果として数ヶ月、数年と服用が続く

長期服用の4つの危険性

  1. 依存性の問題:睡眠薬の多くは、ベンゾジアゼピン系薬剤やその類似薬です。これらには依存性があり、「薬がないと眠れない」という心理的・身体的依存を引き起こす可能性があります。

  2. 認知機能への影響:最新の研究では、ベンゾジアゼピン系睡眠薬の長期使用と認知症リスクの上昇との関連が指摘されています。特に65歳以上の高齢者では、この影響が顕著だとされています。

  3. 転倒リスクの増加:睡眠薬の影響が翌日まで残り(持ち越し効果)、特に早朝の転倒リスクを高めます。骨折などの重大な事故につながる可能性があります。

  4. 自然な睡眠サイクルの乱れ:薬剤による睡眠は、自然な睡眠とは質が異なります。特にレム睡眠(夢を見る睡眠)が減少し、睡眠の質が低下する可能性があります。

睡眠薬は、急性の不眠症状を乗り切るための「一時的な橋渡し」として有用です。しかし、長期使用は様々なリスクを考えた方がよいでしょう。もし数ヶ月以上の服用が続いている場合は、一度医師に相談してみることをお勧めします。

要注意な薬②:ビタミン剤は本当に必要?

「元気が出る」「疲れにいい」

このような期待を込めて処方されることの多いビタミン剤。実は、その効果と必要性については、医療現場でも議論が分かれているところです。

よくある処方のパターン

私の薬局でよく見かけるビタミン剤処方の典型的なケース:

  • 「疲れやすい」という訴えで処方

  • 高齢者への予防的な処方

  • 食欲不振の患者さんへの補助的処方

  • 漠然とした体調不良への処方

ビタミン剤の"思わぬ落とし穴"

  1. 効果の過信:「ビタミンを飲んでいるから大丈夫」という過信が、かえって不健康な食生活を助長することがあります。

  2. 吸収効率の問題:合成ビタミンは天然のビタミンと比べて吸収率が低いこともあり、ビタミンをとっても無駄になっているケースも。

  3. 過剰摂取のリスク:特に脂溶性ビタミン(A、D、E、K)は体内に蓄積され、過剰摂取により副作用を引き起こす可能性があります。

ビタミン剤が本当に必要なケース

以下のような場合は、医師の指導のもとでのビタミン剤使用が推奨されます:

  • 特定の疾患による重度の吸収障害がある

  • 厳格な菜食主義で必要な栄養が不足している

  • 妊娠中や授乳中で追加の栄養補給が必要

  • 高齢者で明確な栄養不足がある

食事で摂るべき理由

ビタミンは食事から摂取するのが最も理想的です。その理由は:

  • 相乗効果

    • 食品中のビタミンは他の栄養素と共存

    • 複数の栄養素が互いの吸収を助け合う

    • 自然な形での摂取により体内で効率的に利用される

  • 適切な量の摂取

    • 食事からの摂取であれば過剰摂取のリスクが少ない

    • 体が必要な量を自然に調整できる

ビタミン剤は「保険」的な使用が多い薬剤です。しかし、本来は食事からの摂取が基本。特に明確な欠乏症状がない場合は、薬剤での補給よりも、バランスの取れた食事を心がけることが重要です。

要注意な薬③:胃薬との"危険な関係"

「そういえば、最近胃の調子は気にならないですね」

こう言いながら、数年にわたって胃薬を服用し続けている方は少なくありません。特に胃薬は、その安全性から安易に処方が継続されやすい薬剤の一つです。

胃薬の種類と特徴的な問題点

  • 胃酸分泌抑制薬(PPIやH2ブロッカー)

    • 代表的な薬:オメプラゾール、ランソプラゾール、ファモチジンなど

    • 最も注意が必要な種類の胃薬

    • 長期服用による重大な健康リスクあり

  • 胃粘膜保護薬

    • 代表的な薬:レバミピド、スクラルファートなど

    • 比較的安全性は高いが、長期服用の必要性は要検討

    • 漫然投与されやすい薬剤の代表格

胃酸分泌抑制薬の危険な落とし穴

  • 栄養吸収の低下

    • ビタミンB12の吸収障害

    • 鉄分の吸収低下

    • カルシウムなどのミネラル吸収への影響

  • 感染リスクの上昇

    • 胃酸による殺菌作用の低下

    • 腸内細菌叢の乱れ

    • 腸の感染症リスク増加

  • 骨折リスクの上昇

    • 特に高齢者で問題に

    • カルシウム吸収低下による骨密度への影響

    • 転倒時の骨折リスク増加

  • その他の健康影響

    • 腎臓への負担

    • 認知機能への影響の可能性

    • 他の薬との相互作用

本当に胃薬が必要なケース

以下のような場合は、継続服用が推奨されます:

  • 重度の逆流性食道炎がある

  • バレット食道の診断がある

  • 消化性潰瘍の再発リスクが高い

  • 特定の薬剤による胃障害予防が必要

胃薬、特に胃酸分泌抑制薬の長期服用には注意が必要です。症状が安定している場合は、医師と相談しながら、可能な範囲で減薬を検討しましょう。同時に、胃の健康を保つための生活習慣の改善に取り組むことが重要です。

要注意な薬④:痛み止めが引き起こす"悪循環"

「頭痛持ちだから、痛み止めは常備しています」 「関節が痛むので、毎日飲んでいます」

日常的に痛み止めを使用している方は少なくありません。確かに痛みから解放されることは大切ですが、痛み止めの常用は思わぬ落とし穴を生む可能性があります。

痛み止めの危険な落とし穴

  • 薬物乱用頭痛の発症

    • 痛み止めの常用が新たな頭痛を引き起こす

    • 月に10日以上の使用で発症リスク上昇

    • 悪循環に陥りやすい

  • 痛みの閾値低下

    • 痛みに対する感受性が高まる

    • より弱い刺激でも痛みを感じやすくなる

    • 鎮痛薬の効果が弱まる

  • 重要な症状のマスク

    • 病気の初期症状を見逃す可能性

    • 診断の遅れにつながるリスク

    • 根本的な治療の機会を逃す

  • 胃腸への影響

    • 胃粘膜への刺激

    • 消化性潰瘍のリスク

    • 消化管出血の危険性

痛み止めは、急性の痛みに対する「一時的な対処法」として有用です。しかし、常用は様々な健康リスクを伴います。痛みの原因を突き止め、生活習慣の改善や代替療法を組み合わせることで、痛み止めへの依存度を下げることが可能です。
もし現在、痛み止めを常用されている方は、一度医師に相談し、安全な減薬計画を立てることをお勧めします。

薬を見直すときの注意事項

薬の見直しを始める前に、必ず知っておいていただきたい重要な注意事項があります。これらの点を守ることで、安全に、そして効果的に薬との付き合い方を見直すことができます。

絶対に守るべき大原則

✖ 絶対にしてはいけないこと:

  • 自己判断での急な中止

  • 医師に相談せずの減量

  • 家族や知人の判断での中止

  • インターネットの情報だけでの判断

⭕ 必ずすべきこと:

  • 医師との十分な相談

  • 段階的な減薬プラン作成

  • 定期的な経過観察

  • 体調変化の記録

特に注意が必要な方

以下に該当する方は、特に慎重な対応が必要です:

  • 75歳以上の高齢者

  • 複数の持病をお持ちの方

  • 腎臓や肝臓に問題のある方

  • 過去に薬の副作用を経験された方

  • 妊娠中・授乳中の方

  • 複数の医療機関で薬を処方されている方

まとめ:薬との賢い付き合い方

長年薬剤師として働く中で、私は多くの患者さんから「もっと早く知っていれば...」という言葉を聞いてきました。薬との付き合い方を見直すことは、決して遅すぎることはありません。

薬は私たちの健康を守る大切な味方です。しかし、必要以上に依存することは、かえって健康を損なう可能性があります。大切なのは、「薬を使わないこと」ではなく、「適切に使うこと」です。そのためには、医療従事者と十分なコミュニケーションを取り、自身の健康状態を理解し、生活習慣の改善に取り組むことが重要です。

私たち薬剤師は、皆さんの健康な生活をサポートする存在です。薬について気になることがあれば、いつでもご相談ください。

一人一人が自分の健康に関心を持ち、適切な医療を受けることで、より健康的な社会を作っていけることを願っています。

参考文献

  1. 厚生労働省.「高齢者の医薬品適正使用の指針」2024年改訂版

  2. 日本老年医学会.「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」2023年版

  3. 日本薬剤師会.「ポリファーマシー対策ガイドライン」2023年

  4. 医療安全全国共同行動.「多剤服用対策に関する提言」2024年

  5. American Geriatrics Society. "Updated Beers Criteria for Potentially Inappropriate Medication Use in Older Adults." 2023.

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