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人生には人のいない公園が必要

どうしようもなくやる気はなくて、
あるのはほんの少しの食欲と大きな希死念慮

不思議と外に出れそうな予感がする、そんなときは近くのパン屋までいく。
最低限の身だしなみと手元に数百円とデジカメ、あとiPhoneとヘッドホンがあれば出かける準備はできた。
5トンくらいの重量の体と心を引きずってなんとか外に出る。ここが最大の難所だけど、とりあえずふんばる。

ドアを開け太陽の光に目がチカチカする。鍵を閉めている間に日差しに目が慣れて、ヘッドホンからいつもの音楽を流す。部屋から出れさえすれば足は勝手に進んでくれる。この時間はほとんど人が歩いてないし、誰かいてもヘッドホンでガードは完璧だと言い聞かせる。

なんもない様子を必死に出してパン屋でひとつのあんバターパンとアイスコーヒーを買う。普通に見えたこと不審がられなかったことに安堵する。

そこから数分歩き、公園に着いた。

さびれた雰囲気、柔らかい木漏れ日と前髪を撫でる風、草木の揺れる音、しょぼい噴水もどきからちょろちょろと水が噴き出すようす、素直に気持ちがいい。そして些細なことに心を動かせることにひどく安心する。

古びたベンチに座って、パンとコーヒーを食べる。
目の前の噴水から噴き出た水が池の水にもどる様子をひたすら見ながら。

ひとは来ない。

視線を回したら、三分咲きの桜の木が視界に入る。光のあたるところ高いところはきれいに花が開いている。少しうれしい気持ちになる。これは花見だ。


公園の脇の道を通り過ぎる人はいても、公園に入るひと誰もいなかった。ひとりじめできたことの嬉しさと希死念慮が少し息をひそめたことにこの時間に感謝した。

ゴミをまとめて帰り支度できたあと、三分咲きの桜とベンチ、しょぼくれた噴水と池の写真を撮った。
古いデジカメなので小さな液晶からでは、よく撮れたかどうかは判別し難い。でもそれがお気に入りだ。

帰り道は不思議と足が軽い、ぐんぐん進む。
久々の外出で疲れた体と帰りたがりな気持ちの間で
わたしのからだとこころならこころに権力があることを思い知る。

家に着いてから、デジカメの写真をパソコンに移す気力はなかったけど、久しぶりにレトルト以外のご飯をつくった。ひどく材料不足だがなんとか料理らしいものはできた。

少し大きくなった食欲と少し縮んだ希死念慮
まだこれからも小さな幸せを掬えるようでありたいと強く思った。


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