小説『機嫌の壺』
「ツムギ、夕飯が出来るから、そろそろ婆ちゃん呼んできて。」
「は〜い。」
ツムギが笑美子婆ちゃんの部屋をノックしようとすると中からコソコソと話し声が聞こえた。
ツムギは婆ちゃんが電話でもしているのかと思って、暫く待っていた。
数分後、声がしなくなったのでノックをし、「婆ちゃん、ご飯だって。」と言い、婆ちゃんは「はいよ。」と返事をした。
「誰かと電話してたの?」
「いや、してないよ。」
「ふ〜ん。婆ちゃん、独り言でも言ってるのかと思った。」
「まぁ、そんなところだよ。」
《その夜》
ねぇ、お母さん。婆ちゃん少しボケちゃってないよね?
何でよ〜?
さっきさ、呼びに言ったら独り言喋ってたから。
そうなの?
テレビ見てて、何か言ってたんじゃないの?
そうなのかなぁ。
《数日後》
両親が出掛けるので、ツムギと婆ちゃんが留守番をする事になった。
ツムギは、天気も良いし散歩がてらファミレスに誘った。
「今のファミレスは店員さんが注文を取りに来ないんだねぇ。婆ちゃん一人だったら困っちゃってたよ。」
小さめなパフェを一つずつ注文して、婆ちゃんは嬉しそうに食べていた。
帰ってから、部屋に戻り両親が帰ってきた。
居間に行くと、スーパーの惣菜や寿司があり、ご飯にするから婆ちゃんを呼びに行った。
部屋から、またコソコソと話し声が聞こえる。ツムギは、「トントン」とドアをノックした。
「はい。」と婆ちゃんの声。
「入ってもいい?」
「いいよ。」と中に入れてくれた。
婆ちゃん、テレビでも見てたの?
いや。見てないよ。
じゃあ、誰かと喋ってた?
喋ってないよ。
婆ちゃんの声が聞こえたかい?
うん。
実はね、これに喋ってたんだよ。と綺麗な『壺』を差し出した。
何?この壺?
これはね、爺ちゃんが残していった『壺』なんだよ。
飾っててもつまらないから、良い事があったら、この壺の中に話しかけていたんだよ。
爺ちゃんに話しかけてるみたいだね。
聞いてんのかね?
どうだかねぇ〜。
《数年後》
笑美子婆さんが亡くなり、通夜が終わった夜。
ツムギが婆ちゃんの遺影を見ていた。
通夜の場所は、婆ちゃんの部屋で行い、花が沢山飾ってある。
花の奥に、あの『壺』が置いてあるのを目にし、ツムギが壺を手に取り、泣きながら「爺ちゃん、婆ちゃん死んじゃったよ。」と呟くと、その『壺』が割れてしまいました。
その直後、上から大量の『花びら』が落ちてきて、笑美子婆さんの喜ぶ姿を見ました。
目が覚めると、花びらは無く、『壺』は粉々に割れていて、畳の上に散らばっていました。
《終わり》
最後まで読んで下さり有難うございました。
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