がんばっていきまっしょいについて思ったこと その一
三津東は優勝しません。
優勝するとスポ根になってしまうかもしれないから。
駄作になってしまうから。
優勝させるにはライバル校に勝たねばなりません、勝つことが目標になります。そうするとスポ根にならざるをえなくなります。正直、個性を出すには尺が足りないと思われます。「私たちの勝負はこれからだ!」で終わるという方法も考えられますが、友情と努力を見せるだけで終わりそうですし、そうなるとなんらかの方法でフォローをしないと観客のフラストレーションが溜まるのではなかろうかと思われます。
パッと見、誤解されやすいのですが、がんばっていきまっしょいはスポ根ではなくて青春モノです。
ボートは目的ではなく、あくまでも田舎の高校に通う女の子達のちょっとした成長と日常を描く為の手段なのです。決して"勝つための"努力や友情やそのほか諸々を描くためではないのです。勿論、作中では彼女たちの勝つための努力や友情も描かれています。しかしそれらはあくまでも女の子たちの成長と日常を描くための手段の一つなのです。
このスポ根ではない、ということが一目で一文で分かりやすければスポ根か青春ものかどちらを主な目的に観ればいいのか迷ってしまった人を交通整理できたのではなかろうかと思ったりします。
「がんばって」という表題がついてしまっている以上、原作を知らなければ表題のみで勝つ様を描く目的のスポ根的内容に取られてしまう可能性が大きいのではないでしょうか。
さて、そのスポコンではないといことが3DCGで製作されることに着地できた大きな部分ではなかろうかと考えています。
最近、スポーツもののアニメが映画化されていたりしましたね。ハイキュー!!やブルーロックなど。漫画原作で3DCGではないそれらの作品を描く手法は競技の力強さや泥臭さを表現するのに向いているのではなろうかと思ったりします。勿論、そこには成長や友情も描かれたりしますが。
そこで、青春もののがんばっていきまっしょいの3DCGは別の土俵で相撲を取るわけです。水をはじめとする光る、透明なものの表現です。瞳の揺らぎ、水面、背景など。
青春の待つ爽やかさ繊細さを表現するには、この世界のどこにでも必ず存在している水と光は相性が良いと思いました。水と光が十分に活かされるボートという競技では、公式でも挙げられていた自由で無理のないカメラワークも活きていましたし、競技を描写するというスポーツを蔑ろにしないという必要条件をクリアしています。それ以外に割り振られるリソースを競技の迫力や泥臭さに振るか、日常の感情の表現や映像の美しさに振るかの違いだと思ったのです。
この、スポーツ描写に振る割合の違いが3DCG採用の決め手になったのではなかろうかと思いました。
個人的に申しますと3DCGは苦手なので、メインビジュアルを見た時正直「うわぁ」と思いました。こりゃあ、どうなるんだろうなぁ??とまで思いました。
しかし、見てみるとやはり3DCGという部分がありますが、前述の得意分野が上手く効果を発揮していることと、いかにも3DCGという部分が抑えられていることもあり、想像よりもずっと楽に見られました。
3DCGが苦手だから敬遠されるのはとても惜しいことです。実際に見てみないと分からないので厳しい部分ではありますが……だからこそ、1番力を入れて予告や動画でフォローが必要だった部分かも知れません。
優勝しない理由、あとはこれは冗談も含みますが優勝すると全国区で戦うということがアイデンティティの湊山の努力が報われなさすぎるということです。努力と友情の部分がどうしても描き切れないであろうことから、そんなに簡単に勝てちゃうの?と彼女達がただ敵に塩を送るだけの変なライバルになってしまうのです。
青春モノだと成り立つ湊山の行動や存在理由がスポ根になると無くなってしまうのです。そもそも、余程の天才が登場するか死に物狂いで練習を重ねるスポ根でなければ進学校の東高がガチでやっている湊山に勝ってはいけないのです。
これは冗談ですが、皆の成績が下がってしまうから、というのも考えられます。レベルの高い東高、モデル高どうりなら進学校です。基本的に運動部の活動はかなり小さいものだと思われます。
そのような環境で湊山に勝とうとすれば間違いなく悦ネェの成績は職員室へ呼び出されるレベルになると思われます。他の4人も然りかと。
特にイモッチあたりの成績が落ちると洒落にならなさそうです、きっと物語が進みません。
私が高校時代、部活に目覚めてしまい、すごい勢いで成績が落ちたため「お前は進学先どうするんだ」と説教された経験があるので、ついつい考えてしまいました。脱線脱線。
がんばっていきまっしょいは先ず原作を読んでいるか読んでいないかで評価が大きく変わる作品なのではなかろうかと思います。読んでいる場合、概ねとてもポジティブ無評価になるのではと思います。私もこのパターンです。
原作から変えられている部分にハズレが無いのです。ちゃんと令和の可愛く面白いがんばっていきまっしょいになっています。登場人物が皆首都圏の言葉で話していることについてはとても良いと思います。まずは広い間口が必要になります。
現在、松山の若い世代は伊予弁より世にいう標準語を好むそうです。松山弁を愛する身からすると寂しい限りです……またしても脱線いたしました。
コミカライズではしっかり伊予弁を喋っているので可愛らしいです。是非読んでみてください!
原作を知らずに見る人であっても、ひどい表現をするならば決して「金返せ」と言われる内容ではないとは思います。
むしろ人によっては普通かな、を超えて良かったであったり気持ち良かったと思われるレベルの作品だと思います。スポ根を求めていた方は肩透かしだったかもしれませんが……
がんばっていきまっしょいが観る作品から外されがちなのがキャッチーな「泣ける、迫力ある、アツい、笑える」などの宣伝ワードを使えない部分にもあると思います。
この作品は言ってしまえば女子高生の日常を描いていらだけの作品です。
ただし、他の日常系と呼ばれる作品とは異なりキャラが金髪であったりピンクであったり、会話のほとんどにギャグのオチがつき四コマ完結のストーリーを繋ぎ合わせたものでもありません。本当に髪の毛が黒や茶色(赤い子もいますが)の平凡な女の子達が、楽しく気まずく時に熱く日常を過ごすだけのアニメなのです。
口コミをしようにも一瞬考えてしまう弱さが見えてしまうのが悔しいのです。
がんばっていきまっしょいのスタッフとキャストはアニメが好きな人ならば誰でも知っている名前が連なっています。詳しくないので明記はしませんが、某フリマアプリの特典転売価格を見るとEDを歌うアイドルもファンが多いようです。
私は鑑賞し特典含めて制作については贅沢にうまく回っているな、やれることをやれるだけやったんだなぁ、と感じました。
アニメーションの制作に関わったことがないので予算や人員、時間の配分については分かりませんが、他分野のことも鑑みると制約も大きかっただろうなと思います。
そんな中で原作有りとは言え、物語的にもクオリティも破綻ない作品に仕上がっているのは素晴らしいと思います。
私はアニメ映画化を夏前か夏に知り、Xの公式アカウントをフォローしました。上映が近づくとポストで気がつくだろうという程度の認識だったのです。ですので、広報活動については考えを述べられないのです。
しかし、なんとなく感じられることはただ、愛媛と作品とスタッフ、キャストそれぞれの露出バランスが微妙に噛み合っていなかったのでは?ということです。
ターゲットは学生だったのか、オタクだったのか、青春が眩しい大人だったのか、それによって軸になるアプローチするメディアとPRする内容も変わってくると思うのですが、どうだったのでしょうか。ターゲットが絞りきれず、たとえば出費が大きくなるWEBくじを実施するまでの知名度まだ到達してなかったのではないでしょうか?
私はこの事についてもっと真面目に見聞きして勉強しないといけないので何もいえません。
ただ、最近散見される百合商法(全然そんなに百合ではないのにそれっぽく見せて特定層を引っ張る作戦)をしなくても幼馴染夫婦に喧嘩ップルが出てきます。充分ではないですか。第2週の特典はどこから聞いても立派な百合です。
アニメオタク狙いならばこのような方面のPRもあったかもしれませんが、そう言う関係性を強調するのはがんばっていきまっしょいの狙う方向性とはズレてしまうと感じるので、受け手が盛り上がるのが正しいのでしょう。
がんばっていきまっしょいのリピート鑑賞の一つ大きなキーとなるのは特典であったと言い切れます。
特典はあくまで特典であり、ある層へ向けてのサービスではなかったということ、全方位に対応できる内容でした。これは大いに評価して良いところであると思います。
アニメ映画の特典は書き下ろしイラストのみ、というものが多いにも関わらず、ラジオとボイスドラマも付いてくる。ありえないボリュームです。豪華すぎる内容です。
興行的にも各種仕込みが語られた1週目の特典を聞けるかどうかも1つの分岐点だったとも言えると思います。仕込みを確認にもう1度劇場に足を運んだ人の割合は2週目の来場者の中で結構大きいのでは?と思っています。
某フリマアプリでの取引金額には首を傾げてしまいます。
さて、つらつらとまとまりもなく書き連ねてまいりましたが最後に。
私はこの作品が大好きです。正直、不安だらけで初回を鑑賞したにもかかわらず、上映後は自分の中で高打点を記録してました。これはSNSで推しても良い作品だと思い応援ポストや感想ポストをしてグッズはパンフレット以外にもちょこちょこと、果てにはコラボみきゃんまで購入しました。まだ上映期間中だというのにBlu-rayの発売を心待ちにしている自分がいます。
がんばっていきまっしょいは二度目以上でなければ本当にはわからない、初回は損はしないから見て欲しい、これに尽きます。
残り上映期間がどれくらいあるのかは分かりませんが、居住地方にまだ上映している映画館が有るならば、何度目の方でも足を運んでみて欲しいなと思う次第です。
まだまだがんばってーいきまーしょい!この気持ちが共有できればとても嬉しく思います。