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ケーキのない誕生日

術後5日目。退院したいという夢は脆く崩れさり、シャワーすら早くて明後日と説明された。
どうしてもこの日に退院したかったのは、実は誕生日だったから。40を超えて今更って皆思うかもしれないけど、それでもベッドの上で迎えるのと家で迎えるのは全然違う。
ケーキも食べられないし、夫からお誕生日おめでとうも直接聞けないし、朝からLINEでおめでとうと言ってくれたのは親くらい。

淋しい中で相変わらず病棟をうろうろ歩いていたら例のイケメン理学療法士さんと遭遇。
「◯◯さん(私のこと)、今日言わないといけないことがあって」と怖い切り出しをするのでビビっていたら「今日お誕生日ですよね。おめでとうございます」と笑顔つきで言われて拍子抜け。
イケメンは心臓に悪い(笑)
結果的におめでとうを言われたのは親、イケメン、夫の順番でした。

入院中は常に窓側のベッドにしてもらっていたが、ちょうど病院の前に小学校と中学校があり、折しも季節は秋。
運動会の練習が毎日続いてて、元気だなぁ若いなぁ可愛いなぁって思いながら窓からずっと見ているのは辛かった。
昔は小学生に関わる仕事ばかりしていたので、小さい子供が大好きで、だからこそ子供がまだいない自分の体が辛いのに。
病室のおばあちゃん達からは当たり前のように「お子さんは家にいてるの?」と聞いてくるし、私のお見舞いに親と夫しか来ていないのに何も見てないんだなと思った。
40代で既婚子なしは珍しいですか? 子供がほしいから奇形児の可能性があるステントじゃなくバイパスにしたくらいなのに…

この日くらいから折り紙でハートを折るようになって、お世話になった看護士さんにプレゼントして回っていた。
心臓内科、心臓血管外科だからハート。普通の折り紙の1/16の大きさで色んな色のハートを作った。
羽根付きハート、2色や4色のハート、チェック柄ハート、メダルハート、ネクタイハート、セーラー服ハート、ハートインハート、鶴とハート等。
看護士さん達の名札にしまえるサイズで、皆さん天使か女神にしか見えなかったので、感謝の気持ちをこめてハートをプレゼントした。

誕生日のケーキは退院したあとで買ってもらうと決めて、1日も早くシャワーを、1日も早く退院をと看護士さんにお願いしてばかり。
入院してから10日後に出掛ける予定があって、発表会のある習い事なのでどうしても休みたくなくて。でも帰れそうになかった。
病棟フリーから院内フリーになったので、この日は朝ご飯後に院内のコンビニまで行ってお茶を買いに行けて嬉しかった。
そのまま院内の投書箱に同室のおばあちゃん達の悪行をタレこんできた。パジャマで院内は目立つのでささっと病室に戻った。

この日の晩ご飯後、初めて同室のおばあちゃんの一人と、歯磨きしに行った時に話をした。同じ主治医の先生でたまたま家もご近所だった。
70代くらいのおばあちゃんで心臓に逆流が見つかって2回目の開胸手術をするらしい。開胸は大変だよと傷跡も見せてくれた。
他のおばあちゃんの変な所などを話してスッキリした。全員が全員、老害でもないんだなと思った。
それからそのおばあちゃんとはちょくちょく退院するまで、一緒に病棟を歩いたり歯磨きをしにいったりした。