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【お仕事図鑑 vol.16】 知財の仕事について〜業務内容からキャリアパスまで解説!
メーカーの技術を守り、活用するための仕事をしている知財(知的財産)部。いくつかのドラマの題材になってこともあり、少し聞き馴染みがあるかもしれません。
特許権や著作権といった知的財産を守ることは、自社の持つ技術やブランドを他社に模倣されることを防ぎ、自社の価値を守ることにつながります。また知財の活用は今後の事業や研究開発の方向性にも大きな影響を与えるため、経営とも密接な関係があります。
今回は技術・事業・経営全てのハブになる、知財の仕事について解説します。日本の知財は機械・IT系が強いため、食品業界に関わらず、ものづくりに興味のある方は知っておいていただきたい職種。ぜひご一読ください。
※実は私も特許事務所に事務職として勤務経験があります。その時、詳細な技術はわからなかったものの、知財業務の面白さと大変さを感じました。そのため、今回はちょっと語りすぎるかもしれませんがご了承ください。
そもそも知的財産とは?
一言で言うと知的財産は、人が考えて生み出したもののことです。知的財産基本法では、「発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの」と定義されています。
知的財産権には、保護対象ごとに特許権や商標権、著作権など6種類あり、どれも「自分のだから真似しないでね」と主張するための権利です。6つの権利の内、特許権、実用新案権、意匠権、商標権は産業財産権と呼ばれ、特許庁での審査によって権利を与えられます。
知財の仕事とは
一般的に「知財部の仕事」というと、メーカーでの特許関連業務を指すことが多いです。また、IPビジネスやレコード会社などのエンタメ業界では、著作権や商標権を扱う仕事が多く、求人サイトなどでしばしば知財関連の仕事に区分される仕事が混ざります。
※IPビジネス=ライセンスビジネスや、コンテンツ制作など、知的財産を活用したビジネス。例えば、人気マンガを映画化、ミュージカル化、関連グッズの制作販売、コラボ商品の企画などマルチ展開したり、その際の知的財産の正しい活用をサポートする。
ここでは王道のメーカー知財部(特許関連業務)について解説します。知財部の主な仕事は以下のとおりです。
知財戦略の立案
発明発掘
特許調査
権利化業務
ライセンス契約
異議申し立て・無効審判
特許侵害訴訟対応
新規事業開発
知財戦略の立案
企業の知財部の醍醐味とも言える仕事です。
知財戦略は、自社でどのような特許を保有し活用していくかを、経営や事業戦略を踏まえて策定します。今後の研究開発の方向性や、権利活用としてのビジネスの方向性にも影響を与える重要な戦略です。
また特許権などは国ごとに取得する必要があるため、海外展開を行う場合は、どの国で権利を取得するかも考えていきます。
知財戦略を考える際には、IPランドスケープと特許ポートフォリオを作成します。
IPランドスケープは、経営者や事業責任者の意思決定をサポートする資料で、市場環境に知財情報も含めて分析した資料です。市場のニーズや競合他社の特許出願状況から推測する研究開発情報などをまとめます。知財版マーケティング資料と考えるとわかりやすいかもしれません。
特許ポートフォリオは、社内の特許権を可視化したもので、自社の強みや特許間の事業の関連性などを確認していきます。
発明の発掘
発明の発掘とは、日々行われる研究開発の中で、特許権を取得しておくべき発明が無いかを探す業務です。
知財戦略も踏まえ、研究開発部門と連携しながら開発された技術の特徴や事業における重要性を考え、出願の要否を判断します。
実は特許権の取得は、時間もお金もかかります。そのため、無闇に出願することは大きなコストを発生させてしまいます。一方で、特許出願をしないことで、せっかくの発明が他社に模倣されると、技術の独占ができず、無駄にライバルを増やしてしまうことになります。こうしたコストと効果のバランスを考え、必要な特許出願を行うことが重要です。
特許調査
特許調査では、競合他社などの技術動向を把握します。他社の特許情報は、IPランドスケープの作成や、自社の開発内容・製品が他社の特許を侵害していないかを確認するのも役立ちます。
特許出願・権利化
特許出願を決めたら、必要書類を作成し特許庁への出願をします。特許権は早い者勝ちなので、権利を取得しなくても、出願をすることで他社の特許権取得を阻止することができます。
特許出願後、特許権も取得したい場合は審査請求を行います。その後は特許庁からの審査結果を見ながら、修正や追加資料の提出を行ない(中間処理)、権利獲得に取り組みます。
なお、特許の出願件数が多いメーカーでは、一部の出願・権利化手続きを特許事務所に委託しており、特許事務所のハンドリングも業務の一部になります。
ライセンス契約
特許権はライセンスとして他社に貸し出すことができます。その際、ライセンス契約を締結する技術やライセンス先、契約条件をすり合わせるのも知財部の業務になります。
自社技術を他社に貸し出すと技術情報が流出する危険がありますが、一方で売上の一部をロイヤリティとして払ってもらうことで、自社で製造・販売する以上の売上を作ることができます。
最近では、業界横断的なライセンス契約が増えています。例えば自動車メーカーが通信業界の通信技術を借りて(ライセンス契約をして)、スマートキーを搭載するといった事例があります。
異議申し立て・無効審判
特許権の取得が棄却された場合、出願人は特許庁に対して異議申し立てを行うことができます。また、他社の特許権に対し、利害関係のある企業や個人が特許庁に対して「無効審判」を申し立てることができます。
必要な権利の獲得と他社の権利の制限を通して、自社のビジネスが有利に進むようアンテナを張り、行動することも、知財部の重要な役割です。
特許侵害訴訟対応
特許技術を権利者以外が使うことは、特許侵害になります。メーカー各社は、他社から特許侵害を起こされることもあれば、他社に対して特許侵害訴訟を起こすこともあります。こうした訴訟に、弁護士や弁理士と連携しながら対応するのも知財部の仕事です。
最近の食品業界では、2016年に味の素が自社のアミノ酸の製造方法を模倣したとして、韓国のCJグループに対して訴訟を起こしています。
なお、特許侵害においては、パテントトロール対策も重要です。
パテントトロールとは、自社で事業を運営せず、特許権のライセンス料や賠償金を得ることを目的とする企業や組織、個人のことです。知財の当たり屋的な、ネガティブな意味合いが強い言葉です。
パテントとロールとの係争では、安易に和解金や賠償金を払うとカモにされてしまうため、対策・対応には注意が必要です。
新規事業開発におけるコンサルティング
新規事業開発を行う際、知財部がプロジェクトメンバーに入ることがあります。知財部ではIPランドスケープを把握しているため、新規事業を検討する際に、自社や競合が持つ特許技術を踏まえて、どのような技術を活用した事業が可能かを助言するできるためです。
知財のやりがいと大変さ
知財部は、自社技術を守り活用するため、メーカーでのビジネスにおいて重要な役割を果たします。知財業務のやりがいと大変さは以下のとおりです。
<やりがい>
・自社の最先端の技術に触れられる
・技術の知識を活かして経営に関われる
・グローバルな視点でビジネスに関われる
・技術、ビジネス、経営の全てに関われる
<大変さ>
・研究開発部と特許事務所の板挟みになる
・(特に中小企業の場合)知財に理解のある人が少なく評価されない
・法律で出願、権利化、各種係争対応の期限が決まっているため、業務過多になりがち
・最新の法律について常に勉強し続けなければならない
余談ですが、私が特許事務所に勤めていた頃は、大手クライアント(某機械メーカーさん)の方は、案件を抱えすぎて締め切りに追われ、電話の声が疲れていることが多かったです。企業にもよると思いますが、知財活動が活発な電機・機械メーカーの方は忙殺されていそうです。
※とはいえ、「法定期限が迫っているので、お早めに頂戴できないでしょうか・・・」と催促するのですが(笑)
知財に必要なスキル・キャリアパス
知財で必要とされる(身につけられる)スキル
特許関連業務の場合、技術理解と法律の知識の両方が必要な点が、知財でのキャリアの最大の強みでありハードルの高さです。
発明の発掘や権利侵害に関しては、競合他社の特許技術を知り、業界内での自社技術の価値を評価する必要があるため、広い視野と技術理解、論理的な思考が求められます。
その他、特許事務所と連携する、いわゆる外注コントロールのスキルや、開発部・経営層など多様な立場の方との連携が多いため、調整力や交渉力も求められます。
法務に関する資格一覧
弁理士
知的財産管理技能検定(1〜3級まであり)
知財関連職のキャリアパス
知財でのキャリアアップを目指す場合は、弁理士資格が必須になります。係争対応など特許庁を巻き込む案件では、弁理士・弁護士しか発言が許されない場面もあるからです。
社内でのキャリアとしては、研究開発部から知財部に異動するケースが多くあります。会社としては、自社技術に精通した人が知財部にいた方が技術戦略を立てやすいと期待できること、社員としては、研究開発は辞めたいが技術に関する知識は使いたいというニーズにハマりやすいためです。
なお、文系でも弁理士や知財業務に従事する人はいます。技術理解が難しいという方は、商標や著作権に関わる業務を中心に担います。また特許の出願・権利化手続きを行う特許事務職も、法律知識が身に付く専門事務職として活躍できます。
転職市場においては、企業の知財部と特許事務所の技術者(明細書作成等を行う職種)への行き来があります。
また弁理士資格の保持者では、自身で事務所を開業する方もいらっしゃいます(かなり参入は厳しいと言われていますが)。
まとめ
今回は、自社技術とビジネス、経営をつなぐ知財の仕事について解説しました。
あまり有名な職種ではありませんが、理系の知識と経営視点の両方を合わせ持って活躍できる貴重なポジションです。理系技術職の場合、研究開発や工場勤務が多くなりがちですが、こうした技術の現場から一歩引いて経営に関われる点は大きな魅力になります。
技術職が合わないと感じた時には、知財へのキャリアもぜひ検討してみてください。
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