それよりも辛かった事②
ある時、こんな事があった。
父が台所から包丁を持ってこちらに歩いてきた。
結論から言うと、テレビか何かのコードの被覆を切る為だったのだか、その姿を見た私は
『母が刺される』
と思ったのだ。
いつも家にいる時は恐怖と隣り合わせだった。
言いたい事が何も言えず、人と違う毎日を過ごし、家にいてもいなくても心休まる時がなかった。
母が刺される、と思った時
でも、きっと私のことは刺さないだろう、
そう思った。
なぜそう思ったかは分からない。だが確信はあった。
だから私は静かに母の前に移動したのだ。
小学校まだ低学年だった私が、だ。
宗教の教えの中で理にかなってる部分はある。
それらを信仰し、命をかけて全うする信者達にも尊敬に近い気持ちを今でも抱いている。
だが、
母が刺されるかもしれない、でも私の事は刺さないかもしれない、と静かに母の前に出た小さな私の、その瞳は一体どんな色をしていたのだろうか。
母を守る為、そんな行動を取らざるを得なかった小さな私に、信仰や真理は一体どのように平安をもたらしてくれるというのか。
辛い事や悲しい事が他にもたくさんあった。
どれだけ我慢をしてきたことだろう。
大概のことは耐えられた。耐えてきた。
でも、その日の出来事がわたしの中で色濃く残り、その痛みはいまだ癒えてはいないのだ。
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