タイムリープの権利を失った話
娘が生まれた時点で、私はその権利を失った。
タイムリープをしたいと思ったことはあるだろうか。
ここでいうタイムリープとは、意識だけが過去の自分に戻ることをいう。ふと気付いたら、子供の頃の自分の体に入っていた!というようなやつだ。
当然ながら、それまでに過ごしてきた記憶や知識は全てあるものとする。
つまり、人生のやり直しとも言えるかもしれない。ゲームでいうところの「強くてニューゲーム」ってやつだ。
私はある。数え切れないくらいにある。
それは「あーあ、あの時に戻れればなぁ」程度ではなく、結構ガッツリ妄想をする。
勉強に力を入れて、違う大学に行って、違うところに就職してみたいとか。
習い事をして、全く違う特技を手に入れてみたいとか。
はたまた、早くからあれこれ学んで今の仕事に役立ててやろうとか。
一通り妄想をして、妄想の中で普通に壁にぶち当たって、「ま、そんな上手くいかんよな」ってなるのがいつものパターン。
当然ながら、私が実際にタイムリープを経験することはないと思うので無駄な妄想といえばそうなのだけれど、とにもかくにも「宝くじが当たったらなぁ」と同じくらい、子どもの頃から何度も何度も繰り返していた妄想だ。
が、最近、少し状況が変わった。
私はタイムリープの妄想が出来なくなった。
具体的に言えば、娘が生まれてから。
なぜなら、タイムリープをしたとしても、私は絶対に絶対に、遺伝子情報が寸分違わぬ「今の娘」に会わなければならないからだ。
これは妄想を繰り広げる上でかなりハードルの高い縛りだと思う。
その縛りがある時点で、私は同じ人と結婚せねばならず(誤解がないように書くが、今の生活に何か不満があるわけではない)、なんなら結婚する時期も妊娠する時期もずれてはいけない。
全く同じ道筋を辿っても、もしかしたら生まれてくる子は違う子かもしれない。
私は妄想に関してはかなり本格的に行うタイプなので、産院で出産して「元気な男の子ですよ」って言われる瞬間を思い浮かべて絶望した。
感動の瞬間のはずなのに、きっと私は絶望する。
そんなのはいけない。
息子(想像上の)に失礼だし、許されることではない。
娘が生まれたところで、もしも顔が違ったら、声が違ったら、性格が違ったらと思うと怖ろしい。
そうなったらもう、私はタイムリープなどするべきではない、となるわけだ。
私はもう、タイムリープができない。
タイムリープについて楽しく妄想することができない。
それはとても悲しいが、いつか娘がタイムリープについて妄想を膨らませる日が来るのなら、この気付きを伝えたいなと思う。
タイムリープは出来るうちにやっておきなさい、と。