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すずさんの故郷 江波の思い出 その②「給食のパン」

ある日 親友の梶野くんが学校を休みました
当時、誰かが学校を休むと
近くの家の子が給食で出たパンを届けに行くことになっていました
平井先生は迷うことなく私にパンを手渡し
私も笑顔でそれを受けとりました

いつもなら学校から一旦帰って
カバンを置いてから遊びに行かなければなりませんが
そういう理由があれば下校時に直接寄ることができます

ところが 下校時に捨て猫を見つけてしまったために
すっかりパンの事を忘れてしまったのです

気づいたのは夕食も済ませ
風呂から上がった時でした
明日の時間割をしようとランドセルを開けたら
パンがコロコロって転がり出たのです

 そのパンどしたん?

母親が何気なく聞きました。

 梶野くんが休んだんよ、忘れとった

と笑って誤魔化したら母親の顔色が変わりました  

 あんた 先生から頼まれたのに ええ加減なことしんさんな!

今から持っていけ!と家を追い出されました
今からと言ったって、もうどっぷりと日は暮れています
こんな暗闇の中、山の上まで行けるわけがありません
それに、梶野くんちだって もう寝ているかもしれません

家の外でメソメソ泣いていると
二つ年上の姉が家から出てきました

 一緒に行ってあげるけえ、はよう行かんと叩かれるよ

暗い山道を当時小学校4年生の姉と恐々歩いて上がりました
(もちろん最後は蔦のツルを頼りにです)

もう布団を敷いて寝ようとしていたらしい梶野くん一家でしたが
用事を告げるとひどくビックリしたようでした

 明日でもえかったのに
 わざわざ?そーねえ、ありがとね
 ええ子じゃねえ

梶野くんのおばちゃんは
私と姉の手に飴を一つづつ持たせてくれました
江波山の頂上
梶野くんの家からは遠く広島の夜景が一望できました
その夜景の美しかったこと
飴の甘酸っぱさ
おばちゃんに褒められた照れ臭さ
姉が一緒にいてくれる安心感
ちゃんと言いつけを守れてホッとした気持ち
それやこれやが星のように夜空で輝いていました

すっかり忘れていましたけど
「この世界の片隅に」をみていて
思い出しました



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