株式会社の吸収合併に関わる手続と会計処理

概要

 クラアントからグループ内での再編(吸収合併)を考えている、と相談がありました。そのような相談があった際の自分なりの初期的な対応や依頼資料、合併に必要な手続、会計処理等をまとめています。
 なお、以下の別記事で債務超過会社である100%子会社との合併について記載していますが、本記事は債務超過ではない会社との吸収合併を想定しています。

合併とは

 合併は会社法に定められる組織再編行為です。これには新設合併と吸収合併との2種類がありますが、実務上用いられるのは、大半は吸収合併かと思います。新設合併の場合は、新たに会社を設立しなければならず、その手続や検討事項が吸収合併と比較して煩雑だからと考えています。
 また、合併相手に関しては、M&Aの手法として第三者との合併を検討することもあるかと思いますが、多くはグループ会社間での合併(M&Aにおいても株式譲渡による子会社化後、一定期間を経たのちの合併)が占めるかと思いますので、グループ会社間の合併(特に100%親子間の合併)を念頭に置いて記載しています。

初期的な対応(依頼資料と確認事項)

 合併の手続きに関して、原則的な対応が必要な場合と簡便な手続きが取れる場合等、状況によって取れる対応が異なります。クライアントから相談が来た際、それらを踏まえながら今後の手続を考える必要があります。まずは組織再編の背景・目的などをヒアリングしながら必要な資料を依頼していきます。その際の初期的な依頼資料を以下の通り整理しています。

■依頼資料
・各社の直近の決算書(少なくともBS)
・各社の登記簿謄本(全部履歴事項証明書)
・各社の定款
・子会社株式の簿価がわかる資料(勘定明細や有価証券明細)
・各社の税務申告書
・各社の保有する許認可の一覧

■確認事項
・5年以内の組織再編の有無
・人事制度や退職金制度の違いや会計システムの違い 等

合併スケジュール

 検討をスタートしてから効力発生日まで最短2,3ヶ月。これに親会社が上場会社の場合の株主総会との関連、許認可の再取得に必要な期間等を踏まえて合併全体のスケジュールを考えていきます。
 実務上は取締役会のスケジュールや事前説明、各種書類作成に必要な期間などを踏まえて計画し、最終的には日次スケジュールまで落とすようにします。

合併に必要な手続(会社法関連)

 一般的に必要な手続としては、合併契約書の作成・締結、取締役会の決議、事前書面の備置、株主総会決議、債権者異議手続、株主への通知(反対株主買取請求関連)、合併に関する登記、事後開示書面備置あたりが挙げられます。これに定款変更(公告方法の変更、事業目的の変更等)が加わったり、上場会社の場合は適時開示や東証への資料提出が加わります。
 上記の一覧の手続を、存続会社と消滅会社との双方で整理するとともに、スケジュールに織り込んでいきます。
 また、合併には略式合併と簡易合併が別途存在し、一定の要件を満たす場合には、株主総会の決議を中心に一部の手続を省略して行うことができます。略式合併の要件は比較的シンプルですが、簡易合併の要件は若干迷うところもありますので、そちらは以下の記事をご参照ください。


合併の会計処理

 100%親子会社間の合併の会計処理自体はシンプルです。親会社を存続会社とした場合、子会社の資産負債を簿価で受け入れ、子会社株式を落とすとともに、生じた差額を抱き合わせ株式消滅差損益として認識します。
 ただし、受け入れる子会社の資産負債の簿価は、子会社の個別財務諸表上の簿価ではなく、連結財務諸表上の簿価を使用する点には留意が必要です。例えば、連結上で土地の評価替え等を実施している場合には、当該金額で存続会社に資産を受け入れます。また、連結上でのれんが計上されている場合は、当該のれんも親会社の個別財務諸表上に計上されます。

その他の検討事項

 合併の税務は別途記事を執筆して整理予定です。税制適格/非適格、繰越欠損金の利用制限あたりが主要論点になります。
 各社の人事制度や会計システムの統合あたりも合併に際して検討すべき事項になります。合併後の人事制度の詳細な検討を行わず実施した場合、想定していた合併効果が生じることが遅れることもあります。また、合併後の会計システム(業務フロー含み)の運用方法は、事前検討が漏れていると苦労する領域でもありますので、必ず方針は検討するようにします。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?