オーガニックの真実
<目次>
1. はじめに
2. 有機食品のウソ・ホント
・有機食品は本当においしいのか?
・有機食品は健康にいいのか?
・どうして有機食品を選ぶのか?
3. 日本の有機認証システムの最大の問題点
・有機認証にかかる費用は、1年間で数十万円
・有機食品のサポートのアイディアあれこれ
4. まとめ
はじめに
スーパーでたまに目にする有機(オーガニック)食品。
実際にスーパーで買ったことがある方は、この記事をお読みの方の中にどのくらいいらっしゃるだろうか。
買ったことがある方、購入の動機は?
おいしそうだったから?
パッケージがかわいかったから?
健康によさそうだったから?
農薬や添加物が使われていなさそうだったから?
買ったことがない方、その理由は?
高いから?
野菜や果物の形がふぞろいだったから?
そもそも近くに売っていないから?
有機JASマークの認証制度が平成13年に施工されてから、今年で16年。
思い返せば、私が食品専門の商社に入社して、一番最初に任せてもらった私主導の大きなプロジェクトが「新たに施工される有機JASの認証制度について対応すること」だった。
要は、「会社として有機の認定事業者の認証を取ること」と「有機商材を輸入して販売するまでのシステムを構築すること」だ。
制度としてまったく新しい、今まで前例がないシステムということで、形にするまでに非常に苦労した覚えがある。しかし、おかげで有機食品については会社の誰よりも詳しくなったし、コンサルとして独立した今でも引き続き動向を追っているので、かなり細かい情報を持っていると自負している。
ゆえに、記念すべき第1回目の投稿は、得意分野かつ思い入れが深い商品のひとつである、有機食品、つまりオーガニック食品について書こうと思う。
有機食品のウソ・ホント
●有機食品は本当においしいのか!?
「おいしい」と断言している人はいるが、味覚は主観的なものなので、答えは食べた人が決めるべきだというのが、私の考え。正直に言ってしまうと、「有機食品だからおいしい」わけではないと思っている。非有機でもおいしいものはあるし、有機でもイマイチなものはある。
ただ私は、「東京のスーパーで売っている農産物に限っていえば、非有機よりも有機のほうが、明らかにおいしい」と思う。加工食品になってしまうとあまり感じないが、農産物そのものの場合、明らかに野菜の味が濃いのだ。
東京のスーパーに売っている農産物に限っていえば、と書いたことには理由がある。イタリアの野菜は、有機として売られていないものであっても、野菜の味が濃く、野菜本来のうまみがぎっしり詰まっていると感じることが多いからだ。もしかしたら、生産者規模の違いによる、作物栽培への手間のかけ方も関係しているのかもしれない。
それに対して日本の農産物は、概して味がないものが多い。東京のスーパーで売られている野菜を買うと、それを顕著に感じる。東京のスーパーで見つける日本の農産物で、うまみがしっかりあると思うものは、野菜コーナーの隅っこでたまに見かける有機農産物だけだ。
●有機食品は健康にいいのか!?
「健康にいい」と断言している人はいるが、私は必ずしも健康にいいわけではないと思っている。これは、現行の日本の有機JASの制度を正しく理解している人であれば、同じ意見だろう。
例えば、フィトケミカルの問題がある。フィトケミカルとは、野菜や果物に含まれる植物自身がつくり出している化学成分だが、農薬を使用しない過酷な環境に置かれることによって、植物の防御本能が働き、このフィトケミカルのリスクが高くなるという話を聞いたことがある。要は、環境や病虫害に対抗するために植物が生成するフィトケミカルが、果たして人間にとって無害だと言い切れるのか、ということだ。
更に、有機栽培された作物のほうが、微生物汚染のリスクが高いという論文も読んだことがある。
つまり、人間の健康面から考えた場合、有機も非有機も、それぞれ別の視点での健康危害のリスクはあると思っておくほうがいいだろう。化学的な危害はもちろん有機のほうが低いだろうが、人体の健康を考えた時に、完全に安全だと言い切れるものなど存在しないのだ。
●どうして有機食品を選ぶのか?
既に述べたように、有機食品は、「必ずしもおいしいわけではない」、そして、「必ずしも健康にいいわけではない」ものだ。
そんなものに、なぜ付加価値をつけて販売するのか、なぜそんなものを高いお金を出して買わなければならないのか、という意見があるだろう。この部分を明確に説明していないことこそが、日本で有機食品が広まらない理由でもあると思っている。
「何のために有機食品が生み出されたのか?」
この問いに対する答えはシンプル極まりない。
「地球を守ること。」
それだけだ。
つまり、化学農薬や化学肥料、遺伝子組み換え作物を排除することによって、地球がもともと持っている環境と、健康な地球が育んできた自然な生態系を守るために、土壌や環境に負担をかけないよう考えられたのが、有機農法なのである。
以前イタリア人との会合で、なぜヨーロッパで有機食品が普及したかという話になった時、「キリスト教的なバックグラウンドが影響している」という意見があった。
つまり、人間だけの都合を考えればいいのではなく、地球とそこに住むすべての生物を守ることが大事で、その姿勢を貫くにはキリスト教の相互扶助の精神が影響しているのではという話。
別に欧米に限らず、世界中のどこにだって相互扶助の精神はあると思うが、それを社会的なムーブメントにつなげることができたのは、やはり欧米という土壌が必要だったのかもしれない。
日本でも「安いものを買う」ではなく、「地球のためになるからこちらを買う」という意識の人が増えれば、市場における有機食品の認知度は格段に上がるだろう。
日本の有機認証システムの最大の問題点
「有機食品は高いから」、「売られている場所が近くにないから」、「品目が少ないから」など、消費者が有機食品を買わない理由は色々あると思うが、今日はこの問題を、需要側(消費者)でもあり供給側(販売者)でもある者として、生産者視点で論じてみたい。
●有機認証にかかる費用は、1年間で数十万円!?
有機認証と維持管理にかかる時間と費用は、なかなかの負担だ。
かつて私が商社時代にかかわった有機認証システムは、一番シンプルと言われていた輸入者としての認証だった。それにもかかわらず、人件費を除いても年間15~20万前後の費用が必須。費用の内訳は、認証の維持管理のための検査費用、検査員の交通費や日当、有機JASマークの印刷費、分別管理するためのコストなど。この費用以外に、有機として認定した状況について記録しておく帳票の作成管理、通常の食品以上のレベルを要求される清掃などが義務付けられ、人件費も確実にかさむ。つまり、有機だけで何千万と売り上げているような大手はともかく、有機商品の販売金額が数十万~数百万の小規模生産者には、気軽に始められるようなものではない。
基本的に、有機認証の維持管理にかかる費用は有機食品の販売金額に上乗せすることになるので、物量は多ければ多いほうが、按分して上乗せする金額は小さくなる。ゆえに、小規模生産者が有機食品を売ると割高になってしまうのは、必然なのだ。
結果として、売り手も買い手も、資金力に余裕がある中~大手に軍配が上がる形になって、小規模生産者にとっては不利。小規模でも生き残っていけるのは、自社の商品をブランド化することに成功して、オーガニックの中でもひときわ高い価格で販売することができるようになったほんの一握りの事業者のみに違いない。
そういえば、ビジネス上で頻繁に私と交流があるイタリアでは、認証の取得維持に割く資金と人手が不足しているために、有機と変わりない農薬基準でつくっているにもかかわらず、非有機として売っていると話していた生産者が何人もいる。この状況は、日本も恐らく同じだろう。
●国や地方自治体に期待!有機食品サポートのアイディアあれこれ。
有機農業を推進するために、農水省主導で補助事業が行われているようだが、どうもピリッとしないという印象を持っているのは、私だけではあるまい。
ビジネスとして収益を上げる仕組みを作る際、一番問題になるのは販売の部分のはず。有機として販売するにあたっては有機JASマークの認証取得が必須となってくるのだから、有機JASマークの認証の維持管理にかかわる費用を国が一部負担する仕組みをつくるほうが、長続きするビジネスが構築できるのではないだろうか。
また、有機農法を取ることは、使える農薬が限られている以上、病虫害のリスクが高い。病虫害の被害を受けた農家に対し、特別の低い金利で融資を行うような制度も必要になってくるだろう。
あとは、農産物に関しては、地方自治体や農協が包括的に認証を取得できる仕組みをつくること。個々の生産者では実現できないことを、組織を活用して推進できないものだろうか。たとえば、とある地方でまるまる有機農法を推進して、地域ごとブランド化してしまうことも有効だろう。
このような対策の実現は、民間で進めようとしても難しく、まさに行政主導で動いてもらいたい分野だ。せっかく存在する既存の補助事業を無駄にしないために、行政に対しては、実利が伴う対策をお願いしたい。
まとめ
常日頃思っていたことを一気に吐き出したが、私自身は有機農法の趣旨に賛同しているし、市場が広がることを期待している。
とはいえ、有機食品が日本の市場でまだまだ手に入りにくいものであることは事実だ。
フリーのコンサルという立場で現在の私にできることは、正しい情報の発信と、海外、主にヨーロッパの優良なオーガニック製品の紹介くらいだが、制度の創成期から深く関わる機会があった分野として、今後も市場を見守っていきたい。
(2017年10月21日・Naoko Tamura)
<プロフィール>
Naoko Tamura
貿易&食品ビジネスのコンサルタント。
14年にわたる商社勤務を経て、2012年2月に独立。長年現場で培った経験を踏まえ、日本と欧州各国を往復しながら、国内外の輸入卸商社や食品生産者、イベント企画会社のアドバイザーとして、日本と海外の会社の取引を円滑に進める助言や、国内外の市場での新商品開発・販路開拓・マーケティングのサポートをする。
法人だけでなく、海外事業やキャリア形成に関心がある個人事業者向けにも、コンサルやセミナー実施実績あり。
東京外国語大学イタリア語学科卒業。アメリカ、スペインに長期留学経験あり。東京都在住。
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