【つくる人たち】ARBOL ICE CREAM

熊本市中心部で毎月第3日曜に開かれているマーケット、FARMSTAND ON SUNDAYSの参加者を紹介します。
今回は熊本県山都町でヴィーガンアイスとグルテンフリーの焼菓子を販売している「ARBOL ICE CREAM（アルボ・アイスクリーム）」です。

　山都町（やまとちょう）は九州の中心に位置し、阿蘇南外輪山と九州山地に囲まれる高原地帯です。東西に向かって五ヶ瀬川と緑川、山間部からは数多くの水源が流れています。山の稜線、風をそよがす川の流れ、季節を彩る棚田と棚畑。その美しい自然は今も昔も変わることなく豊潤な風景を称えています。

　2022年の初夏。その豊かな自然の中に小さな種が生まれました。スペイン語で〈大きな木〉を意味する「ARBOL（アルボ）」。「この大地の上で地域の人々と共に呼吸し、深く広く根を張って、いつまでも山都町の素晴らしい自然と共にあれますように」との願いで名づけられました。

　オーナーの藤川里奈さんがはじめてヴィーガンスイーツに出会ったのは、5年前に旅したロサンゼルスでした。「その後、コスタリカ*で食べた老舗店のオレンジ色の定番ジェラートも感動的でした」。シンプルで、素材の味をしっかり感じたそうです。「体にも環境にも良いし、次やるならこれしかない」と決意し帰国。東京で修行を重ね帰郷し、パートナーの齊木龍一郎さんと、街の中心部で空き家になっていた写真館をリノベーションしました。

コスタリカは、所得がアメリカより80％低いにもかかわらず、平均寿命は高く、環境への負担を最小限に抑えながら高水準の福利を実現しているという点で、世界で最も生態系に配慮した経済の一つとみなされています。

「店を始める時に決めたことがある」といいます。それは、

• 山都町をメインに、できるだけ近くで穫れた作物を使うこと

• できる限りゴミを出さない方法で製造・販売すること

• 使い捨てのお手拭きやペーパー、ストローは使わないこと

• 生ゴミは土に還すこと

• 出荷できない果物や野菜を優先的に使うこと

• 紙袋やDIYに使う板やお店の棚や机は、新しいものを使わず、使われなくなったものを再利用すること

　こうして、齊木さんの営む自家焙煎スペシャルティコーヒー専門店『Appartement（アパルトマン）』と同じ屋根の下で『ARBOL ICE CREAM』がスタートしました。

　フレーバーはその季節に穫れるものを使って作ります。ストロベリー、ブルーベリー、柿、柑橘、プラム、梨、お茶などなど。山都町の豊かな土壌が育んだ力強い果物や野菜に、味噌や糀などの発酵調味料とハーブやスパイスを合わせています。グルテンフリーで乳製品・白砂糖も使いません。「素材を見てからイメージを膨らませ、導かれるように自由に作っています」

「世の中のほとんどの食べ物って、作ってから食べるまでひょっとしたら半年とか、めっちゃ時間かかってますよね。環境のこと、ずっと私はやりたくって。〈豊かな自然を守りたい〉とか〈森を守りたい〉が最終目的なんですけど、そこを訴える環境活動って凄く難しい。でも今、アイスで表現できてる。どんな材料を使って、どういう方法で食べてもらうかとか、どう梱包するかってことで表現できてるなって」

「それに生まれた場所で、祖父母が植えた木々や作物を季節ごとに収穫しながら、過去と未来に想いを馳せることができる。今が幸せです」と目を細めて言いました。

　振り返るといつもそこにあって、そのことで安心できる。そんな世界があることに私たちは救われます。でもそれを守り続けることはとても難しいこと。だからこそ、価値あることなのかもしれません。

Text & Photo : Yoshikazu Shiraki

ARBOL ICE CREAM / Appartement
〒861-3513 熊本県上益城郡山都町下市57 旧東写真館
080-1748-5801
11:00 - 17:00
不定休（Instagramを確認ください）
@arbol_icecream_sandwich / @appartement_coffee
https://arbol-yamato.stores.jp / https://www.appartementcoffee.com