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延長先生

妻から送られてきたLINEのタイプミス。正しくはもちろん「園長先生」なのだが、延長先生がいてくれたらいいなと思った。

―まだ眠いんですけど二度寝してもいいですか?
延長先生「しかたないですね。あと30分だけですよ」

―今日までって言っていた仕事、ちょっと終わりそうにないのですが…
延長先生「うーん、来週出してくれればなんとかします」

―あれ、もう時間だ。もうちょっと歌いたかったな。
延長先生「1時間無料で延長しましょう」

―妻や子を残して逝くのが心残りだ
延長先生「まだまだこっちに来るには早いですよ?」


「人生はいつも、ちょっとだけ間に合わない」

これは、僕の好きな映画「歩いても、歩いても」に出てくるセリフだ。

(以下、ちょっとだけネタバレがあります)

お盆に実家に帰省して、とある力士の話になったが結局名前が出てこず、帰りのバスの中で名前を思い出した主人公が、いつもこうなんだ、と言う。

父親とは今度孫を連れてサッカーの試合を見に行こうと、母親には今度車に乗せて買い物に連れてってやると、それぞれ約束したが、結局その約束が果たされることはなく、何年かしてから両親は亡くなったとモノローグで語られる。

あぁ、あの時こうしていれば......と気づくのは、いつもその機会をすっかり逃して、取り返しがきかなくなってからだ。人生はいつも、ちょっとだけ間に合わない。それが父とそして母を失ったあとの僕の正直な実感だった。

是枝裕和監督自身もそう書いているように、何気なく過ぎていく日常の中で、僕らは「いつでもできる、いつかできる」と思うことをついつい後ろにやりがちだ。

今はこれをやらないといけないから延長します、これは今じゃなくてもいいので延長します。そうしているといつの間にか延長できなくなって、自らを悔いることになる。人生はそんなことの繰り返しだ。

老いてゆく両親と、日々成長する子供を見ると、先送りにしているもののうち、本当に逃してはいけないものは、思い立ったらすぐ行動するようになった。

いつの日か、本当に延長できない日は誰にでもやってくるのだ。

なるべくなら、1日でも多く生を延長して、タスクは延長しないように終わらせたいものである。

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