アルザスに対する対独復讐を正当化した芸術絵本
アンシ 『トリコロールの楽園』 1918年 パリ刊
Oncle Hansi (Waltz, Jean-Jacques), Le Paradis Tricolore, Paris, 1918.<R20-250>
31x21cm, 37pp, original pictorial binding, title pasted on front cover, stain and damage on top of front and rear cover, not affecting on the contents
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アンシ(Oncle Hansi: 1873-1951)は第一次世界大戦前後に活躍した風刺画家で、本名ジャン-ジャック・ヴァルツ(Jean-Jacques Waltz:1873-1951)といいます。彼はドイツ帝国に割譲された後のコルマールに生まれ、新聞や文芸作品での風刺漫画を通じてアルザスにおけるドイツ化政策への批判を展開していました。
1914年にフランスに亡命し、直後に勃発した第一次世界大戦でフランス軍に志願するともに諜報部対敵宣伝部に配属され、イラストや漫画にてフランス国内での対ドイツ復讐感情の盛り上げに従事しました。本書もその一貫として1918年に刊行された絵本でした。
アンシにとって敵であるドイツが差別的な表現や言葉で描かれていることは言うまでもありませんが、同時にアルザスについて、牧歌的な自然風景、伝統衣装に身を包んだ子どもたち、大聖堂、木骨造の家、フランス軍を解放軍として歓迎する民衆など、「典型的」とされるアルザスの風景を描き出しています。
こうしたアンシによる作品は、『最後の授業』と並んで、フランスを愛してやまないという、実情とは異なるアルザスの神話的イメージの構築と拡大に貢献したといわれています。
一見すると子供向けで、色彩の美しいかわいらしい絵本ですが、対独復讐により増幅されたフランスナショナリズムのアルザス地方への偏見やイメージを確認できる一冊です。
参考文献:市村卓彦『アルザス文化史』2002年 人文書院
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