いつも通りあいつは配慮が足りない
「良い感じだ、凄いぞこの力! これで絶対やり返せる。」
天候は曇り空、時間は闇夜、違法駐輪の並ぶ路地で恐ろしい言葉が響き、厄介な光景を目の当たりにしたのを覚えてます。その場の暗黒を照らす電子蛍光灯のまぶしさをよそに経過観察を続けたかいあり。対象が最終目的ではないことは確認できたので、第二フェーズに移行して、さっさと終わらせようとその時は思い立ったちましたよ、ただ彼が最近姿を見せていなかったので手をこまねきました。何度も連絡はしてる。なんなら履歴もここに証明してもいいくらいです、できませんが。
ただ運のいい事にと言っていいのか、今日、彼は見合わせたかのように到来しましたよ。急に来たんで思わず声を上げてびっくりしそうになった事を思い出しました。
「あれか? 目的のやっこさんは。」
「最終目的ではないですけど、手掛かりになりそうなのと、削除対象だと思います。」
「じゃーぶっ飛ばすか。」
それからアイツは早々に行動を決め始めようとして、止める隙すらありませんでしたよ。本当に話を聞かない、行動が直情的、協力者としてはどうなのか。
「どうする、まずはあいつらに試すか?」
「だが残念、そうはいかない。」
もう声をかけていました。様子見とか一切ありませんでした。その時薄っすら聞こえた試し相手としてこいつをささげたいくらいでした。
始まってしまったからには手をこまねいているわけにはいきませんので、きちんと参戦するつもりでしたよ。
「誰だ。」
「ただの同類で良いか?」
けれどそれよりも先にすぐさま走り出したのは彼、対象に警戒心はあるものの油断もあると踏んで近付こうとしたのでしょう。
「あば」ただ彼にも油断がありました。とても軽快な音で自転車を踏み抜き、バランスを崩した阿呆を対象は少し見るや背後に向かって走り出します。
「なんだこれ!」
「また油断。」
「捕まえるから黙らっしゃい!」
そんな指摘にもめげずに、逃げた対象の追跡はキチンと始めましたよ。
その際、対象と彼の後を追う間際、横目であるものが移りこんできました。不確定要素ですがもしかしたら今回の手掛かりになりそうでした、なのでしっかり記憶はしましたし、後ほど別紙に起こしておきます。
追う中でどうにも人気がない路地、公園、夜道の通りを対象はひたすら駆けている様子でした。人のいない道ならさすがに彼が追いつくと踏んで任せてたのですがね。ダッタカダッタカと一部分をやたら走り回る彼に追いつきました。
「まずった、どうしよう」
「はあ、足の速いこと、対象は?」
「あー、どっかいっちった」
「ふざんけんな!」
「屋根とか塀を伝ってたらその辺から見失っちまってよぉ」
ムカつくことに相手はこの阿呆からどうにも振り払えないと考えたのでしょう、途中から姿が見えなくなったので阿呆のせいで一度見逃したしたことを記しておきます。民家の並ぶ道路、隠れるポイントは少ないはずなのでここからは自分で探すことにしました。まっさきに目に留まったのは工事用資材らしきポールのような束。なんだか隙間が開いていたのでその裏を覗いて務めを果たしましたよアタシ。
それで思いのほかあっけなく見つかりましたよ。これ以上逃げられても面倒なので不意に背中を触り、追跡マーカーをつけることに成功しました。本日一番の功績です。
よく見るとその反対側からすでに彼が逃げ道を塞ぐように顔をのぞかせてました。なんと不用意な。
「めーっけた」
「なんなんだよお前ら!」
「逃げたくなるかもしれねーけど、逃がすわけにゃいかんのさ、で」
追い詰めなければこの後の始末を着けなくて済んだものを、彼は考えなしに行ったのです。その成果はすぐに出ましたよ。本来なら普遍的なこの世界でそんな事が急に始まったのです。 対象が、両手から怪奇現象を産み出してくれました。
両の掌を違わせるようにしっかり合わせその平手を擦りながら指先を上下入れ替えるよう同時にひねる、そして手のひらを対象に押し付けます。たったそれだけです。するとどうでしょうか。モノが吹っ飛ぶ吹っ飛びました。
事実、少年がポールをふっ飛ばしました。上空数メートルに散らばるその資材はまるで綿毛のように舞った後、重力に従い始めます。ポールの雨だと思いました。
「あー! てめえ!」
「止めなさいよ!」
「今からやる!」
本当に不用意すぎたから追跡マーカーが今日一番の功績でしたよ。