
日本の大学は留学生獲得競争に生き残れるか?
気が付けばもう2月。光陰矢の如し😿「日本の大学よ変われ」シリーズの(下)。この記事は、日本の大学の留学生獲得競争について。
1.留学生獲得の課題は何か?
ざっくりと記事の要点は以下の通り
留学生希望者のインセンティブは、留学のコスト、卒業後のキャリア、移民の機会(つまり、留学はゴールではなくあくまでプロセス)。
留学生の半分近くが米英豪加に行く。
現在の潮流は、「グローバル化による自由市場」から「政府介入による流動性管理・統制」時代へ。
(おそらく2と3の要因から)アジアにはチャンスがある。アジアは最大の留学生供給地域。
ただし、日本の状況はそこまで楽観視できない。
①バイリンガル化の遅れ(言語障壁)
②世界標準に乗り遅れている教育・研究
③日本経済の長期低迷
④大学の留学生募集と入学者選考(アドミッション)の問題授業開始2カ月前までオンラインで出願でき、書類審査だけで応募1週間後に合否通知があるのが世界標準。
日本のほとんどのトップ大学には付属語学学校がなく、日本留学の時間・経済的コスト、大学進学へのリスクは高い。
と見られてしまっている。留学生の国内就職を促すためにも、有力大が日本語教育に本腰を入れるべきだ。
日本人学生で定員が埋まる有力大ほど受け入れの動機が弱く、定員割れの大学や大学院ほど受け入れやすい状況は留学希望者の意向と合っていない。
少ない紙幅で盛りだくさんの論点。とても勉強になったた。
2.日本の大学の課題
欧米が全体的に移民を厳しき制限し、その余波が留学生にも及んでいることは悲しい事ではあるが、アジアにとってはまたとないチャンスである。長期的な円安傾向も日本の留学生獲得にとっては追い風となるはずで、コスト面で日本はかなり留学しやすい国になったと言える。
上記のような構造要因があるものの日本の大学には課題が多い。どんなに留学をプッシュする要因があっても肝心の大学のカリキュラムが旧態依然としたものであれば、留学生獲得にはつながらない。
その上で、日本の大学の課題。教育の空洞化の話の時とは真逆で、構造的問題でどうしようもないという論点は少なく、現場の努力でやりようはいくらでもあるというのが留学生対策の本質のように思う。
上でリストした要素のうち、実質的な問題点である5以降を見て行こう。
①バイリンガル化の遅れ(言語障壁)
ある程度きちんと大学教員やってたらこの辺は非常によく目につくところではある。授業が英語ではない、資料が英語ではない、英語でアクセスできる教材がないというのは留学生にとって地味に障壁である。
②世界標準に乗り遅れている教育・研究
記事では必ずしもきちんとこの部分を議論しているわけではない。なので実際のところ著者の方が日本の大学の教育研究のどの点が「乗り遅れている」と感じているのかは実際のところわからない。ただこれは結局①の問題の派生というかバイリンガル化してないから情報発信も弱いし、海外の知見や動向に対してのインプットも弱くそれが反映されないといったところだろうか(そして謎のガラパゴス信仰!)。これは教育でも研究でも言えそうなことである。
③日本経済の長期低迷
これは確かに問題なのかもしれないとは思うものの、結局円安のおかげで日本で生活するコストは相対的に安くなるわけで、いくらでも逆転可能な要素ではあるだろう。ただし、留学生が卒業後に安定した職を得られるかどうかも重要であり、これは単なる経済環境だけではなく、移民政策や労働市場の整備とセットで考える必要がある。
④大学の留学生募集と入学者選考(アドミッション)の問題
日本の場合、どうしてもアドミッションに時間がかかる。それは面接(インタビュー)をして、教授会承認を経ているからで、書類審査だけでスピーディに決めるのは今の日本の大学のシステムだと難しい。何故そうしてるのかというと、日本の大学の場合は、入口を厳しくして出口を緩くするという伝統的な考え方があり、海外は逆(入学は容易、卒業は困難)なので、この辺の考え方の違いという気もしている。ただし、留学生を沢山獲得するという一点にのみこだわるならば、入口を厳格にする伝統的な方法はなかなか維持しがたいということになる。
⑤有力大学のインセンティブ問題
附属の語学学校がなく、それが留学のコストやリスクをあげているという話。これはそうなのかなと思う。とくに有力大ほど日本人だけで定員が埋まってしまうので、留学生受け入れのインセンティブが生じにくい。別に日本語に特化する必要はないので、日英の語学学校を併設し、在学生も附属の語学学校で学べるような仕組みにすれば、日本人は英語を学び、留学生は日本語を学ぶ(英語コースに進みたい学生は英語を学ぶ)というモデルでペイしそうである。
結局①②は教員個人の努力で何とでもなるし、④⑤については法律や制度の障壁があるわけではないから、大学レベルでいくらでも対応可能である。
3.教育の空洞化と留学生問題
「教育の空洞化」問題では講義形式の授業、授業外学修時間、就学率、就職活動など制度的・構造的な問題(要は教員レベル、大学レベルでは改善不能な問題)が多かった。しかし、留学生問題は制度上の制約が少なく、現場レベルで改善できる点が多いのが特徴である。つまり、日本の大学は「留学生を獲得したいが、実際の施策は十分ではない」というのが現状ではあるものの、いくらでも現場で改善可能というわけである。
その上で、問題点と解決策を考えてみよう。
(1)留学生獲得のインセンティブの弱さ
すでに述べたように有力大学は日本人学生だけで定員が埋まるので、留学生を受け入れるインセンティブが生まれにくい。結果、定員割れの大学ほど留学生の受け入れに前向きになるが、それは留学生にとっては魅力的な選択肢とはならない。
この状況を改善するためには、留学生の受け入れを積極的に進める大学が高く評価されるような仕組みを整えることが必要。また、留学生受け入れの経済的負担を軽減するために、奨学金制度や助成金を拡充し、留学を希望する学生がより安心して日本を選択できる仕組みを整えることも重要である。
(2)「留学生向けカリキュラム」と「実際の教育」のミスマッチ
日本の大学には英語プログラムを設置しているところもあるが、それが実際の教育に十分に活かされているかは疑問。例えば、英語での講義を提供していても、学部の専門教育が十分に英語で受けられないケースが多い。また、欧米の大学では留学生向けのサポート体制(学習支援、キャリア支援、生活サポートなど)が整っているのに対し、日本の大学では十分とは言えない。
この問題を解決するためには、英語で提供される授業を単発の科目にとどめるのではなく、学部全体で英語教育を推進し、専門的な学びも英語で継続できるようにする必要がある。また、留学生が学業面や生活面で困難を抱えた際に、適切な支援を受けられる体制を強化することで、日本の大学がより留学生にとって魅力的な学びの場となることが求められる。
(3)留学生のキャリアパスの不透明さ
留学生にとって、大学選びは卒業後のキャリアにつながる大きな決断。しかし、日本に留学した場合、卒業後のキャリアパスが明確でないため、留学を決めにくくなる。特に、欧米の大学では、卒業後の就職支援が充実しており、企業のリクルート活動も積極的に行われるのに対し、日本ではそのような仕組みが十分に整っていない。
こうした問題を是正するためには、大学が積極的に留学生向けの就職支援を行い、国内企業との連携を強化することが不可欠だろう。企業に対しても、留学生の採用を促進するようなインセンティブを提供し、多様な人材を受け入れる姿勢を持つよう働きかけたほうが良い。留学生がスムーズに日本で働けるような仕組み作りが重要。
4. おわりに
日本の大学は、留学生受け入れにおいて大きな可能性を持っているが、そのためには戦略的な改革が不可欠である。留学生を惹きつけるためには、受け入れのインセンティブを強化し、実際の教育環境を改善するとともに、卒業後のキャリアパスを明確にする必要がある。大学だけでなく、政府や企業とも連携し、日本が国際教育のハブとして魅力を高めることが求められる。