『検体からの脱出』クトゥルフ神話TRPGリプレイ
自作シナリオ『検体からの脱出』のリプレイです。
実際の宅での流れのままに、一部簡略化や描写の追加を行っています。
シナリオはこちら↓
登場PC
客中 石谷
バトル系精神科医。
バトル系とは一体。
田沼 息継
ヤクザ下っ端でコンビニ店員な男。
腕っぷしは立つがなぜヤクザをしているのかわからないような一般人。
多分コンビニ勤務の方が本職。
三浦かのん
地下アイドル。
身長180cm 体重57kg
山野
農民。
★本文
客中は意識を取り戻した。
いつから寝ていたのか、どこで眠ってしまったのかも思い出せないままその眼を開く。
そこに想像していたほどの光はなく、想像できるはずもない見知らぬ天井が意識の覚醒を歓迎していた。
自分はまだ夢の中にいるのだろうかと、身体を起こし辺りを見回す。
最初に見えたものは眠っている人間たち。これもまた見知らぬ3人だ。記憶を遡ろうと自身の脳に問うてみても、返答は残酷な頭痛のみだった。
少年「よう、起きたか」
そんな時、声がかかる。
声の主を探して顔を上げると、正面にはボロボロの服を着た黒髪の少年がいた。
少年「周りにいるのは知り合いか?」
中学生ぐらいに見える彼は一体何者なのだろうかと、そんなことも考えさせてくれないままに続けて言葉を投げかけられる。
客中「いえ、違います」
自分でも驚くほどの即答だった。
思考するよりも早く言葉が出るというのは気持ちが悪いものだ。
少年「そうか。今は少しでも人が欲しい、起こしてやってくれ」
そう言われて、周りで眠っている人間たちを起こしていく。
その頃には混乱もいくらか落ち着き、これが現実であることを受け止めていた。
客中:【SANチェック】 (1D100<=65) > 8 > 成功
◆◇◆◇
誰も知らない部屋の中、ひとりの少年と目を覚ました4人。
現状への混乱で顔色の悪い者もいた。
田沼:【SANチェック】 (1D100<=40) > 91 > 失敗
山野:【SANチェック】 (1D100<=55) > 62 > 失敗
更に、覚えのない傷や痣が身体中に生まれている。
それまではなんともなかったものが、意識してしまったことで痛みを思い出してしまった。
客中:HP10→9
田沼:HP13→10
三浦:HP14→13
山野:HP9→6
田沼「なるほど。つまり俺たちは知らないうちに眠らされて、この場所に連れて来られたって訳か」
山野「おらは山で育ってぇから、こんな場所初めてみただぁ」
最初は話す者がいなかった場でも、少しでも不安を紛らわせるためか、次第に言葉が発せられている。そのうち、誰が言ったか自己紹介が始まり、4人の後に少年が話し始めた。
少年「俺の、名前は、に…新倉ハルト。お前たちと同じで気が付いたらここにいた」
なんでもない自己紹介。だが、その言葉の羅列に違和感を覚えた者もいた。
GM : シークレットダイス
【心理学】(1D100<=75) > 75 > 成功
客中(今、何かを隠そうとしたような…?)
田沼「とりあえずみんなここから脱出したいってことでいいんだな?」
三浦「当たり前!ライブまでに帰らないとファンのみんなが悲しんじゃう」
山野「おらも野菜たちが心配だべ」
不安と苛立ちの混じった声が飛び交いつつも、全員の意思はここからの脱出で固まった。
皆がいる場所は扉が一つだけある狭い部屋。
窓もなく、天井に吊るされた1つの光源のみで照らされていて薄暗い。
もはや部屋というよりは倉庫に近い印象を受ける。
田沼「とりあえず扉を開けないことには始まらねぇか…。ハルトだっけか?お前もそれでいいな?」
ハルト「ああ、問題ない」
扉に近寄る5人。ドアノブに手をかけたところで、客中は外から漏れてくる音に気付いた。
客中:【聞き耳】(1D100<=25) > 10 > 成功
『各班に告ぐ、No.1が逃走。見境なく攻撃をしている模様。数名の死亡者も出 ている。全警備員はB1Fに集合。非番のものも見つけ次第確保、難しい場合は射殺も可。繰り返す、、』
無線機からの声だろうか。ところどころにノイズが混じっている。
客中「みんな待って。外に…」
もしかしたら、外に自分たちをこの場所へと拉致した者たちがいるかもしれない。だから今は待った方がいいかもしれないと言葉を続けることは叶わなかった。それは何故か。
気が急いてしまったのか、何もないところで躓き、扉に全体重をかけることになった男がいたからだ。
山野:【聞き耳】 (1D100<=25) > 97 > 致命的失敗
山野「うわああ!?!?」
山野:HP6→5
扉:HP⁇→0
不意を打たれた扉は山野を受け止めることができず、そのまま倒れることとなった。
山野「あいたたた…」
三浦「ちょ、ちょっと!それ…」
山野「え?」
三浦の声で扉だった板を見る。
正確にはその下敷きになっているものを、だが。
山野と扉のさらに下、そしてその周りには制服を着た数人の男性が床に倒れていた。
山野「ま、まさかおらのせいだべか!?」
客中「待って、焦らないで」
すぐさま客中が近寄り、確認する。
客中:【知識1/2】 (1D100<=33) > 7 > 成功
客中(精神科医だから正直詳しいことはわからないけど、死んでることはわかる…どうしたものか)
客中「あ、安心して、全然生きてるわヨ。私は医者よ?」
他の者を気遣ったが、ぎこちなさすぎる発言のせいで何も信用されなかった。
田沼「医者はどうしてこうも口下手なんだ」
三浦「どう見てもダメでしょそれは」
山野「あぁ、おらのせいで…」
大量の死体、それも自分が手に掛けてしまったかもしれないという疑念。普段ならば冷静な判断ができていたかもしれないが、この場でそれを求めるのは極めて酷なことであった。
山野:【SANチェック】 (1D100<=54) > 89 > 失敗
山野:SAN54→48
山野:【アイデア】 (1D100<=65) > 67 > 失敗
山野「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏…」
田沼「いや、それはあんたのせいじゃないだろ」
三浦「何か使えるものがあるかもしれないから、探ってみましょう」
田沼「お嬢ちゃんは逞しいな…」
田沼の言葉やツッコミのおかげか、山野はギリギリのところで平静を保っていられた。
とはいえ、死体が出るような状況にいるかもしれないことを重く見た5人。少しでも力になるものが欲しいと考え、死体を調べることにしたのだった。
山野「仏さんからものを奪うのはなんだか忍びねぇなぁ…」
客中「そんなことないわよ」
三浦「死人に感情なんてないわ」
田沼「死んだやつより生きてるやつだ」
元々なのか、この異質な場がそうさせたのか、倫理観を疑問視される言動が目立つものたち。
新倉ハルトはその光景を後ろから眺めていた。
三浦「持ってた電子タブレットから、かなり大まかだけど地図が得られたわ」
田沼「拳銃か…一応全員で持っておくか」
客中「カードキーのようなものもあるわね」
護身用の銃や、アイテムを獲得した5人はさらに情報を集めるべく、探索を開始する。
田沼「それじゃあ俺とおっさんでこっちの部屋を調べてみるか」
山野「んだ」
三浦「じゃあ私たちはこっちね」
最初の部屋の外には長い廊下が続いていた。
壁には等間隔に同じ扉が付いている。
三浦の得た地図によると、ここは地下3階のようで、廊下の端にはエレベーターがあるようだ。
田沼「少しでも情報は欲しいもんな、まずはこの扉から」
ガチャリと鍵のかかってないドアノブを回す。
扉の先には何もない部屋。先程まで自分たちがいた部屋とほとんど同じ作りだった。
中に入り、何かないかと探してみても得られるものは何もなかった。
山野「それじゃあ次はこっちを」
続いて隣の扉も開くが、こちらも何もない部屋だった。成果を得られない未来を想像して落胆しつつも、微かな希望を求めて調べ始めた──その時だった。
ドゴォンッッ!!と大きな音が鳴り響く。
山野「い、今のはなんだべ!?」
田沼「あっちは若い奴らの…急ぐぞ!」
2人は音の方向へと走り出した。
◆◇◆◇
時間は少し戻り、おじさんずと手分けして調査することにした3人。
客中が先頭となり、数ある扉の一つを開く。
開けた先は自分たちが目覚めた部屋と変わらない場所だった。
しかし、何も無いわけではなく、床には倒れて呻く二つの人影がある。
客中「あの、大丈夫ですか!」
倒れているのは老人と青年。
とても苦しそうに腕を押さえながら声にならない音を発していた。
三浦「とても辛そう…。でもどうしよう」
3人が眺めていると、突然2人の押さえている腕が膨張を始めた。
肥大化した腕を携えた老人と青年は、鼻や口から血を流し、白目のまま襲いかかってくる。
[戦闘開始]
老人は力のまま、客中に向けてその体ごと拳を押し付けようとする。
客中「やっっば……」
殴られれば無事で済まないと脳が、身体が判断する。
間一髪のところで客中はその攻撃を回避することに成功した。
客中:【回避】 (1D100<=70) > 46 > 成功
避けられた巨腕は勢いのままに壁へと激突。
役割を失ったコンクリートが、大きな音を立てて崩れ去っていく。
客中「死ぬところだった…」
後ろを振り返ることができなくとも、その威力は音となって客中の耳に伝わってきた。
三浦もまた、崩れた壁を見つめる。
そんな中、真っ直ぐに動いたのは新倉ハルトだった。
彼は異常なまでに早いスピードで青年に近づく。
それは人間にできる動きなのかと疑問に思うほどだった。
先ほどの老人とは違い、うまく動けないのか床を殴りつけている巨腕の主へと、新倉ハルトは振り上げた拳を叩きつける。
鈍い音と共に、赤い液体が部屋を染めたところで彼はハッとした顔をしている。
客中「え?え?」
客中はこの事態の急変に動けずにいたが、
この少年の異常な行動を目にしていない三浦は老人へと拳を振るう余裕があった。
三浦:【こぶし(パンチ)】 (1D100<=50) > 24 > 成功
三浦:1D3+1D4>2+4
長身から繰り出される勢いのある拳は、すでに限界が近づいていた老人を眠らせるには十分過ぎるものであった。
◆◇◆◇
ほどなくして、別行動をしていた田沼と山野も合流する。
田沼「おいおい…なんだこりゃあ」
山野「すんげえことになっとるだ」
あったはずの壁が崩れており、扉を開けなくとも状況を把握できる。
見つめる先には床に伏している老人と青年、それを観察する客中がいた。
客中(死んでる…私たちのせいで…?とりあえず今度こそ誤魔化さないと三浦さんが…)
客中:【SANチェック】 (1D100<=65) > 94 > 失敗
客中:1d5+1 (1D5+1) > 1[1]+1 > 2
SAN65→63
客中「ふぅ…。どうやら眠っているだけのようね。何か手掛かりがないか探してみましょう」
嘘がバレないように気丈に振る舞う客中。
しかし、気持ちに対して身体がうまくついてこず、もつれた足は彼女自身を転ばせる。
客中:【目星】 (1D100<=75) > 100 > 致命的失敗
客中「うわぁ!?」
ハルト「おっとと」
身体の自由が失われた客中はハルトにぶつかりながら床へと衝突する。
彼の身体は岩のように硬く、びくともしていなかった。
客中:HP9→8
客中「いったたた…」
ハルト「大丈夫か?」
転んだ客中に新倉ハルトの手が伸ばされる。
大丈夫とその手を取る腕が一瞬止まった。
先ほどの不可解な動きを思い出したから、
ではなく、袖から覗かせるその腕が目についたからだ。
客中(注射痕?それにしては多すぎるし、変色している場所も多い…)
ハルト「どうした?」
客中「え?えぇ、大丈夫よ。ありがとう」
いまいちこの少年を信じられない客中だったが
真実が確定するまでは黙っておくことにした。
そんな気まずい沈黙を破ったのは田沼である。
田沼「おい!何か日記みたいなのを見つけたぞ」
そう言った彼は、片手に手記を持っていた。
皆は一度集まり、書かれていることを読んでみる。
『「この部屋にいるのは僕と、おじいさんの2人だけだ。面識は全くないし、おじいさんもどうしてここにいるのかわからないようだ」
「この部屋で目が覚めてから数時間が経った頃、突然扉が開いた。制服を着た男性2人が僕たちを別の部屋へと連れて行き、そこで何かわからない注射を打たれた」
「何度か男たちが部屋に来ては注射を打たせるが、何を聞いても答えてはもらえない。そして、不思議なことに食事を摂らなくても生きているし、空腹も感じない。身体も以前より動く気がする。もしかして治験なのだろうか」
「ある日、いつものように注射を打っているとパーテーションの向こうから声が聞こえた。鎮静剤や鍵番号という単語が聞こえた。なんのことだろうか?念のためここに記しておく」
「とつぜん、はげしいいたみにおそわれた。
もじをかくのもつらい。じぶんがじぶんでなくなるようだ」
「あ、い、つ、い、、、い、い」』
三浦「この二人も私たちと同じように連れてこられたのね」
山野「おらたちはまだなにもされてねぇべ」
田沼「これからされるところだったんだろう。余計に早く逃げなきゃいけなくなったな」
客中「・・・・・・」
よくない実験に巻き込まれてしまったことを自覚し、脱出への意思を再度固めたのだった。
◆◇◆◇
田沼「こっちのエレベーターか、階段から登れそうだな」
遺体から剥ぎ取ったカードキーで廊下の先にあった扉を開けた。
田沼が話している通り、エレベーターと階段、それから自動販売機が見える。
そして、目の前に並ぶ飲み物たちは、混乱と緊張で忘れていた喉の渇きを思い出させる。
飢えを自覚した今、飲料水の入った箱は砂漠のオアシスと言っても過言ではない。
──もちろんそれは、取り出せたらの話だが。
山野「ん!?あれは自販機だべ!」
田沼「お、おい!おっさん!?」
山野「助かるなあ!おら喉が乾いて死にそうだったんだべ!」
山野 : 【目星】 (1D100<=55) > 97 > 致命的失敗
走り出した山野は止まらない。止まれない。
その勢いのままに自販機へと激突する。
客中「山野さん!?!?」
山野「うわあああ!!!!」
田沼「ほんとに何やってんだ…!それに俺たちは今、財布すら持ってないだろ!」
山野「いたた……おらの飲みものが…」
乾いた喉を潤す希望が見えただけに、その現実は山野にとっては何よりも残酷なものであった。
山野:SAN値48→47
三浦「バカなことやってないで、さっさと行きましょ」
客中「エレベーターは上で止まってるし、今急に動かすと不自然かもね」
そう話しながら1フロア分の階段を登る5人。
上がった先には下と変わらずエレベーターと階段がある。しかし、階段の前には透明な扉があり、カードキーでは開くことができなかった。無理やり壊すことも難しそうだ。
田沼「時間がないってのに仕方ねえ、ちょっと寄り道していくぞ」
上にあがるための目ぼしいものがないか、この階層を探索するとに決めた。
◆◇◆◇
下の階とあまり変わらないつくりとなっており、廊下に面して扉がいくつかついている。
まず目についたのは詰所と書かれた扉二つ。
それぞれに耳を当て、中に人がいないかを入念に確認する。
三浦:【聞き耳】 (1D100<=70) > 18 > 成功
田沼:【聞き耳】 (1D100<=70) > 1 > 決定的成功
三浦「こっちの部屋は人がいるみたい。声が聞こえる」
田沼「もう一つは何も聞こえないな」
音を頼りに、人がいないであろう扉を開く。
中は机と椅子が並べられていたり、仮眠スペースのような畳と布団があり、壁際にはロッカーが置かれている。
山野「早速見ていくべ!」
山野:【目星】 (1D100<=55) > 96 > 致命的失敗
山野「うわあああ」
田沼「おっさん、ほんと落ち着いてくれや…」
音が隣の部屋に届いてないか心配しつつも、誰かが入ってくる様子はなかったためそのまま探索を続ける。
田沼「とはいえ何もないな。わかったことと言えば、この部屋から隣に何かを移動させたってことぐらいか」
三浦「そういえばさ、今更だけどいつこの建物の人間と会うかわからないんだし、変装しといたほうがいいんじゃない?」
客中「それもそうね、幸いにも服ならたくさんあるし着替えましょう」
客中:【変装】 (1D100<=1) > 16 > 失敗
田沼:【変装】 (1D100<=1) > 51 > 失敗
三浦:【変装】 (1D100<=60) > 91 > 失敗
山野:【変装】 (1D100<=1) > 70 > 失敗
三浦「うーん…よく見られたら危ないけど、誤魔化せるレベルにはなったかな」
山野「こんなしっかりした服だと息が詰まるべ」
着ただけの変装を済ませ、探索を再開する。
一番近い医務室と書かれた扉には、不在という張り紙があり、鍵もかかっていた。
客中「入れないものは仕方ないから、次の部屋に行きましょう」
三浦「そうね。次はこの実験室を…ひゃっ!?」
客中「三浦さん!?」
中から物音が聞こえないか探る三浦だったが、逸る気持ちを抑えられず、そのまま扉を開きながら倒れてしまった。
三浦:【聞き耳】 (1D100<=70) > 99 > 致命的失敗
三浦「すみません……」
客中「いいのよ。誰もいなくてよかったわ」
入ってしまったのは実験室と言うよりも、診察室が適切と思うような内装。
白を基調とした壁やベッド、机にはパソコンが置かれている。
また、部屋の中央あたりにパーテーションがあり、奥はぐるりと回らないと見えない。
三浦は名誉を挽回しようと、足早にパソコンへと近付いた。
三浦「なにか情報は…ん?」
探り探り操作を進める三浦が見つけたのは、一つのフォルダだった。
そこにはNo.4からNo.20までの番号が振られたファイルがあり、17から20までの4つには三浦たち4人の写真があった。
他のファイルには『投与数』や『廃棄済』などの記載があるが、4人にはなんの記載もない。
三浦「さっき下にいたお爺さんたちの写真もある…。これには廃棄予定って書かれているから…」
客中「"彼"の名前はないわね」
横から覗き込んでいた客中が周りには聞こえない声で呟く。
確かに、このフォルダの中には新倉ハルトの写真がなかった。一体彼は何者なのだろうか。
そんなことを考えていると部屋の奥から声がかかる。
田沼「鎮静剤って書かれた箱があったぞ」
山野「日記みたいなのに書いてあったやつだべか?」
そう言いながら、日記の通りに番号を入力する。スムーズに開いた箱の中には注射器が入っていた。
客中「見たことないけど、今更言ってられないわね。いざという時には使いましょう」
医者としか伝えていない客中は、皆の期待を胸に箱を受け取った。
◆◇◆◇
田沼「次はどうする?この副所長室でも入ってみるか?」
三浦「そうね。今のところ入れそうなのはここしかないし」
客中「中に人がいないか確認してみましょう」
山野「んだ!」
客中:【聞き耳】 (1D100<=25) > 33 > 失敗
田沼:【聞き耳】 (1D100<=70) > 72 > 失敗
三浦:【聞き耳】 (1D100<=70) > 72 > 失敗
山野:【聞き耳】 (1D100<=25) > 64 > 失敗
田沼「あまりよくわからないが、目立つ音はないな!」
客中「少なくとも人はあまりいないでしょう!」
全員の意見が一致し、扉を開ける。
色鮮やかな絨毯が敷かれ、壁際には本棚とそれを埋める数多くの本。正面には艶のある机が置かれ、その上にあるモニターを操作する人物が驚いたようにこちらを覗いていた。
そう、この施設の人間がいたのだ。
赤茶色のスーツを着た初老の男性は、一息ついて落ち着くと椅子に体重を預けながら口を開く。
???「うん?お前たちどうしたんだ?」
予想外の出来事に固まってしまう。
それでは不自然と口を開いたのは田沼だ。
田沼「いやぁ〜。副所長の無事を確認しようと思いまして」
客中「上司の安全を守るのは我々の役目ですからね。非番とは言え動かないわけには行きません」
客中も後に続いた。
尤もらしい言葉の羅列で、この窮地を乗り越えようと口を回す。
もしかしたらなんとかなるかもしれないという淡い期待を砕いたのは、背後の扉が開く音だった。
警備員「副所長!大丈夫ですか!」
三浦「え!?どうして…」
副所長「あれで誤魔化せると思ったのか?お前たちは来たばかりの被験体だな。それにお前は…」
副所長が話し始めたところで、鋭い金属音がその言葉を切り裂く音が響く。
山野:【拳銃】 (1D100<=20) > 13 > 成功
山野:1d10 > 1
拳銃を握っているのは山野。彼は背後の音に見向きせず、再び引き金に指をかける。
頬から伝わる熱と痛みに動きを縛られた人間を狙うのは、獣を狩る山野に取ってあまりにも簡単すぎることだった。
山野:【拳銃】 (1D100<=20) > 5 > 決定的成功
山野:2d10 > 13[4,9] > 13
鮮やかな血が辺りを染め上げる。
あまりに一瞬で、かつ衝撃的な出来事に警備員を含むこの場にいる者は皆動けずにいた。
──1人を除いて。
新倉ハルトだけは動き出していた。
固まっている警備員を容赦なく無力化するその表情には喜びが浮かんでいる。
客中:SAN値63 → 62
田沼:SAN値39 → 38
三浦:SAN値60 → 59
山野:SAN値47 → 46
◆◇◆◇
絶体絶命に思われた窮地を容易に脱した5人は、赤黒く模様替えされたこの部屋を探索する。
三浦「パソコンを操作中だったのね、パスワードが外れてるから助かるわ」
三浦:【コンピューター】 (1D100<=76) > 41 > 成功
客中「何か見つけた?」
三浦「ロックのかかってる場所が多くて、メールぐらいだけど…」
モニターを覗き込む。
画面にはメールが二つ表示されている。
『件名:黒い箱の注射器について
非常時に打ち込むための注射器ですが、対象が暴走していた場合、拘束は非常に困難です。また、投与した場合、副作用として対象が死に至る確率が95%。不用意に使用しないように医務室にて保管。基本的には鎮静剤で対処するようにお願いします。』
『件名:No.2について
現在は所長が側に置いています。
彼は薬のコントロールに成功しただけではなく、記憶改竄による洗脳にも成功しているため、所長自らの指名で警護につけているようですね。
とはいえ、いつ暴走するかわからないため、要観察としております。』
田沼「鍵が2つあったぞ。ここはこんなもんか」
客中「そうね。医務室と詰所を覗いたらさっさと上がりましょう」
狂気に飲まれてしまわないように、目的を再確認しつつ探索を進める。
客中と三浦は鍵を使って医務室へ。
田沼、山野、ハルトの3人は人のいなくなった詰所へと向かう。
客中「開いてくれたわね」
三浦「急いで調べましょう」
医務室の中は、その名前から連想される通りの白を基調とした部屋になっており、ベッドが3つ並んでいる。
また、部屋の端には棚が多く並んでいる。
客中「棚には薬品らしきものがたくさん並んでいるわね。使えそうなものはもらっていきましょう」
三浦「さすが客仲さん!使えるものがわかるんですね!」
客中「…当然でしょ?私は医者よ」
客中(資格を取る過程で精神科薬物以外の知識も獲得したけど、専門ではないのよね…)
そういえば適当なことを言っていたなと過去の自分を恨む精神科医であった。
客中「黒い箱と白い箱があるわね。黒い方の注射器はさっき見たものかしら。それと白い箱には…記憶削除薬?」
三浦「私たちの記憶が曖昧なのもこれのせいなのかな」
客中「そうかもね。というか硫酸とかも置いてあるけど、医務室と実験室逆じゃないのかしら」
何度も首を捻りながら探索を続ける2人。
棚をある程度調べると、今度はベッドの周りへと行動範囲を移す。
客中「ファイルやら写真やらが散らかっているわね。いくら鍵をかけてると言ってもこれはどうなのかしら」
三浦「まるで見てくれと言わんばかりですね」
『ファイル:研究レポートの写し
「人体実験を繰り返していくうちに、いくつかのことがわかった。その中でも最も重要なのは、この力をコントロールすることができるという事実だ。」
「適切な薬品を、適切な回数、適切な部位に投与することで、コントロールは実現する。」
「以降は経過報告。No.1は暴走後死亡。投与限界には個人差があるようだ。No.2はその結果を受けて投与を中止。現在は様子を見ている。また、No.1が死亡したことで識別番号をNo.1へ変更。コントロールに成功しているNo.3も同様に識別番号をNo.2に変更。」』
三浦「物騒なことが書かれてる…」
客中「今更だけどね。それとこの写真は……え?」
三浦「え、どういうこと…?」
謎を解決させるために調べているにも関わらず、情報が出るたびに増えていく疑問。
疲れを浮かべながら、一度合流することを決める。
◆◇◆◇
田沼「よし、誰もいないな」
ゆっくりと扉を開け、無人を確認する。
先ほど入った隣の詰所とほとんど変わらない作りになっているため、成果にはあまり期待せずに探索を行う。
しばらくして、ロッカーを調べていた山野が声を上げる。
山野「鍵があったべ!」
田沼「おお!それは車の鍵っぽいな。でかしたぞおっさん!」
思いがけない収穫に喜ぶ2人。
とはいえ目ぼしいものはこれぐらいで、そのまま部屋を出る。
田沼「あっちの二人はまだみたいだな」
山野「んだべ。少し待ってよう」
待ってる間、もう一つの鍵で階段前の扉を開けられるか確認する田沼。すんなりと回る鍵に安心感を覚えた。
山野「順調だべ」
田沼「ああ。おっさんとハルトのおかげもあって希望が見えてきた」
そう言ってハルトへと視線を送る田沼。
田沼「ハルトもここに来た記憶がないんだったよな。親御さんも心配してるんじゃないか?」
投げられた言葉に少し迷ってから返事をする。
ハルト「……両親はわからない。いるのは兄さんだけ…」
どこか暗い雰囲気で話す彼に、二人はそれ以上の言葉を投げかけられずにいた。
田沼「そうか…。んでも…」
気まずさに耐えられず、田沼が何か話そうと口を開こうとしたところで医務室の扉が開く。
客中「待たせたわね」
三浦「ごめんね!時間かかっちゃって」
2色の箱を手にした客中と三浦が出てくる。
無事に探索を終えられたのだろうと安堵する。
田沼「いやばっちりのタイミングだ」
山野「揃ったことだし、上に行くべ!」
階段へと足を向ける二人、それを止めるように客中が声をかける。
客中「ごめん、ちょっと待ってね」
田沼「どうした?」
客中「ハルトくん、この写真の人物は誰かしら?」
いつの間にか手に持っていた二つの写真。
一つにはハルトの顔が、もう一つにはハルトによく似た顔が写っている。
ハルトは少しの沈黙を経て口を開く。
ハルト「それは…兄さん……」
田沼と山野は驚いた顔で俯く少年を見る。
客中「あなたのその異常な動き。それに、腕にあった注射痕。私たちと一緒に来たと言ったけどそれは嘘ね?」
ハルト「・・・・・・」
客中「警備たちが探しているNo.1はあなたのこと。逃走してるくらいだから、敵は共通なんだろうけど、騙されているというのはいい気持ちがしないものよ」
淡々と言葉を連ねていく客中。
ハルトはそれに返すものが見当たらずに、俯いたままでいる。
客中「まだ若いのに、抱えているものが大きすぎるわね。運が悪かったといえばそれまでだけど、嘘はさらに自分を苦しめることになるわ」
ハルト「悪い…」
客中「悪いと思ったらごめんなさいよ。あなたがその気になれば私たちなんて簡単に殺せるんだから、そうなってない以上は仲間として信頼するわ」
ハルト「ごめん…なさい……!」
顔を上げ、言葉を捻り出すハルト。
その表情はどこかすっきりとしていたような気がした。
◆◇◆◇
あたりは暗く、静寂が肌を焦がすような空間。しかしそれは、これまでであればの話だ。
打ち解けることができた5人は、絶望の中にいても楽しく話せる仲間と共に階段を登る。
──これが狂気に飲まれたからなのかどうかは置いておいて。
田沼「所長室…とあるが鍵がかかっていないな」
山野「他には何もないべ。贅沢だべな」
階段を登り切った先、エレベーターを待つかさらに奥へと進むかの選択で所長室とある扉の前に立つ5人。
ここまで来たのならと、部屋の中へと入っていく。
客中「誰もいないわね」
三浦「だとしたら所長さんとハルトくんのお兄さんはどこに…?」
本棚が並べられた無人の部屋は来客用の椅子や執務用のデスクが置かれているのみで、装飾などはほとんどなかった。副所長室と比べると、随分質素であるという印象を受ける。
三浦「パソコンもつけっぱなし…?不用心ね」
三浦はできる範囲で情報を探る。
見つけたのは「ドクターへ」と書かれたメールだった。
『件名:レポート
「No.2の洗脳が完了。解除するには記憶を消すしかない。万が一、他組織に奪われても殲滅もしくは自害するようにも教えてある。」
件名:レポート
「No.2は素晴らしい。私のコレクションにもようやく真に価値のあるものが増えてきた。このまま研究を重ねていけば、いつかは神すらをも私のコレクションに加えられるだろう。」』
客中「ついに神なんて言葉まで出てきたわね」
三浦「そんなこと言ったら私だってファンのみんなから神って呼ばれてるもん」
そんな話をしている後ろで、山野は本棚と睨めっこしていた。
山野「難しそうな本ばっかで何もわからんね〜……ん?」
田沼「どうしたんだおっさん。疲れたなら座ってるか?」
山野「そうじゃのうて!ここにボタンがあってな」
そう言って指さす先には、確かに押せそうなボタンがあった。
顔を見合わせた二人は、少しの間の後それを押し込む。
すると、どこからか起動音が鳴り、本棚が音を立てて動き始めた。
田沼「おいおいこりゃあ」
山野「すげぇべ」
本棚が並んでいた場所には、豪華な装飾の施された扉が現れていた。
◆◇◆◇
客中「これはまた興味深い場所ね」
そう呟いたここは、隠し扉を超えた先の部屋。
もはや部屋というよりかは、美術館の一部と言っても差し支えがないような場所だ。
絶滅した動物などの剥製が多く設置されており、そのどれもが硬いガラスによって保管されている。
山野「こんな動物、おらは見たことがねえべ」
中でも、厳重に保管されているものがある。
ひとり奥へと進んだ山野の視線の先にあるそれは、上半身がだぶついた皮膚で覆われ、魚のような顔をした人型の生き物であった。また、その隣には、頭があるはずの部分に三角錐状の渦巻きがある甲殻類のような生き物が置かれている。
それらには「死体の確保、保存が困難なため、残っているうちに型を取った模型」と注意書がある。
それらはどちらも作り物とは思えないほどに迫力のある存在だった。
山野:【SANチェック】 (1D100<=46) > 42 > 成功
山野:SAN値46→45
田沼「おーい!こっちにエレベーターがあるぞ!」
その声に皆は散策を一度止め、エレベーターの前へと集まる。それは少し小さめの扉で、行き先は1Fとなっていた。
三浦「ここから地上に出られるかも」
客中「最後まで油断せずに行きましょう」
みんなで生きて帰るという決意と覚悟を胸に、箱の中へと乗り込んでいく。
エレベーター内で見合わせる皆の顔には隠しきれない疲れが浮かび上がっていた。
束の間の休息を終わらせるチャイムが鳴る。
地上階に着床した音だ。
心の準備に関わらず扉は自動で開き、いつぶりかもわからない自然の光があなたたちを歓迎する。
しかし、そんな光を遮る影が2つあった。
???「まさかここまで上がってくるとは。警備の者たちには然るべき処分を言い渡さなければならないな」
話しているのは薄く髭を生やし、眼鏡をかけた黒髪の男性。年齢は副所長よりも少し上だろうか。その隣には医務室にあった写真で見た新倉ハルトによく似た顔が並んでいる。
???「それに、No.1か。君もせっかくの良いサンプルだったのに残念だ。No.2、彼らをまとめて処理しなさい」
[戦闘開始]
その声と同時に、No.2は飛び出す。
まず狙われたのは客中だ。
客中「やばっ…今度こそほんとに……」
腕を顔の前に出し、目を閉じると、パァンという音が鳴り響く。しかし、想定していた痛みや衝撃はなかった。
恐る恐る目を開くと、新倉ハルトがその拳を受け止めている。
客中「わっ、、」
ハルト「兄さん…!」
No.2「・・・?」
先ほどの副所長室でのピンチに比べものにならないほど、死という概念が如実に寄り添っている。
そんな現状の危険度を少しでも下げるために、拳銃を構えたのは三浦と山野だった。
が、焦りからか狙いがうまく定まらない。
三浦:【拳銃】 (1D100<=20) > 82 > 失敗
山野:【拳銃】 (1D100<=20) > 55 > 失敗
三浦「ダメだ…てか銃なんて撃ったことないし!」
山野「今はうまく狙えないべ…」
銃の反動で動きが止まる二人。
客中もまた自分が狙われた事実、なにより死を実感したことで足を動かせずにいた。
しかし、そんな中でもなんとか身体を動かしているものがいる。
田沼「医者!注射器を寄越せ!」
客中「え?あ、うん…はい!」
田沼「よし…ハルト!しっかり抑えといてくれよ!」
田沼は客中から白い注射器を受け取ると、No.2に向かって走り始める。
田沼「おらぁ!!」
力のままに、細い針が首元に振り下ろされる。
それは確かに効果があったようで、これまで全く表情のなかったNo.2が苦痛に顔を歪め、その苛立ちを解消するためか天に向かって吠えた。
兄の苦しんでいる姿に耐えられないのか、新倉ハルトは目を背けている。
客中「ハルトくん……」
そう漏らすほどに、視線の先の少年は悲しそうな顔をしていた。
けれど、感傷に浸っていても時間は止まってやくれない。
新倉ハルトを振り払ったNo.2は、その勢いのまま最も厄介であると判断した少年に拳を振り下ろす。
ハルト「がっ……!」
普通の人間は全て余裕で処理してきた彼から初めて吐き出される歪んだ音。
それは受けたダメージの大きさを物語っていた。
けれども、新倉ハルトは自身に撃ち込まれた腕を掴み、離さない。
田沼「ハルト!もう少しだけ耐えてくれよ!」
田沼が再び注射器の針を挿し込む。
二度目の注入。人外じみた身体を持つ者にもそれは効いているようで、目や鼻から血が流れ始めた。もはや立っていることすらやっとの状態だ。
所長「何をしているNo.2!お前はそんなものではないだろう!」
声の主へと視線を向けると、その手にはいつの間にか拳銃が握られていた。
銃口が動けない田沼に向けられる。
田沼「やべえ!避けられねえ…!」
所長「まずは邪魔な貴様だ」
鳴り響く銃声。金属音が耳を穿つ。
赤い血が放射状に吹き出し、土色と緑の地面に、彩りを与える。
撃たれた手はだらんとぶら下がり、それまでの威勢が嘘のようになくなっていた。
所長「……ぐぅぅ…!バカな!?」
三浦「あんたが一番邪魔なのよ!私のファンが待ってるんだから、早く帰して!!!」
声を荒げるのは三浦。その手には銃口から煙を放つ拳銃が握られている。
三浦:【拳銃】 (1D100<=20) > 4 > 決定的成功
田沼「助かった!これで終わらせる!」
三本目を挿す。
これまで上がっていた断末魔のような叫びがプツンと切れ、No.2の意識も閉じる。
危機の終息を理解した者たちは皆その場に倒れ込んだ。
[戦闘終了]
◆◇◆◇
山野「あったべ!この車の鍵だべ!」
いつまでもここで休んでいられないと、一番初めに動き出したのは山野だった。
手に入れた鍵に合う車を探し出していた。
山野:【目星】 (1D100<=55) > 5 > 決定的成功
客中「さっさとこんなところから帰りましょう」
三浦「見て!私たちの荷物もここにあるわ!」
田沼「なんか随分と都合がいいな…」
山野「きっとおらたちへの恵みだべ!」
疑問と喜びを投げ合いながら、No.2も含めた6人は大きめの車へと乗り込む。
田沼「よし、じゃあ出発するぞ!」
アクセルを踏み込み、車を走らせる。
森の中を走るとあって乗り心地は最初から悪い。
三浦「もっとマシな運転できないの?」
田沼「しょうがねえだろ!道がこんな…ん?」
田沼は言葉を止める。
それはまた三浦も同じであった。
田沼:【聞き耳】 (1D100<=70) > 53 > 成功
三浦:【聞き耳】 (1D100<=70) > 29 > 成功
山野:【聞き耳】 (1D100<=25) > 77 > 失敗
田沼「なぁ…」
三浦「えぇ、なんだか不気味ね」
山野「なんの話だべか?」
何もわかっていない山野を置いて、田沼と三浦は緊張感を高める。
一瞬だが森のざわめきを感じた。
風が木を揺らし、葉を舞い上げる。
何か得体の知れないモノが迫ってきているような、そんな気配を感じたのだ。
ただ、このことに気付いていないのは山野だけではなかった。
客中:【聞き耳】 (1D100<=25) > 97 > 致命的失敗
客中「待って、気分悪くなってきた。吐きそう…窓開けていい?」
顔を真っ青にしながら客中は問いかける。
田沼は止めようとしたが、客中は返事を待たずに窓を開ける。
客中「ふぅ…。あれ、そういえば所長ってあそこに放置してたんだっけ」
外の空気を身体に取り込み、いくらか赤みを取り戻した顔は建物へと向けられる。
視界の端には、微かに所長が映っていた。
自分たちを危険な目に合わせた元凶。
それがただ地面に這いつくばっているだけなことを、今の客中は許せなかった。
客中「なんかムカつくから撃っとこうかしら」
流れるように拳銃を取り出し、引き金に手をかける。
客中:【拳銃】 (1D100<=20) > 19 > 成功
客中「まぁ、ここからじゃ当たんないか」
そう呟く声を掻き消すような銃声が鳴る。
弾は狙い通りの線をなぞりながら飛んでいき、命中した。
予想よりも早い着弾。
そして撃たれたものもまた予想外のダメージだった。
不意を打たれた攻撃によって体液を吹き出しながら地に墜ちる。
三浦「え?何あれ…?」
山野「あ、あれは!」
倒れたのは所長ではなかった。
意図しない形で盾となってしまったのは、
そうあの隠された部屋に模型として飾られていた。甲殻類のような生き物だ。
客中「私なにかやっちゃいました?」
田沼「ばっきゃろう!こっちきてるじゃねぇか!」
アクセルを今以上に強く踏み込む田沼。
舗装されていない道を、祈りながら爆速で駆けていく。
◆◇◆◇
前だけを見て走り続けた車はいつの間にか森を抜けていた。
月明かりの下を音を立てながら走っている。
その道はしっかりと整備がされていて、これまでとは違う快適さが伝わってくる。
平和な夜の道を噛みしめながら進み、皆をおろしたところで旅も終わる。
非日常な体験、それも死を間近に感じることでこれからの生活に影響が出ることもあるだろうが、今だけは自分が生きていることの尊さと人間の可能性で胸が満ちているはずだ。
田沼「もう会うことはないだろうが、達者でな」
客中「ええ、何かあったらここに来なさい」
三浦「よかったら私のこと囲ってね」
山野「おらの野菜もよろしくだべ」
みんながそれぞれの想いを告げながら別れていく。
田沼「ここでいいのか?」
ハルト「ああ、ありがとう」
新倉ハルトとNo.2も人里離れた場所で降りる。
これで今回の冒険は終わりを告げた。
◆◇◆◇
街の中を風に任せて旅する新聞紙。
それは誰かに拾ってほしそうにも見えた。
ボロボロになってしまったその紙のさらに隅。
誰の目にも止まらないような、誰も知らない集落での事件が書かれていた。
『「〇〇村が動物に襲われた?住民のほとんどが殺害される。
凶器等も見つからず、およそ人間ができる殺害方法ではないことから、腹を空かせた熊などではないか言われている。生き残った住民も気が狂ってしまっているのか、二人の少年としか話していない」』