『廃墟にて』 クトゥルフ神話TRPG リプレイ
自作シナリオ『廃墟にて』のリプレイです。
実際の卓での流れのままに、一部簡略化や描写を加えています。
シナリオはこちら↓
★あらすじ
探索者たちの共通の友人に青麦春という男がいた。
ある日、彼は廃墟の探索を提案する。
昔からの子供っぽい思考のままだと、探索者たちは呆れながらも一緒に探索することにしたのだった。
★登場キャラクター(PC)
山田姫愛羅(やまだ てぃあら)
山田グループの社長に嫁いだ女性。
名前のせいで苦労の多い人生を送ったため、両親が営む佐藤グループを潰すべく奔走中。
知性、教養共に優れているうえに高身長。
喪地望子(もち もちこ)
14歳の巫女。
幼いながらも様々な物事に精通している。
常におみくじを持ち歩く。
笹見笹子(ささみ ささこ)
公園に住む占い師
お金がないため、雑草で飢えを凌いでいる
また非常に強い匂いを放っている
生き物と殴ることが好き
小野田幸男(おのだ ゆきお)
40歳の自宅警備員。
中学生の頃にいじめられて以来引きこもる。
コンピューターや機械に強い。
猿鳥辰巳(さるとり たつみ)
マヨネーズデブ。
★登場キャラクター(NPC)
青麦春(あおむぎ しゅん)
探索者たちとは長い付き合い。
常にテンションが高く、ヘラヘラしていて子供っぽい。
今回、探索者たちを廃墟探索に誘う。
八星黄衣(やつほし きえ)
青麦春の幼なじみ。
行方不明となっている。
灰夜鳴子(はいよる なるこ)
探索者の前に現れた不思議な女性。
景尾須探偵事務所の所長。
★本文
青麦「今日は集まってくれてありがとう!」
元気な青年の声が店内に響き渡る。
探索者たちは青麦春が奢ってくれるということで、行きつけの定食屋へとやってきていた。
昔ながらの雰囲気を感じさせる店内は、傷が目立つ机や補修された椅子が並んでいる。
お昼を少し過ぎた頃だからか賑やかさは落ち着き、壁にかけられたテレビがその音を客の耳に届けることができていた。
そんな状況だからこそ響く声が。
青麦「噂の廃墟があるだろ?あそこの裏口を見つけたんだよ!みんなで行かないか!?」
声の主は青麦春だった。
-町外れにある廃墟-
もはや町と言えないような場所にある廃墟。
元々は何かの研究所だったと噂されている。
何度か撤去の工事が試みられたが、その全てが不幸な事故によって中止となった。
入口は瓦礫で塞がれており、窓も見当たらない。
青麦はこの探索の面白さを必死に語ったが、探索者たちにはあまり響かなかったようだ。
諦めきれない彼はそんな探索者たちに高級焼肉店をご馳走することを条件になんとか説得。
ここに廃墟探索部隊が結成された。
◆◇◆◇
探索する日付も決まり、みんなで食事をしているととあるニュースが耳に入る。
テレビには金色の髪をした綺麗な女性が映し出されている。どうやら彼女は行方不明となり、現在も捜索が続いているようだ。
いつもはヘラヘラしている青麦だが、この時は真剣な眼差しでニュースを見ていたことが探索者みんなの印象に強く残っている。
──ただ、一人を除いて。
突然、ガシャーン!と大きな音が鳴る。
音のした方向にはビーフシチューの残骸があった。
何をどう滑らせたのか、笹見笹子が皿を割る勢いで顔を突っ込んでいる。
(聞き耳判定 1d100=100<=35 致命的失敗)
音を聞きつけた店長が厨房から出てきた。
笹子は熱々の料理によって軽く火傷をしてしまっているが、怒った店長はそんなことに全く構わず彼女を店の奥まで連れて行ってしまう。
店長「食べ物を粗末にするやつは許さん!大切さを覚えていくことだな!」
笹子「そ、そんな…」
結局、この日はこのまま笹子を残して解散となった。
◆◇◆◇
店長から解放された笹子は夜道を一人、帰公園している。
普段の異臭に加えて、シチューの匂いが混ざりあったその身体は、もはや歩く兵器と化していた。
だが、そんな彼女にも声をかける人間はいた。
「やぁ、君。ちょっといいかな?」
いきなり声をかけてきたのは灰夜鳴子と名乗る女性。銀色の髪をしており、二次元と見紛う美しさだ。
笹子「な、なんですか?」
灰夜「少し話を聞かせてもらいたくてね。しかしやけに匂うじゃないか、うちでシャワーでも浴びていくかい?」
笹子「いきます(即答)」
数ヶ月ぶりのシャワーに釣られた笹子は、驚きや怪しいと思う感情を全て消し去って付いていくことにした。
こうして笹見笹子は景尾須探偵事務所という名の看板が掲げられたビルの一室へと案内される。
灰夜はある依頼を受けた探偵であり、それに廃墟が関係するらしく、町行く人々に声をかけていたようだ。
こちらからの質問には満足に答えをもらえなかったが、特に怪しい事もされず、お風呂と洗濯で身も服も綺麗になった笹子はルンルン気分で公園へと帰っていった。
◆◇◆◇
当日を迎え、探索者たちは廃墟に到着。
話に聞いた通り、中に入れそうな裏口が待ち構えていた。
しかし、そこに青麦の姿はない。
どこかへ移動するとの連絡が来ているわけでもなく、数十分前に来た「もう先についているぞ」が
最後のメッセージのままだった。
この状況で初めに動いたのは喪地望子だった。
望子「もしかしたら先に入ったのかも!それかトイレに行ってるのかも?」
望子は足早に探索を始める。
ただ、探検ということで興奮しているのか、気持ちが前に行きすぎてしまったようで盛大に転んでしまう。
(目星判定 1d100=100<=25 致命的失敗)
ここで怪しい動きを見せたのは山田姫愛羅だ。
姫愛羅「・・・・・」
(幸運判定 1d100=62<=65 成功)
すぐさまその行為に気づく笹子。
笹子「この人パンツ見てます!」
望子「私の…見たんですか?」
姫愛羅「見てません」
笹子「見てました!」
望子「見たんですね?」
そのようなくだらないやりとりをしていると、足元にスマホが落ちていることに気付く。
それはいつも青麦が使ってるスマホだった。
開いてみるとロック画面には笑顔の青麦と金色の髪をした女性の写真が設定されていた。
笹子以外は、この写真の女性がニュースで行方不明になっていた人物だとわかる。
どうやらニュースの女性と青麦は昔からの付き合いのようだ。
探索者たちがあれやこれやと想像を膨らませていると、突然雷を伴う激しい雨が降り始めた。
彼、彼女らは青麦捜索のためにも急いで中に入るのだった。
◆◇◆◇
通路をしばらく進んでいると、エントランスのような場所に着いた。
そこはもう何年も人の出入りがなかったのだろうと思われるほど廃れている。
辺りを見渡していると、銀色の髪をした女性が倒れているのを発見した。
見覚えのある笹子はすぐさま駆け寄る。
笹子「あの!灰夜さん!大丈夫ですか?」
その身体に触れた時に違和感を覚える。
いくつかの確認の後、彼女は他の探索者たちに向き直って口を開く。
笹子「私たちはもしかしたら、大変なことに巻き込まれてしまったのかも知れません」
笹子は倒れている女性に目をやりながら呟く。
笹子「この人は死んでいる…」
探索者たちにとっては衝撃だった。
休日の暇潰しにとやってきたこの廃墟で、まさか死体を見つけることになるとは。
動けなくなる者、逆に動かずにはいられないものがいる。
死体に近づく姫愛羅と、彼女に声をかける小野田幸男。望子と猿鳥辰巳はその場に立ち尽くしていた。
姫愛羅「ちょっと見せて!」
幸男「待て。別に医療に詳しくないんだから、見ても分かるわけ…」
姫愛羅「 ・・・・(これは…なんだろう…。なにか得体の知れない恐怖を覚える)」
(医学判定 1d100=2<=5 決定的成功)
幸雄「ほら!何もわからないだろ?」
◆◇◆◇
青麦の身を案じた探索者たちは、この先へと進むことを決めた。
奥の扉を開け、エントランスを抜けると広い通路に繋がっている。
左右に二つずつと、正面に一つ扉が見えたので、探索者たちは手分けして捜索することにした。
右手前の部屋に一人で入るのは猿鳥辰巳。
扉を開けると割れた水槽がたくさんあり、部屋の奥には水溜りのようなものがあった。
薄暗い中、懐中電灯を頼りに探索するが、特に得られた成果はなかったようだ。
猿鳥「うーん、ここにご飯はないようだ」
(目星判定 1d100=83<=75 失敗)
右奥の部屋には笹子と姫愛羅の二人が向かう。
中は棚やベッドの残骸が見える瓦礫の山。
また、至るところが赤黒く汚れている。
姫愛羅「 (ペロッ…これは…血!ってやりたい)」
気になるところを二人で掘り起こすと、瓦礫の下からは血に塗れた死体の山が現れる。
この光景は笹子の正気を奪うには十分すぎるものであった。
SAN値チェック 1d100=99<=22 失敗
SAN値減少 1d6=6
アイディアロール 1d100=29<=60 成功
一時的狂気発症 昏迷
不定の狂気発症 奇妙な性的嗜好
笹見笹子は瓦礫を抱いたまま丸くなり、動かなくなってしまった。
笹子「瓦礫…瓦礫……(ガジガジ)」
姫愛羅「あー…。まぁいいか」
そんな笹子は気にせず、姫愛羅単独での探索は続く。めぼしいものがないか探していると、金庫のようなものを見つけることができた。
しかし、鍵がかかっていて開かない。
加えて、自分の力では瓦礫を抱える笹子を運べないと悟ったので、人を呼ぶためにもこの部屋から一度出ることにした。
そして、果敢にも正面の部屋に向かう望子と幸男。
望子「失礼します!」
望子が軽くノックしただけでその扉は開く。
中はパソコンや機械類がずらりと並んでいた。
また、奥には祭壇のようなものも見える。
幸男「明らかにヤバそうだし、みんな揃ってから行こうか?」
望子「私、行ってきまーす!」
幸男の言葉を聞かずに一人で走り出す望子。
祭壇に近づくと、一際目を引く壁があった。
壁には巨大な雲状の塊の絵が描かれている。
その塊は泡立ち、ただれており、ヒモのような黒い触手とか粘液をだらだら垂らしている口とか、先端が黒い蹄になっているねじれた短い足などが生えている。
SAN値チェック 1d100=5<=63 成功
SAN値減少 1d3=1
望子「なんだかすごい絵だなー…。あれ、何か書いてる?」
ラテン語で書かれたその言葉を
望子はスラスラと読み進める
望子「シュブ=二グラス……?」
壁の絵に夢中になっていた望子だったが、ふと足元に目を向けると、そこには青麦春の姿があった。
銀髪の女性のことがあったので無事かどうかを心配したが、どうやら息はあるようだ。
望子「幸男さーん!青麦さんいたよー!」
幸男「えーー!!」
望子の声を聞き、幸男は駆け寄った。
──と、同時に壁の絵が目に入る。
SAN値チェック 1d100=92<=70 失敗
SAN値減少 1d10=1
幸男「なんかすごい絵だなー」
二人はまるでなんともないという顔で、青麦春を担いで元の部屋に戻ることにした。
◆◇◆◇
時間は少し戻り、通路で姫愛羅と猿鳥が合流する。
姫愛羅「あ!猿"島"さん!」
猿鳥「猿"鳥"だ!」
姫愛羅「猿島さん!笹子さんが!」
猿島「もういいか…」
二人は笹子を運び出すために、瓦礫の部屋へと戻る。
運ぼうとしていたが、瓦礫を抱いているだけあってとても重い。
ただ、時間の経過で少し落ち着いたのか笹子は動くことができるようになっていた。
それでも、依然として瓦礫に執着しているのだが。
笹子「瓦礫おいしい…瓦礫瓦礫…」
猿鳥「ロープで縛っておこう」
笹子「瓦礫おいしい」
猿鳥「口も縛ろう」
笹子「もごごご」
◆◇◆◇
笹子を抱えた猿鳥たちが戻ってきた頃に、ちょうど青麦を担いだ望子たちが戻ってくる。
情報の共有を済ませ、青麦へ目を向ける。
不思議な体験をしたからか、命があることへの安堵が強い。
目を覚まさせるために、望子が近寄る。
望子「往復ビンタ!(ペチペチペチペチ)
青麦「う、…」
痛みで青麦の意識は覚醒する。
望子「どうして先に中に入ったの?」
青麦「裏口で銀髪の人に会って…それから黄衣が中にいると聞いて探しに入ったんだ」
姫愛羅「私たち多分黄衣さんに会ったことないよね?あなたたちの関係は?」
青麦 「3歳からの幼なじみなんだ…あいつは身体が弱くて外に出ることが少ないから…」
姫愛羅「すきぴってこと?」
青麦 「ばっ、そんなんじゃ!」
みんな「ひゅーひゅー」
今いる場所のことを忘れ、中学生のように盛り上がる探索者たち。
しばらくして、誰が言ったか話は戻る。
青麦「その銀髪の人が死んだ…?俺、見てくる!」
姫愛羅「待て待て」
望子「今一人で動くのは危ないですよ」
逸る青麦を諫め、探索者たちは捜索を続けることにした。
左手前の部屋を幸男、姫愛羅、簀巻きの3人で。
左奥の部屋を猿鳥、望子、青麦の3人で回る。
◆◇◆◇
左手前の部屋はまるで図書館のように、本棚が綺麗に隙間なく並べられていた。
──のだろうと思わせる量の棚の残骸がある。
簀巻を入り口に置き、捜索を始める。
簀巻きもとい笹子は執念で瓦礫とメモを発見。
瓦礫を求め動くたびに削られる体。
顔は火傷、口内と体が傷だらけになった。
そんな哀しき簀巻きを哀れみ、姫愛羅は猿轡を解く。
笹子「あそこに瓦礫とメモがあります」
そう言うとゴロゴロと痛みに耐えながら転がる。
そんなことをしてるうちに、日記を手にした幸男が戻ってきた。
転がって移動するというのも可哀想なので、様々な方法で笹子を運ぼうとするが、どれも悪戯に笹子を痛めつけるだけだった。
姫愛羅「なんかちょうどいい棒とかないかな」
(幸運判定 1d100=2<=65 圧倒的幸運)
姫愛羅「あったわ」
それはまさにこのために用意されたかのような、まるで神が実在し、その施しを受けたかのような奇跡であった。
簀巻きにされた人間をくくりつけ、運ぶことに関してはこれ以上のものはない。
そう思わされるような究極の棒であった。
本棚の残骸が瓦礫で研磨されたのだろうか、見るだけで惚れ惚れするような、そんな一本の棒を探索者たちは手に入れたのであった。
◆◇◆◇
場面は変わり望子猿鳥青麦の3人
望子「こんこん」
猿鳥「ガチャッ」
(全員目星失敗)
望子&猿鳥「倉庫ですね」
望子「あ、銀色の筒あった」
特に何も見つからないまま通路へと戻る。
望子「みんなー!水筒拾ったー!!」
両手で銀の筒を抱きながら喜んでいる
笹子「メモには3535って書いてた」
メモを咥えながら、自分の成果を告げる。
幸男「日記みつけたよ〜。英語だから読めないんだけど」
手には本を持っている。
姫愛羅は英語力に自信があるのか、内容を確認する。
姫愛羅「日記めっちゃ読める」
(英語判定 1d100=1<=60 決定的成功)
日記の中にはレイン・クロインという、空想上の生き物についての情報があった。
姫愛羅はその全てを読み解いたのであった。
-日記の内容-
偶然、伝承の生物とされるレイン・クロインを捕獲することに成功した。話通り銀色の小魚に化けることができるらしい。しかし、まだ幼体なのか、鯨を一度に7匹も食べるというほど大きくはないようだ。もしかしたら今頃親が探し回っているのかも知れないが、そんなことは知ったことではない。
姫愛羅「御伽話について研究しているレポートみたいな日記だった」
望子「へー!かっこいい!」
◆◇◆◇
探索者たちは、集めた情報をもとに更なる情報を集めに行く。
まずは金庫を、メモにあった4桁の番号で開けることに成功。
中からはいくつかの書類が出てくる。
右手前の部屋には外へと続く避難通路のようなものがあるらしいこと、この研究所では人間以外の生命体も研究をしていたことがわかった。
しかし、後者についてはなんのことかわからなかった。
猿鳥「よくわからないけど、そろそろ笹子を治してやるか…」
書類と睨めっこをしながら、これまでの混乱で忘れていた治療という選択を思い出す。
猿鳥「でも治療道具何もなかった…」
気を取り直して右手前の部屋へ。
書類に記されていた近くに行くと、水たまりの中に小さな魚がいることに気付いた。
その魚は血だらけでとても苦しそうだ。
望子 「(この筒の中に入れてあげようかな)」
望子はここにきて初めて銀の筒の蓋を開ける。
中にはそれはそれはとても綺麗な、人間の脳みそがあった。
それはまるで生きているようだった。
望子「 (ここにお魚さんは入れられないな…)」
姫愛羅がどこからか、瓶や医療箱を持ってやってくる。
姫愛羅「薬品みたいなのがあったわ、これで治せるかしら」
猿鳥「笹子ついでに魚も治そう」
笹子「ヤッタァ」
魚と笹子を治療し、壁を調べていく幸男。
すると、一部の壁が奥へと押し込まれる。
何かの起動音と同時に、水溜りの部分にハッチが出現した。
元気になった魚は飛び跳ねるようにその中へと飛び込んでいった。
この先は海に続いているようで、ここから脱出することも考えたが、黄衣のことが気になる青麦を放ってはおけない探索者たち。
何かめぼしいものがないかと倉庫を探索し直すのであった。
望子「光線銃?みたいなのがあったよ
望子は初めて手にしたはずのそれを、自らの知識を総動員させることで扱えるようにしたのであった。
望子「光線銃持つから、この水筒あげるね」
姫愛羅「私が持っておくわ」
中身を見てしまったその筒を、望子は何も知らない姫愛羅へと押し付ける。
そんなことをしながら探索を続けていると、ダイナマイトとライター、それから潜水用の道具を発見する。
簡単に使って良いものではないが、念のためにそれらを携えて探索者たちは祭壇へと向かう。
◆◇◆◇
先ほど見た不思議な絵を他のメンバーに見せないよう、望子と幸男がうまく誘導しながら祭壇へと進む。
祭壇の近くにはスイッチのようなものがあり、我慢のできない望子はすぐさまそれを押した。
起動音のような電子音が鳴り、下へと続く梯子が出現する。
意を決して探索者たちは降りていく。
ちなみに笹子はいまだに簀巻き。
◆◇◆◇
しばらく降りていくと、一つの扉の前にたどり着いた。
それは幾何学的な模様をした不思議な扉であった。望子がいつものようにノックしようとすると、その扉はひとりでに開く。
その先見たこともないような様々な機械が光を放ち、その存在を主張していた。
また、中央には円形の台座があり、その周りにこの世の生物とは思えない、奇妙な化け物が数匹見えてしまっている。
幸男「なんだ?あれ…」
その化け物たちの体長は5フィートほどで、一見すると薄赤色の甲殻類のような生き物だ。
3対の先に鉤爪のついた手足があり、本来頭のある場所には渦巻いたような模様と多数の触角がある。
そな存在は非常に気味が悪く、笹見笹子を再び狂わせるには十分すぎた。
SAN値チェック 1d100=44<=16 失敗
SAN値減少 1d6=5
アイディアロール 1d100=39<=60 成功
一時的狂気発症 殺人癖
笹子「あーーー!誰でもいいから殺させろ!」
現実から逃避するためか、もしくはその本性が表に出てきたのか、突然殺意を込めた眼で暴れ始める笹子。
もし仮に簀巻きでなければ、手にした瓦礫の標的になった者は血を見ることになっただろう。
そして、笹見笹子に加えてもう一人。
冷静ではいられない人物がいた。
それが青麦春である。
台座の上には金髪の女性が寝かされている。
彼は彼女を救出すべく飛び出し、化け物に殴りかかった。
しかし、多少の感覚はあったものの、疲弊していた青麦は鉤爪によってすぐに退けられた。
この一連の流れでこちらを敵と認識した化け物たちが敵意を見せてくる。
-戦闘開始-
まずは猿鳥がその体格を生かした拳を放つ。
ミシミシと鳴る音は効いていることを証明してくれた。
続くように他の者たちも動き出す。
姫愛羅は拳を振るった。
無論、それは化け物へ向けてだ。
しかし、慣れないことをしたのか
足元が狂い、その拳は猿鳥へと向かう。
(こぶし判定 1d100=96<=50 致命的失敗)
姫愛羅「うわぁ!ごめん!」
猿鳥「大丈夫だ。脂のおかげで効いていない!」
動きの鈍らない猿鳥はすぐさま二撃目を加える。
重い拳は化け物たちの一匹を再起不能にさせた。
仲間のダウンに驚いたのか、化け物たちのもつ銃による攻撃は全て見当違いなところへと飛んでいく。
その隙に幸男が台座の女性の元へ駆け寄った。
幸男「黄衣ちゃんは大丈夫だ!」
その声を聞きながら、望子もまた声をあげる。
望子「もちもち光線!!」
なんともな技名を叫びながら、拾ったばかりの銃を撃つ望子。
見事に命中した攻撃は化け物を痺れさせ、さらに猿鳥が拳で追い討ちをかける。
残す化け物はあと一匹のみ。気を引き締めようとしたところで、後ろからの殺意を感じる。
振り返ると、血走った眼で簀巻き状態の笹子が這いずって来ていた。
猿鳥「うわああああ!?」
姫愛羅「猿島さん!避けて!」
瓦礫を咥え、飛び跳ねる笹子。
猿鳥は間一髪でその狂動を避ける。
止まらない簀巻きはそのまま化け物へと突っ込み、同時に地面へと墜ちる。
-戦闘終了-
戦闘が終わり、少し休んだ頃には笹子の狂気も落ち着き、青麦春や倒れていた八星黄衣という女性の無事も確認できた。
しかし、安心したからか、忘れていた恐怖や疲労がまとめて押し寄せ、探索者たちはその場にうずくまることとなる。
◆◇◆◇
しばらく休むことで、なんとか気力を取り戻す探索者たち。望子の往復ビンタにより伸びていた青麦春も目を覚ます。しかし、八星黄衣はしばらく目を覚さなさそうだ。
動き始めてから改めて部屋を見渡すと、台座の奥に壁で描かれた絵を見つける。
祭壇で見た絵と同じような黒い塊が上部にあり、その下で先ほどの化け物たちが何かをしている。
絵の中にはこの部屋にある台座のようなものが描かれていて、光を放っているようだ。
幸男「なんだか嫌な絵だな…」
探索者たちが絵を見ていると、鈍い音とともに台座が光り始める。
現状の不味さを考えた探索者らはこの部屋を丸ごと爆破することを決意した。
爆発の威力によってはこの建物が崩れるかもしれないと考え、足の遅い者たちは出口へと向かうが入ってきた扉は外の雨が溜まっているのか開かない。
猿鳥「これはまずいな…」
望子「海に出るしかなさそう?」
探索者たちは右手前の部屋に現れたハッチからの脱出に、全てを賭けることとした。
一方、爆破担当となった半狂人の笹子はダイナマイトに火をつけて投擲。その後避難を始める。
泳ぎが一番得意な猿鳥が先頭になり、皆で潜水用の道具を装着。
意を決したダイビング。
道具もあり、猿鳥はいい調子で泳ぎを進めるが、思った以上に水面が遠い。猿鳥は遅れている者を引っ張って泳ぐが、体力の限界が迫っていた。
死の意識が喉元に手をかけ始め、誰もが諦めようとした時、それは起こった。
探索者たちは突然、後ろからの水流に押し出される。
これが爆風による後押しなのか、何か別のものなのかを考える余裕は、意識を失いかけていた探索者たちになかった。
そのまま海から陸へと飛ばされる探索者たち。
薄れゆく意識の中で、山田姫愛羅は大きな海龍のような影を見る。
そこで全員の意識は途切れた。
◆◇◆◇
目を覚ますと見慣れない白い天井。
ここはどこかと考えていると、女性の声が響く。
女性「先生!患者さん達の意識が!」
どうやらここは病院のようだ。
長い夢を見ていたのかとも考えるが、自らの身体から伝わる疲労感と達成感が、先ほどまでの経験は決して夢ではなく、自分たちはそれを乗り越えたのだと、強く理解させてくれる。
◆◇◆◇
それから…
八星黄衣は一命を取り留めたが、どうやら記憶を失っているようだった。
青麦春はそれでも彼女の一番近くでこれからも支えていくことだろう。
山田姫愛羅は気づかないうちに鱗のようなブレスレットを手にしていた。
それは不思議と自分の力になってくれると、そう確信することができた。
笹見笹子はいつも通り公園での生活に戻る。
もう瓦礫への執着はなくなっていた。
喪地望子は光線銃を失った悲しみに暮れるも、再び出会った時のために巫女を続けながら書物を漁り、研究する。
小野田幸男は今回の経験でスレを立てる。
こんな話を信じるものなどいないし、きっとそこに心優しい言葉はないだろうが、幸男の心は今までよりもずっと強くなっているので問題ないだろう。
猿鳥辰巳はマヨネーズを飲んでいた。
◆◇◆◇
ある日、笹子はいつもの公園で目を覚ます。
なんだか眠れないので、軽く散歩でもしようと住宅街に繰り出す。
何度も思い出していたあの日の出来事だって、少しずつ風化しようとしていた今日この頃。
長い銀色の髪を靡かせる女性が歩いていた。
それは間違いない、あの日確かに死んでいたはずの灰夜鳴子だった。