【ss】偶然なんて待てやしない

雨が降ってきた。

幸い家を出る寸前にテレビで流れていた天気予報のおかげで傘を持ってきていたけれど、ほとんどのクラスメイトは知らなかったみたいで口々に落胆の声を上げている。

そりゃそうだ。

今朝、家を出る時には雨なんて想像もしないくらいに晴れていたんだから。


「ねえ傘持ってきた?」

「あるよ」

「えー、いいな。入れてよ」

「でも俺、部活あるし無理じゃん」

「そっか。じゃあ仕方ないね」

そんな会話が後方から聞こえてきた。


予報通りの雨と、傘を忘れた君。

偶然が2つ重なっただけでも十分だ。


あとは自分の計算と行動で、どこまでコンボを増やせるか。

君が鞄を手にして「ばいばーい」の声がした瞬間からゲームスタート。


まずは絶妙な距離を保って靴箱へ。

靴を履き替え、校舎を出る瞬間わざとらしく君に聞こえるように「雨ヤバイな…」なんて、わざとらしく呟いてみたりもして。

靴を履き替えた君が濡れるのを躊躇うみたいに一度足を止めて雨空を見上げたタイミングで、意を決して声を振り絞った。

「傘忘れたの?」

「え?…あ、うん。そうなの。最悪だよね」

「良かったら入ってく?」

「えっと…、帰る方向とか同じだっけ?」

「うん。こっち方面だよね?」

指差した方向を見て頷くものの君は少し考えているみたいで。

…そりゃそうか。

同じクラスとはいえ、あまり話したこともなく帰る方向が同じことすら知らない程度の男子と相合傘だもんな。

でも雨は止む気配すらない。


もうちょっと、なにか……


「この感じだと止みそうにもないし、制服濡れたら大変だろうから入っていきなよ」

「………そうだね」


よし!!!!


偶然はほんのきっかけだ。

たったひとつの偶然が起きたところで、何かが大きく変わることなんてあんまり無くて。

でもそれをきっかけにコンボが長く続くように連鎖させられることが出来たら、きっと何かが大きく変わる。


「ありがとう!」


だってほら、こんな素敵な笑顔が見られた。



*end*



相合傘は身も心も距離が近付く感じがして仲良くなるきっかけとしては十分過ぎる出来事ですよね。
今回もお読み頂きありがとうございました。

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