【2020.04.17】優しいニヒリスト、ヴォネガットおじさんに癒してもらうしかない
どうにも気分が上がらない。なんだか読書にも手が付かなくなってきた。こんなときは小難しい本は手放し、ただただ浸るだけの小説に手を出す。そうして昨晩は、まずぼーっと本棚を眺めて、心惹かれた何冊かの本に手を伸ばした。
最初に手に取ったのは『風の歌を聴け』(村上春樹著、講談社)。
この本は僕にとって「読書のリズムを取り戻す薬」。言葉を読んでも頭に入ってこなくなってきたときは、この本を投薬のように読むようにしている。村上春樹さんもご自身の文章を「音楽的」だと表現しているけれど、わかる気がする。流れるように、止めどなくするすると文章がしみ込んでくる。これまで何回読んだかわからない。
が、もう少しいつもと違う気分転換も入れたいと思い、続編である『1973年のピンボール』(村上春樹著、講談社)も引っ張り出す。
この本は「通路」の物語だと解釈している。入口と出口を結ぶ通路をしっかりと通すことの意味を教えてくれる。どうしても書かなければ先に進めない、そんな文章を書き切ろうと決めたとき、とてもお世話になった。通路を通して、言葉をしっかり出そうという決意をくれた。
が、これも数カ月前に読んだばかり。ということで、さらにその続編である『羊をめぐる冒険』(村上春樹著、講談社)と入れ替えて、今度こそ読み始めた。
やはりするすると言葉が入ってきて心地良い。40ページほど気持ち良く読んだところで、ふとその先に想いを馳せる。この先の展開の読後の気持ちを、いま欲しているだろうか?と。
求めている読後感はなんなのか。そう問い直してみたときに、欲している感覚は「報い」「誠実」「癒し」だった。そんな感覚を与えてくれる物語はなんだろうか?
そうして昨晩最後に手に取ったのは、『カート・ヴォネガット全短篇1 バターより銃』だった。
優しいニヒリスト、ヴォネガットおじさんに癒してもらうしかない、と。最も好きな短篇、リンカーン高校音楽科ヘルムホルツ主任教諭シリーズの「セルマに捧げる歌」が収録されているのは4巻だけれど、1巻からひとつずつゆっくり読み込んでいくことにした。
が、これが裏目に......
4巻、合計約2,000ページ。98の短篇が8つにカテゴライズされているのだけれど、1巻に収録されている短篇のカテゴリーは、
「戦争」
しかも、その最初の最初にくる短篇は「王様の馬がみんな......」という、中盤とんでもなく気落ちする物語......。
戦争のシーンを描かずして戦争を描くヴォネガットの創意。この物語では、それがチェス盤上で行われる。実際の人間を盤上で動かす残虐なチェスとして。人の命を操る者が、人としての感覚を麻痺させて行う駒運び。人の命を危険に晒さなければならない者が、誰かを犠牲にするという残酷な意図を、手を誤った「失策」として演じる誤魔化し。
ひとつひとつの感覚の描写に凹む......。
とはいえヴォネガットの小説は、残酷に感じたり救いがないと思わされるシーンも出てくるけれど、たいてい最後にはとても優しい救いが待っている。それが決して予定調和な感じがせず、まっすぐに響いてきて、世の中の優しさや正義を信じたいという気持ちにさせてくれる。
あの感覚を求めて、今晩以降もひとつずつゆっくり順番に読んでいこうと思う。
ゆっくり、順番に......でも「セルマに捧げる歌」だけは、先にもう一回読みたい......あれはショートフィルムにして欲しいと思うくらい素晴らしい......。
明日・明後日の土日は、本来なら二日連続でフルマラソンを走る予定だった。けれど、そのうち日曜日に申し込んでいた大会が中止に。自主練で同じ距離を走りたいところだけれど、この自粛ムードのなか、三密ではないにしても、なんだか気まずい感じがしてしまい、気乗りしない。
目標を見失ってくるとダメだな~。やっぱりヴォネガットおじさんの物語に励ましてもらおう。