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子どもに「14億問題」解かれたアプリをどうやって開発したか

5年前「算数忍者〜九九の巻」というアプリをリリースした。当時、ソシャゲ開発に行き詰まり7名まで成長していた会社は私とデザイナー2人だけが残る形となっていた。事業をたたむかの瀬戸際で最後のチャンスを子ども向け学習アプリに賭け、「算数忍者〜九九の巻」を2人で企画し3ヶ月かけて開発。そしてこのアプリが教育学習に新たな可能性を生み出す事になり、今では会社は11名に成長し、数多くの学習アプリを展開。そして世界中の子どもたちから「14億問題」解かれる事になった。

なぜ「14億問題」解かれるアプリシリーズを作る事ができたのか?それは二人が「教育者」ではなく「デザイナー」だったからなのではと思う。

ソシャゲ開発で行き詰まり、会社をたたむか悩んでいる最中、iPadが我家にやってきた。当初は使いみちが得にあるわけでなく、ネットを検索したり、youtubeを見る専用機になっていた。ある日、年中(5歳)だった次男が画面に向かって額にシワをよせ、真剣な眼差しで指を数えているのが見えた。近寄って画面を覗き込むとそこには簡単な「3 + 1=?」が表示されており、その下には複数の選択肢の数字が羅列されていた。左手に3つの短い指をたて、右手で人差し指を天井に向け、左から右へ頭を動かしながら数えている。

「いち,にー,さん,よん」

そして数字の4をタップし、正解していた。

これを見て驚いた。答えを出した事にではなく、だれも足し算を教えた事がないのに勝手に足し算をしていた事にである。「教えてもらう → 繰り返し練習する → 身につく」というのが一般的な勉強プロセスだと想う。ただ目の前でおきていたのは「教えてもらう」というプロセスが完全に抜けていたものだった。

なぜこれが可能だったのか?長年デザイナーという経歴から導き出した答えが iPadの優れたUI / UX が表現できるデバイス能力にあると理解した。教育者であれば「教える」ための教育メソッドにフォーカスしがちだと思うが、ここには「教える」ための教育メソッドはない。算数の問題を繰り返し行い、その繰り返しのプロセスから学ばせるというのが学習につながっている。

ただその時に息子が使っていたアプリはデザイナー目線で言うとまったく魅力的ではなかった。適当に選んだのだろうと思うフォント、無機質な背景、最低限のアニメーションと無に等しい演出。これでは端末がもつUI/UXの可能性をまったく引き出してはいない。もっと子ども目線で、直感的な操作で、デザインの作り込みのクオリティーを上げれば、子どもが喜んで繰り返し学習するアプリが作れるはず。そう思い、息子が使い終わった後しばらくAppStoreを検索するもその思想に近いアプリは見つからなかった。

新宿にあるパスタ屋「ラ・パウザ」で私と二人だけになった共同設立社兼デザイナーの篠原とランチをしていた。ここ数週間は決まってこの「ラ・パウザ」でランチをし、会社をたたむのかの話を続けていた。暗い話が続く中、篠原に息子に起きた出来事とその時に感じたiPadと学習アプリの可能性を話した。そこから話は膨らみ、久しぶりに二人でアイディアの出しあいが続いた。そして2時間が経過し、ある結論に至った。

「最後の悪あがきとして子ども向けの学習アプリ作らない?」

二人で最初に作った「算数忍者〜九九の巻〜」は3ヶ月ほどで作った。UI/UXを最大限に活かすためにツールはデザインやアニメーションの幅が大きく広がるUnity3Dを選ぶ事にした。エンジニアではなかったが、ぶっつけ本番でプログラミングに挑み、篠原は全てのデザインを担当した。作りながら毎週金曜日には自宅に持って帰り週末に自分の子どもや近所の子どもに遊ばせて反応をみた。作りたかったのは、直感的に操作できて「教える」必要がなく、繰り返し遊んでくれるアプリ。だから、「これ遊んでみて」とだけ言って子ども達に渡してその反応をみた。

不合格は5分以内で返してきたとき。「面白いよ」と言われても5分以上続かないのであれば魅力が足りないと判断し、週末開けの月曜日に内容を共有してさらにデザインなどの調整を繰り返した。最終的にはボタンのアニメーション一つでもコンマ何秒単位で調整を行ったりもした。

リリースしてすぐに分かったのがユーザーの反応が期待以上だったこと。勉強にまったく興味がなかった息子や娘が短期間で九九を覚える事が出来ましたというレビューが数多く書かれた。さらに学習に本当に苦しんでいる発達障害を持つ子どもに大きな効果を発揮しているという感謝のメールを親から貰うようにもなった。なかには医者にこのアプリを処方され、効果にビックリしていますというメールもあった。

この「教える」プロセスのない、デザイナー観点から作った「繰り返し学習ができる」アプリは一見ゲームに見えるが、それ以上の深みを生み出していると感じている。そして「国語」「地理」「英語」とアプリ数を増やし、今では14億問題を世界中の子どもたちに解かれる実績を作る事ができた。会社も今では11名になり、ARなどの新しい技術を使いながらもっと効果のある学習アプリを日々開発している。

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