煩わしき太陽と、かわいい子犬
あまりに運動不足なので、昼休みに外に出てみた。
久しぶりに太陽の下に出た僕は、あまりの眩しさに目を開くことができずに、手を空に向けて「ぐああああ」と唸りを上げた。
さながら、それは陽を浴びた吸血鬼のようであった。
なぜ、陽の光とはこれほどにも煩わしいのであろうか。
昔から僕は、根っからの夜型人間であり、「太陽の光を浴びなければ元気が出ない」という人の気持ちがわからなかった。どちらかというと満月を目にして遠吠えする狼の気持ちの方がよほどわかるくらいだ。
もし、天上から紫外線をふりまく光の玉への殺意に奮起する様を、「元気に満ち溢れている」というのであれば、もしかしたら僕も皆と同じように太陽のおかげで「元気が出ている」と言えなくもないのかもしれないが。
そんなことを考えながら歩いていると、向こうから犬と一緒に歩いてくる若い女性がいた。
とても元気のいい、小さくかわいらしいわんちゃんで、リードにしばられながらもあっちこっちに動き回り、とってもうれしそうにしている。
「そうか、お前も陽の光にもたらされる喜びを享受しているのだな。お前の姿は、俺にとってあまりにまぶしすぎる…」
などと思いながらすれ違おうとすると、じっとこっちを見ていることに気づいた。
僕は、次の行動をどうすべきか、測りかねていた。
本音を言えば、「かわいいわんちゃんですね!よーしよしよし!」と言いながらその子犬と戯れたかった。だがしかし、この夏場には不釣り合いなひきこもりホワイトの肌と黒いマスクを見せつけながらそうする自信はなかった。
不審者として飼い主に通報される危険がある、僕はそのリスクに屈した。
見つめながら、すれ違う僕の足元によってくる子犬。
すまない、俺は君の期待には応えてやれそうにない。
背中に突き刺さる子犬の視線を振り切るように歩く速度をあげる。
昼休みが終わりそうなことを確認すると、昔から犬に好かれがちな僕は少し物悲しい気持ちになりながら家路につくのであった。
陽の光は誰の元にも平等に降り注ぐ。
楽しそうにはしゃぎまわる子犬の姿が脳裏に浮かび、せめて彼が大好きな陽の光を浴び続けられるようにと、遥か上空のオゾンに願った。
追記
僕はてっきり、犬に仲間だと思われているのかと思っていたが、どいつもこいつも足元によってくるので、単に僕の足元から犬みたいな臭いがしているというだけかもしれない。
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