狂人 in 梅田①
「は…?」
ある言葉が、俺の顔を一瞬で青ざめさせた。
「延長は、できませんねえ」
俺は宿すらも取らずに大阪の梅田に降り立ち、ネットカフェに暫く寝泊まりしていた。特にそうしなければいけない必然性などという物はなく、単に探すのが面倒であったのと、宿代をケチったからに他ならない。
「1400円になりますね」
俺は、真夜中3時にネットカフェから放り出された。
――――――――――なんということだ。
3時に電車やバスが走っているわけもなく、新宿にもよく似た雑多なこの町にも、明かりらしい明かりは灯っていない。
どうやら歩くしかなさそうだ―――疲れ果てた身体に鞭を打とうとしたが、一発たりとも耐えられそうにない。
そしてまた、この3日でした、食事らしい食事は菓子パンを一つ齧ったのみであったので腹も減った。
理由は先と同じく金銭に不安があったからではなく、なんとなくケチって、またなんとなく空腹という類の苦しみは耐えられそうだと思ったからである。
俗に言う、世に蔓延る〇〇チャレンジというものだろう。
さしづめ今回の断食チャレンジにおいては、よく耐え忍んだと思う。
実際精神的には苦しみらしい苦しみはなかったが、身体が先に悲鳴を挙げた。
そして寝床から追い出されたストレスも相まって、ついに、忠実なるしもべであるはずの自分の身体が、ストライキを起こしたのである。
とんでもない腹痛と眠気、そして、夜風が俺に、世界に一人きりしか存在していないのではないかという錯覚を与える。
歩くこともままならず、近くに裏路地でひっそりとビルに背中を預けて寄りかかる。
「ねみぃ…はらぁ…へったなァ…」
絶対窮地の身の上だが、ある願望が首をもたげた。
どうせなら突き抜けてみたい。
どこまでやれるのか、試したい。
一応、現在の窮状から抜け出す方法を考えてみた。
解決法:24時間営業のコンビニに駆け込んで飯を買う。
これはアウトだ。
ここまで来たら、食わずに生きていける仙人として目覚めるか、はたまた精魂尽き果てて、"そうであろう結末として"道端に屍を晒すか、二つに一つなのである。
安易なコンビニエンスに寄りかかってはいけない。
地獄への道が広く口を開けている門から繋がっているのならば、天国への道は、ひっそりと小さな佇まいをした門から繋がっているのだから。
そう、魂を燃やすのだ。人生は"チャレンジ"の連続だ。
”苦難”に”挑戦”してこその人生なのだ。
例え、何度この同じ場面に出会っても、俺は同じ結論に辿り着くだろう。
―――ニーチェよ、見ていてくれ。俺こそ超人(ユーバーメンシュ)の先駆ぞ。
ビルの隙間から見える星空に向かって、最後まで戦い抜くことを誓った。
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