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タクシーの話

アニメ『オッドタクシー』がおもしろい。主人公のタクシー運転手が、客である豪華ゲストを迎えて、小気味よいトークを繰り広げる日常ストーリー…ってだけでも十分楽しめそうだけれど、そこに不穏な影というかミステリアスな要素も加わっている。可愛らしい絵柄とはウラハラに、ハラハラもさせてくれる、ズルいアニメなのだ。

登場人物はみんな動物だけれど、たまたま容姿が動物なだけで、中身はめちゃくちゃ人間くさい。公式ホームページのキャラクター紹介も、それぞれがなんの動物かというのは、特に明記されていない。登場“人”物として、猫の姿をした女の子がいるけれど、それとは別に“動物”としてのネコもいたりする。あと、各話ごとの概要欄もなんか気が利いていて、ニクい。

自分の生活においては、タクシーは年に数回ほど利用することがある(使用理由は決まって終電を逃したときだ)。一番最近お世話になった運転手さんは、いっぱい話しかけてくれる人だった。個人的に沈黙がつづくことが苦痛なので、すこし話せるくらいのほうがありがたい。帰り際、「こんな遅くまでご苦労様、お腹すいているでしょう」と、のど飴を2個くれた。正直飴で腹は満たされないなと思ってしまったのは内緒だけれど、その心意気はとても温かかった。

一方で、少し苦手なタイプの運転手さんに当たったこともあった。自分が待つ停留所に向かってくるときの荒々しい運転を目にして、ちょっと嫌な予感はした。行き先を伝えたら「いやそれは分かるけどもっとわかりやすく言ってよ」みたいな感じのことを言われた。支払いの際は「細かいのない?」と聞かれ、すみません無いですと答えたら、大きなため息をつかれた。まぁ、自分にも多少の非はあったのだろうな。

その日がデビューの新人さんに当たったこともあった。知人の結婚式で遅刻しかけるという失態を犯し、タクシーを利用した。乗車すると、「わたくし本日からタクシー運転手を務めさせていただきます」みたいな挨拶をしてくれた。最初はヒヤヒヤしてしまったが、無事時間に間に合った。とても真摯な人だった。

なんにせよ、その日初めて会う見知らぬ人を車に乗せて、目的地までその人を無事送り届ける(しかも一日に何度も!)タクシー運転手は、へっぽこペーパーの私からすれば、頭が下がるお仕事なのだ。

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