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9.11テロ後のドルはどう動いたのか:歴史的視点から読み解く市場の反応

2001年9月11日に発生した同時多発テロ事件(9.11)は、世界に大きな衝撃を与えただけでなく、金融市場にも大きな影響を及ぼしました。アメリカ経済の中心であるニューヨークを直接襲撃したこの事件は、ドル(USD)の動きにどのような影響を与えたのでしょうか。本記事では、9.11テロ後のドルの動きと、それに伴う市場や政策の変化について詳しく解説します。


9.11テロ直後のドル相場の動き

即時的なドル安

9.11テロが発生した直後、世界中の投資家はドルを売り、比較的安全とされる資産(ゴールドやスイスフラン、日本円など)に資金を避難させました。その結果、ドルは主要通貨に対して下落しました。

  • 日本円対ドル:事件前は1ドル=121円付近で推移していましたが、事件後には118円台まで急落しました。

  • ユーロ対ドル:事件前に比べてドル安が進行しましたが、テロ発生当時のユーロ圏経済も脆弱だったため、大きな値動きは限定的でした。

株式市場閉鎖とその影響

9.11テロ直後、ニューヨーク証券取引所(NYSE)は4日間閉鎖されました。この間、市場の流動性が低下し、不安感が高まりました。取引再開後、ドルはさらに売られる展開となりました。


中長期的なドル相場の動き

ドルの回復とその理由

事件後の数週間から数ヶ月でドルは徐々に回復に向かいました。その背景には以下の要因があります:

  • FRB(連邦準備制度)の迅速な対応
    FRBは事件直後から迅速に金利を引き下げ、流動性を供給する政策を展開しました。9月17日の市場再開時には0.5%の利下げを実施。これにより市場の不安を和らげる効果がありました。

  • アメリカ経済の回復力
    テロによる短期的な経済への打撃があったものの、アメリカの強固な経済基盤と消費意欲がドルの回復を支えました。

戦争リスクとドル高

その後、アメリカが「対テロ戦争」を宣言し、アフガニスタンでの軍事行動を開始したこともドルに影響を与えました。一般的に、地政学的リスクが高まるとドルが買われる「リスク回避資産」としての側面が強まり、ドルは上昇する傾向があります。この時期も、一定のドル高が見られました。


他の市場との関係性

株式市場

9.11直後、米国株は大幅に下落しました。ダウ平均株価は、取引再開初日に684ポイント(約7%)下落し、歴史的な下げ幅を記録しました。この株式市場の不安定さは一時的にドル売りを誘発しましたが、その後の金融政策の対応で安定を取り戻しました。

金価格の動き

ドル安の進行とともに、投資家は金を安全資産として買い増し、金価格が急騰しました。これはドルと金が逆相関の関係にある典型的な例として注目されました。


9.11テロ後の教訓

ドルの二面性

9.11テロは、ドルが「リスク回避資産」としての役割を持つ一方で、大規模なショックが発生した際には売られる可能性があるという二面性を浮き彫りにしました。短期的にはドル安となり、中期的にはドル高に転じる動きが繰り返されました。

政策対応の重要性

FRBをはじめとするアメリカ政府の迅速な対応がドルの信頼を回復する重要な要素となりました。特に、金利政策と市場への資金供給が、ドルの回復力を支えたことは注目に値します。


結論:9.11テロがドルに残した影響

9.11テロは、ドルをはじめとする金融市場に多大な影響を及ぼしましたが、アメリカ経済の回復力と政策対応の迅速さによって、その影響は短期間で克服されました。ドル相場の動きは、テロ直後の急激なドル安から、その後のドル高へと変化し、ドルが依然として世界経済の中心的な通貨であることを証明しました。

この出来事から学べるのは、金融市場は政治的、経済的ショックに非常に敏感である一方、適切な政策対応が市場の安定をもたらすという点です。9.11テロのような出来事は、ドルの地位を試す重要なテストであり、その後の動きはドルの強さを再確認させるものでした。


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