「石読み」 完成度が高すぎて好き
初めまして、シカと申します。
自分の中の「面白い」という感想を掘り下げるためにNoteを始めました。
感想を書くことはおろか、このようなWeb記事の文章を書くのも初心者でございます。お手柔らかにお願いします。
今回取り上げるのは2020冬の四季賞を受賞した薄雲ねず先生の「石読み」という読切漫画です。
中世ヨーロッパ風の架空世界で「石読み」という架空の職業をテーマにした穏やかかつ厳かなファンタジーです。
自分の中では好きな読切トップ3に入るぐらいこの作品が好きで、その完成度の高さと読みやすさから、Noteで初記事を書くならコレにしようと決めた次第です。
※注意事項
この記事は作品の紹介ではなく、私の感想を整理することを目的としているため以下の点に留意してください。
・作品のネタバレがあること、また未読の方に対する配慮はあまりありません。この記事の読者層がどうなるのか予想がつきませんが一応ここに明記いたします。
・この記事では分析っぽいことをしていますが私は専門家ではありません。広い心でお読みください。
面白かったところ編
この「石読み」という作品は短い掌編や1つの詩のように感じます。話の規模が小さく、派手な事件やショッキングなイベントもありませんが、「もっと話を膨らませてほしかった」という不満を感じなかったのが印象に残りました。
終始落ち着いているのに物語上必要な感情の起伏はありますし、「死」を丁寧に取り扱っているため厳かではあるものの陰鬱な感じはしません。
小さくても短くはない話の進行中に読者を引き込むような工夫をされていたんだと思います。
たぶんその工夫の中の1つに衣装デザインの良さがあるんだろうなと思っています。
例えば、石読みの衣装は祭儀や咒い(まじない)の関係者だと一目で分かりますし、ヒカタの衣装には身分の良さを感じさせる鎧飾りが備わっています。
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それから、自分が気になったところでいうとイェンとヒカタがお互いの衣装にケチをつけあうシーンがありまして。(下画像参照)
この場面は「初見の読者でも伝わる衣装デザイン」だからこそできるセリフの削り方をしていて、作者が「この見せ方なら伝わる」って確信しながら描いているみたいでカッコいいです。
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今挙げた例は彼らの仕事着、正装でしたが、部屋着や寝間着なども手抜かりなくキャラごとに書き分けられていてすごいです。個人的にはヒポグリフめいた生き物に乗るときの恰好が好きですね。
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次に当時の審査員、藤島康介先生のコメントを見ていきます。
何よりもまず、その画力が素晴らしい! 作中の舞を踊る場面など、特に人間の体と布を描くのが抜群に上手いですね。
https://afternoon.kodansha.co.jp/award/results/2020d.html
「体と布」というのはおそらく下画像のような踊りのシーンを指しているんだと思います。
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ただ私は絵を描く人間ではないのでよくわかっておらず、素人目線から「綺麗で上手に見える」程度で、「特に〇〇の箇所が上手い」とか技術的な話はさっぱりです。わかるようになりたいところです。
審査員コメントの続き↓
架空の職業である「石読み」という詩的な題材にリアリティーを持たせるのも巧みで、大きな物語の中の一編を読んでいるようでした。
https://afternoon.kodansha.co.jp/award/results/2020d.html
この作品を読んで思ったのですが、架空の設定に「リアリティー」を持たせるには設定と設定の間に有機的なつながりを持たせることが重要なのかもしれません。
例えば、作中では岩山の多い山岳地帯に鉱物と咒い(まじない)の国があり、そこに石と咒いを司る石読みという職業があることになっています。
このように自然環境と国の特色とその国に住む人の営み(今回は職業)に繋がりが見えていると、読者に「リアリティーがある」と思わせられるのではないかと思います。
またイェンの設定を見ても、職業としての石読みには「自然に対する感覚が鋭敏である」という資質の条件があり、その資質に由来するヒカタとのエピソードがあり、その時のショックを原点に性格や悩みが形成されるというつながりを見ることができます。
それぞれの設定が矛盾なく滑らかに展開されるので、「イェン」というキャラを読者はすごく自然に受け入れられるんでしょうね。
ただ、設定が繋がりすぎるとそれはそれでデメリットもどこかにあるんだろうなという気はします。
上述の通りイェンの設定はすごく練られてますが、クユラの役回りもかなり好きで掘り下げ甲斐があります。
イェンは彼女のことを「隙間に入っていける」「世界にある枠組みの中を泳いでいける」と表現していました。
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ですが彼女の役割はただ入るだけではなく、世界の色々なところにある隙間に入っていけるからこそ、その境目に立って手前と向こうを繋いだり橋渡しをしたりする役割もあるように思います。それを見込んでイェンが自らを看取るように頼んだのでしょう。
また、最初にイェンに出会うシーンや葬式での舞をモノローグで語るシーンは、クユラの目線を通して読者にイェンというキャラを紹介する意味があり、抽象化して言うならば物語と読者の隙間に彼女が入って両者を繋いでいるように読めます。
このようにクユラは、「何かと何かの間に入って両者を繋ぐ」という一貫した役割を作中でもメタ的に見ても持っています。こうしたキャラはシンプルに理解しやすくなり、短編や読切のような必然的にキャラの登場シーンも限られる形態では、その短い出演のうちに読者にキャラを理解してもらおうとするなら、このような役割の一貫性は効果を持つのではないでしょうか。
最後の場面では「イェンの死」という避けられない終わりに向かって、物語中に散りばめられた様々な要素、「石読み」という職業の生涯、イェン自身の人生、それからクユラの役割などが一つに収斂していきます。
イェンの人生を物語る上で「死」まで含めるにあたり、物語の冒頭から読者に「このお話では死の要素を含みます」と示していることや、「物語の主要人物が死ぬ」からといってただ悲しいだけの終わらせ方をしていないところから丁寧な話作りをされていると感じました。
不自然にハッピーエンドに持っていくのではなく、この作品に流れる空気や摂理に逆らわずに、大地に還る自分を受け止めた上でのイェンのもつ願望には全く淀みがありません。
この最後の場面は石読みらしく踊りによって大地に還り、イェンとしてヒカタとクユラに見送られることを望み、(どうしてその二人が不可欠なのかもこれまでに十二分に語られていて、)物語の要素を結んでまとめるにふさわしい幕引きだと思います。
わからなかったところ編(3つ)
ここからは読んでいてわからなかったポイントの整理です。
作品自体が難解であるというより、ひとえに私の読解力不足が原因です。
もっとわかりたかった……。
こまごましたものも挙げればキリがないですが、「重要なシーン/セリフっぽいのにわからなかったな」といったものに絞って書いていきます。
1つ目は「土を泳ぐ銀の魚〜」から始まる歌の意味
元は海辺の村娘たちが漁師の無事を祈る歌だそうですが、ハイファンタジー風情のある語彙・比喩をしているのにその意味が全然わかりません。「海の枝」ってなんでしょうね?
あとこの歌はヒカタが帰る直前の夜にも挿入されていますが、それもどうしてなのかわからない……。たぶんクユラの感情が込められているような気がします。
イェンを還すときにはどういう意味を込めて踊るんでしょうね?無事に流れたかった遠くまで流れるように…みたいな?
2つ目も1つ目に近いシーンですがクユラが鳥の彫刻を見て祖母のことを思い出すシーンです。やっぱり一人離れたところに来てしまって他人には見せられない寂しさがあったのでしょうか?
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3つ目は「ああ 今 世界が溶けてる」というモノローグです。
最後についてさんざん書いておきながら恥ずかしいんですけど、ここも上手く解釈できなくて非常に悔しい。
「『イェン』や『クユラ』といった個の存在、自然にある『山』、『生』や『死』なんかも溶けて一つになる・混ざる・境界がなくなる」みたいな雰囲気なんでしょうけど、いまいち自分が納得できるところまで落とし込めてない感じです。最後の締めなのに。
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終わりに
今回は自分がこの作品を読んで思ったことや気づいたこと、抽象化できそうなこと、わからなかったことをまとめてみようと思って書いてみました。
ですが「面白い」と感じた部分を探ろうとして迷走しました。明確な反省点です。
わからないと感じた部分を素直にわからないと言い切り、見栄っ張りは抑えられたでしょうか。また逆に卑屈さは過剰になっていないでしょうか。
まだまだ感想を書きたい作品は他にもありますし、この記事を書いている間は新しい読切を全然漁ることができなかったので、ほどほどに続けていく所存です。そういう所信表明です。
また、それとは別に今回紹介した石読みの作者、薄雲ねず先生がアフタヌーンでとうとう連載を開始しました。「レーエンデ物語」のコミカライズだそうです。
下記リンクはコミックDAYS内の第一話のものです。
記事を書くにあたり、変なノイズになることを恐れて私はまだ読めていませんでしたがこれでようやく手を出せます。
最後に、この記事は私自身辟易するほど長たらしく感想にしろ分析にしろ稚拙で目を覆いたくなる有様であり、あまり他人様に読んでいただくような体裁を取れていません。
それでもこの記事が誰かの感想の補助線になれば幸いです。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
もしまだ読んでいないのであれば、当記事で紹介した作品をお読みになってください。
そしてもし次があればまた私の記事を読んでください。
参考リンク
・今回紹介した作品「石読み/薄雲ねず」(コミックDAYSに繋がります)
・四季賞2020冬 最終選考結果(審査員や作者コメントがあります)