楽譜の入手とコピーと製本
楽譜の入手については「建前」と「現状」がかなり乖離している。建前は著作権法などの法律を遵守したものであるが、現状は予算の関係等から守られていない。しかしながら、予算がないという理由だけで超法規的措置を黙認しつづけると、将来にかけて音楽業界が衰退していくことになる。法律を守ろうとすれば現在のアマチュアオーケストラの活動費を値上げしなければならなく、法律を守らなければ将来の音楽業界が成り立たなくなる。何とかしなければならない問題である。
本来、楽譜は演奏者の人数分購入して使用しなければならない。1セットだけ購入して足りない分をコピー譜とするのは著作権法としてはアウトである。正規に認められた貸出楽譜を使用することは問題ないが、練習の開始から本番の日まで借りておかなければならない。練習開始前に借りて、返却期限後はコピーして使用するというのも規約違反となるし、人数分のパート譜を借りなければならない。目的の曲を過去に演奏した他団体から楽譜を借りてコピーして使用するというのも違反となる。スコアをコピーして切り貼りでパート譜を作成するのも違反である。楽譜のコピーは基本的にはすべて法律違反と思っておくべきである。
現実的には、法律を完璧に守るために楽譜を購入するとなると予算不足からスクールオーケストラとして活動ができなくなってしまうというパターンも存在する。交響曲のパート譜のセット価格は数万円~10万円くらいである。セットで足りない分を追加購入しようとすると、1人あたり1000円~2000円程度かかる。一回の演奏会で数曲演奏するとなると、そのぶん掛け算をしなければならない。
楽譜を購入したら、その楽団ではその楽譜を使用した演奏をする権利を永久的に有することになる。なので、楽譜は大事に扱ってもらいたい。楽譜を管理するために、「楽譜袋」と呼ばれている物に各パート譜とスコアをセットで入れておくのが慣例である。楽譜袋はマチのある茶封筒でもバインダーでもかまわない。ワンセットでまとめて扱えるようなものを準備する。団で購入した譜面には団の蔵書印を押すのが慣例である。
楽譜を揃える際は、スコアとパート譜の版を揃えなければならない。版によって練習番号の振り方が異なっていたり、校訂が違うと音やアーティキュレーションが異なっていたりすることもある。なので、パート譜とスコアは版をそろえるのが基本である。予算の問題もあることから、スクールオーケストラの場合は版を揃えることにこだわらなくても、まあ何とかなる。各部員が持つポケットスコアを自前で準備する場合もパート譜と版を揃えるのが本来のあるべき姿であるが、日本製の安価なポケットスコアを購入するのでも構わない。また、著作権の切れた楽譜はIMSLPで公開されているのでそれを用いても構わない。インターネットからダウンロードしてしまう方が費用はかからないし、気楽に書き込みができるという利点もある。公開されている楽譜は77万冊を超えており、スクールオーケストラで演奏するようなメジャーな曲はほぼ全てそろっている。インターネット上にアップロードされている楽譜は、時々違法にアップロードされているものが混ざっていることや、海外の法律では合法だが日本の法律では違法となるものもあり、本当に著作権に対して問題ないかを確認しながら使用しなければならない。
International Music Score Library Project (IMSLP)
https://imslp.org/wiki/Main_Page
著作権法は各自で読んでほしい。特にスクールオーケストラでは「改正著作権法第35条運用指針」を理解しておく必要がある。演奏会開催のための著作権法(著作権法第38条)と学校内の授業のための楽譜コピーに関する著作権法(著作権法第35条)を混合して考えてしまう人もいるが、別物である。
著作権法に則れば、楽譜のコピーは基本的には違法である。しかしながら、例外的にコピーが認められる場合がある。例えば、団として人数分購入あるいは正規にレンタルしているが、個人練習をするために各個人がコピーをする場合などは著作権法に違反しない。アマチュアオーケストラやスクールオーケストラでは、団で保有している楽譜に団員が直接書き込みをしながら練習することはできないだろう。プロのオーケストラでは書き込み自体もその団の知的財産となるが、初心者が自分専用でない楽譜に指番号などを色々書きこんでしまうと、後々に使用する人が見にくくなってしまう。インターネット上にアップロードされている著作権が消失した楽譜を利用する場合はコピーすることが可能である。
また、楽譜は研究により進化しているものである。作曲者が元々書き損じている場合もあるし、過去の解釈が未熟だったりする場合がある。そのような間違えが校訂作業により作曲者が本来意図していただろうものに長い年月をかけて修正されてきている。最も有名な交響曲であるベートーベンの交響曲第5番「運命」でさえも、初演から200年以上たった現在も未だに校訂作業は続けられている。インターネット上の楽譜は、そのような校訂作業が杜撰なものや古い校訂のものが多い。インターネット上の楽譜にはそういったデメリットもあるが、初心者が多い部活動として、あるいは音楽に馴染むためという目的の場合は最初の一歩としてインターネット上の楽譜を利用するメリットは大きい。
楽譜を個人利用するためにコピーする場合、楽譜のサイズに注意しながら行うべきである。特にインターネット上にアップロードされているファイルをそのままA4サイズで印刷してしまうと、本来の楽譜より小さくなることがほとんどである。楽譜は伝統的に「菊倍」と呼ばれているサイズで作成されてきた。菊倍(304mm×218mm)はA4サイズ(297mm×210mm)より少し大きいサイズである。楽譜をスキャンしている人たちは余白を含めた紙全体を取り込んでいる。一方でその楽譜を利用する人たちは楽譜の本来のサイズを気にせずにA4で印刷してしまっている。また菊倍サイズの楽譜は実寸大でコピーしようとすると余白を削ったとしてもA4サイズに五線が入りきらないことも多々ある。B4サイズの紙にコピーすればそのような問題からは回避できる。新聞や文庫本で使用されているフォントの大きさがどの出版社でもだいたい同じであるのと同様に、楽譜にも標準的なサイズが存在する。楽譜の標準的な五線の幅は7mmであると考えるようにしてもらいたい。それよりも小さければ知らず知らずのうちに縮小コピーしていると思うべきである。
スクールオーケストラのような若い人達の集団では、五線のサイズが小さくても十分に見えるのかもしれない。しかしながら、縮小コピーでは書き込むスペースが小さくなってしまう。楽譜が見にくいがために、いつのまにか演奏姿勢が悪くなっている人もよく見かける。そうならないように、個人利用で楽譜をコピーする際は標準サイズを意識すべきである。家庭で印刷するにはA4サイズが簡便であるし、持ち運びもA4サイズである方が楽であることも理解できる。メリットデメリットのバランスを考えて使用してもらいたい。老眼が始まった年代の人は楽譜を譜面台に乗るサイズの最大限まで拡大コピーして使用している人もいる。拡大コピーする分には、楽譜が譜面台に乗りにくくなる以外にデメリットはあまりない。
コピーされた楽譜は製本したり、スケッチブックに貼ったり、楽譜用のファイルに入れたりして使用する。バラバラのまま使用するべきではない。製本はB4など大きめの紙にコピーしておけば、余白をのりしろとして冊子を作製することができる。紙を貼り合わせるために紙テープ、メンディングテープ、サージカルテープを使用することもある。セロハンテープは楽譜の開け閉めや譜めくりをしにくいので紙テープ等の方がおすすめである。楽譜の製本の方法は図を参照してほしい。コピーした楽譜をスケッチブックに貼る方法は簡単だし書き込みがしやすいが、持ち運びが不便である。楽譜用のファイルに入れる手もあるが、どうしても端の方への書き込みがしづらい。楽譜用ではない一般的なファイルに入れてしまうと書き込みができないのでお勧めしない。製本はどのような方法でしてもかまわないが、見開きにした時の左右のページが本来の楽譜と同じようになるようにしなければならない。本来の楽譜において右側だったのか左側だったのかはページ番号の位置を見ればたいてい推測できる。パート譜はある程度譜めくりのタイミングを考慮して作成されている。左右を逆にしてしまうと譜めくりのタイミングが悪くなることがある。製本にかかる費用としては、糊付けで製本するのが最も安価である。メンディングテープなら譜めくりにストレスはなくなるが、費用は高くなる。スケッチブックやクリアファイルを使用する場合、演奏会で使用し終えた曲を抜き取ってしまうなどの工夫をすれば費用を抑えることはできる。エキストラを頼むような団体では、糊かテープで製本したものをエキストラに送付することが多い。エキストラに渡す楽譜はどのような製本方法でもかまわないが、決して縮小した楽譜ではなく、本来のサイズの楽譜を渡すべきである。
余談であるが、各学校の校歌の譜面はしっかりと管理されているだろうか?校歌の譜面はお金を出しても購入できないものなので厳重に管理してほしい。紛失騒動で適当に音を作られたものが代々伝わっていることもある。そもそも学校で保管している元譜が間違っていることもある。私事であるが、自分が通った小学校から大学までの4曲の校歌のうち、高校と大学の校歌は楽譜にミスが存在した状態でホームページに公開されていた。どちらもミスに気づいたのは卒業して10年以上たってからであったが、学校側に指摘して修正してもらった。