おニャン子のおっとりさん・吉沢秋絵【後編】

前編の続きです。

3rdの曲の紹介の前に…
実は、おニャン子クラブ当時の吉沢秋絵は、おっとりした見た目とは裏腹に多忙すぎるアイドルだった
ソロ活動、グループ活動、1年間のドラマ出演……さらに加えて、実は彼女、全日制の女子高生だったのだ。
おそらく当時の秋絵ちゃんは、日本一忙しい女子高生だったのではないかと思う。

さらにさらに、1986年の春は、進路を考える高3の時期になってしまった。
成績が低下したことで、春のソロコンサートを終えてから勉強に力を入れることに。
(それでもスケバン刑事には毎週1シーンでも出演していたのだから凄い。)

おそらく、これら4つの活動を掛け持ちできなくなった時点で、秋絵ちゃんの“おニャン子クラブ卒業”は決定していたのだと思う。
そして正式に9月に卒業することが発表されたのだった。

3rd『鏡の中の私』

おニャン子クラブ卒業直前に出したのがこの曲だ。
同時期、学業も安定して進路の目処がつき、またスケバン刑事IIもクランクアップに近づき…
ここで秋絵ちゃんは、おニャン子やスケバン刑事のイメージから卒業することが必要だった。
「鏡の中の〜」では、それまでの曲とは異なり“そのままの吉沢秋絵”を見せたのである。

秋絵ちゃんのシングルでは初めてのメジャー調で、ゆるやかなメロディ。しかも、一番見たかった笑いながら歌う秋絵ちゃんが。
「そうそう、彼女にはこういう曲がピッタリだったんだよ!」と嬉しくなってしまった。

鏡のなかを覗き込む秋絵ちゃんは、不安だけれども最後は微笑んで、明るい未来と少し大人になったことを感じさせる。
個人的に、秋絵ちゃんの曲のなかで一番の佳曲だと思う。


4th『流星のマリオネット』

おニャン子を卒業して本格的にソロ活動に力を入れ始めた、ソロ完全1発目。

曲自体はマイナー調に戻ったが、内容は卒業前と大きく変わった。【相手と愛し合っているのに、心は孤独】
デビュー曲では「子どもじゃない」と言ったかと思えば、2ndでは「子どものままでいい」とグチャグチャに揺れ動いていたが、その時期はもう卒業。
秋絵ちゃんは成長して大人の心を知ったのである。

歌声はとても優しいのに、悲しく切なそうな表情で歌うのがとても良い。
曲の意図や気持ちに入り込めて表現できており、明らかにアイドルとしての表現力が成長している。
しかもこの頃になると歌も上手になってきているし、垢抜けてきて一層美人になっている。
星のような旋律がところどころにちりばめられて、気持ちのはかなさが強調されており、完成度が高い一曲だ。

翌87年も、映画版スケバン刑事への出演、おニャン子の解散、大学への進学(あれだけ忙しかったのに凄い!)がありながらコンスタントにアイドル活動を続けた。
『シグナルの向こうに』、『雨の花火』、『あなたより素敵な人』と、この時期はしっとり大人になった秋絵ちゃんを堪能することができる。
しかもどれもすごくいい曲で、歌も上手くなっているのだ。

ここも語りたいけど、秋絵ちゃんが88年に出した最後の曲が、個人的にお気に入りなのでちょっと端折らせていただく…すまない。

8th『マロニエ通り』

“AKIE”名義で出した、最後のシングル。
マロニエ通りとは、マロニエ(トチノキ)の木が立ち並ぶパリのシャンゼリゼ通りがモデルと思われる。

この曲、聴いたときに秋絵ちゃんの魅力がぎゅっと詰まっているなあ、と思った。
やわらかで優しい秋絵ちゃんの歌声が、ゆったりした音楽にとっても似合うのだ。
シティポップとしてもかなりの名盤だ。

最後に語る秋絵ちゃんの言葉にも癒される。
この台詞は、レコード、カセット、CDで異なり、連ねるとひとつの文になるというお楽しみ。
音楽も、世界観も、そして台詞も文系の彼女にぴったり。

曲の内容は【生まれ育ったマロニエ通りをはなれ、冬がやってくる…】というもの。
実際最後のシングル曲だし、歌の活動から離れてみたいという気持ちを示唆していたのかもしれない。ちょっと切なくなる。
だけど秋絵ちゃんの歌声は聴くものを優しく包みこむようで、そこに悲しさは微塵もない。
最後に彼女にふさわしい曲に出会えてよかったと思う。

あとがき おわりに

翌89年にはベストアルバムを出して歌手活動を休止した秋絵ちゃん。
その後も、主にバラエティでのタレント活動を続けていたが2年後の91年にひっそりと引退した。

引退後には、自分で書いたエッセイも出版している。
芸能界引退後、一切表に出てこない彼女の気持ちがしたためられた貴重な書籍であるが、流通量さえ少なくかなりのレア本となっている模様だ。

以上、吉沢秋絵のアイドルとしての歩みを振り返ってみた。
80年代後半、彼女のようにやわらかでおっとりした“癒し系”アイドルは一定の需要があった。
他に思いつくのは、菊地桃子、西村知美、佐野量子あたりか。
吉沢秋絵も“癒し系アイドル”の一人であり、ちゃんとその役目を全うしたのではないか、と思うのであった。

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