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パレスチナ連帯とガザの青年と日米二人の女 【前編】

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これは、日米の女二人がタッグを組んで、パレスチナ ガザ地区の一人の青年を生かす為に金という名の血液を送り続けた話です。

日本の女こと私が、ガザの青年マフムードと知り合ったのは2024年8月初めのこと。
Twitterを開いたらDMが来ていて、誰かが身元確認(※1)をしたガザの人で寄付のお願いだろうと軽い気持ちでメッセージを開き、プロフィールを見たら、日本の寄付界隈(※2)ではまだ身元確認された形跡がない。
それまで、私は有志の方が身元確認をしたパレスチナ人に、5ドルかせいぜい10ドル、月に一万円を超えない位の金額を時折寄付していた位で、ガザの人と自分で身元確認して一からコミュニケーションを取るのは彼が初めてだった。

身分証と自撮りの提示に快く応じてくれた彼に、「皆にもあなたのことを知ってもらって寄付を呼びかけたいから、あなたのこと少し教えてくれる?」(tell me a bit about yourself )と問うと、「たくさん教えるよ」(tell you a lot about myself )と返ってきて、人懐こい人だなというのが第一印象。
名前はマフムード、22歳で、6人兄弟の長男、両親含めた8人家族で現在は路上で避難生活を送っているが、侵攻以前はフリーランスでAIを扱う仕事をしていて日に100ドル稼いでいたのだと誇らしげに教えてくれた後、今度は私のことを尋ねてきた。「仕事は何してるの?」、「いくら稼いでる?」、「君の写真も送ってくれる?」 
初対面で収入を聞いたり自撮りを要求するのはいささか不躾だなと思いつつ、嫌な気にならなかったのは彼の人懐こさのせいだと思う。(しかしこちらは初対面の相手に究極の個人情報であるIDや位置情報を要求しているわけで、世界はなんと不均衡なことか!)
私はそんなに稼いでないよと返事した後、自撮りを送ってあげると「君は日本人だよね?今の日本が裕福じゃないことは知ってるけど、日本の人と話すのは好きだな」と言ってくれた。そして、せっかく知り合ったので€10の寄付をしたのだが、付き合いがこんなに深くなるとはその時は考えもしなかった。
その数日後にも彼は話しかけてきた。PayPalアカウントが永久凍結(※3)されてしまい、クラウドファウンディングのお金が引き出せなくなった。新しく立ち上げたいからGoFundMe(※4)の代理人になって貰えないか?とかそんな話をしたと思う。GoFundMeは日本から立ち上げできないことと、一応私もSNSで呼びかけて見るけど、欧米のフォロワーはいないからあまり期待しないで、欧米在住の支援者を自分でも探すよう伝え、クラファンを立ち上げたら一番に寄付をする約束をした。その後、彼はヨーロッパ在住の支援者を見つけ、すぐに新しいクラファンを立ち上げたので、約束どおり最初のドナーになった。この時に寄付したのが€50(日本円で8,000円超)。私にしては高額だったので、この時点で私はこの青年に好感を抱いていたのだと思う。
 
それ以来、彼は毎日話しかけてくるようになり、毎日Twitterの DMでチャットをするようになった。
どうしたら寄付が増えるか?という話もしたけれど、ほとんどは他愛無い世間話で、お互いが今日何していたかとか、私がアラビア語を学びたいと思っていると言ったら、「アラビア語はとても簡単だから、今から教える」とボイスメッセージを送り合って発音指南されたり、ある時は朝起きたら(ガザと日本の時差を考慮すると繋がりやすいのは日本時間の深夜でだいたい私が寝落ちる)、マフムードからいくつかボイスメッセージが届いていて、開いたら自分で調べたであろう日本語でのメッセージだったこともあった。それらは私の宝物なので公開はしないが、その中の一つは「たくさん苦しみました」という日本語だったことはお伝えしておく。

その頃には既に、私にとってマフムードは単なる支援対象ではなく大切な友人になっていて、彼と話すのが楽しみになっていた。
毎日他愛ない話をして笑っていたので、私が話している相手は、どこか平和な国の若い男の子なのではないかと錯覚するほどで、そうであればどれほど良かったかと思う。
しかし、彼はテロ国家イスラエルによる現在進行形のジェノサイド下にあるガザで、絶え間ない空爆を受け数回に渡る避難を余儀なくされ、今は海辺の粗末なテントで避難生活を送っている。私が報道で見ている、血の滲んだ遺体袋、爆撃により手脚が千切れた遺体、首のない子ども、そういったものが身近にある、死と暴力がとても近い場所にある人間なのだ。

そんな彼が、初めて弱音と怒りを吐いたのは、住んでいた家がイスラエル軍による空爆で破壊され、軍の撤退後に瓦礫と化した自宅を目前にした時。

瓦礫と化した自宅跡地にて

「父は全てを失い、母はその母親(彼にとっては祖母)を失った。自分は住んでいたアパートを失った。(それだけでなく侵攻時大学生だった彼は取得するはずの学位やキャリアも奪われている) 姉は産まれる前の子を、姉の夫も家と仕事を失った。ネタニヤフも、ハマースも、この戦争に関わったすべての人間を呪う。もう耐えられない、今すぐ止めてくれ !」 

 かける言葉が見つからなかった。ごめんなさい。止められなくて本当にごめんなさい。この戦争犯罪に加担している国の市民である私のことも呪っていい。

そして、彼のもう一人の支援者のアメリカ人女性、サラ(仮名)の名前を聞くようになったのもその頃である。
マフムードによると、サラは裕福な女性で出会ってすぐに650ユーロもの高額寄付をしてくれ、また定期的に募金活動をして数百ドルは簡単に集めるのだと言う。
私もスタンディングなどプロテストの場に募金箱を持参するが、通行人が入れてくれるのは小銭ばかりで数百ドルなんてとても集まらない。日本とアメリカの経済事情の差はあるが(なんせ遠くパレスチナにまで日本の経済衰退は知られてる位だし)、サラの募金活動がどんなものか知りたいと思うようになった。

(後編へ続く)

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Twitterアカウント

※1
現在イスラエルが意図的にガザへの物資搬入を妨害しているので、物資は足りず物価上昇は通常の100倍とも200倍とも言われている。ガザの人の多くがジェノサイド下の現在、労働による収入を断たれているので、個人でクラウドファウンディングを立ち上げ寄付を募って生活している。
パレスチナ人を騙る詐欺もあるので、身分証明書や自撮り、位置情報で身元確認をしてからでないと寄付をしてはいけないと言われている。

※2
旧Twitter上でガザの人たちから話を聞き取り、寄付を呼びかけたり送金をしているコミュニティ。

※3
パレスチナ人の資産が永久凍結される話は良く聞き、パレスチナへの経済制裁の一種だと思われる。

※4
アメリカ発祥のクラウドファウンディングサイト。欧米在住の代理人に立ち上げてもらう必要がある。現在多くのガザの人がこのクラファンに頼って生活している。

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