筍前線
筍前線なるものがあると最近知った。
これを三月半ばから必死に追い出すのが私である。
九州産に始まり、産地が北上すると共に南の産地の筍は安価になってくるのをひたすら見続けお得な筍を買い漁る。
そして筍が日本から出回らなくなる直前まで追い続け、最後まとめて茹で上げ冷凍庫に保存し、春の名残を一年かけてちびちびといただく。
そのくらい筍が好きだ。
昨年のことであった。そろそろ筍も終わりに近づいた5月、岡山産であったか5キロの筍が3000円で販売されていた。もう八百屋にも出回らなくなった、今年もこの辺りで茹で納めかと購入することにした。
5キロもの筍様が我が家にやってくるかと思うと胸はいっぱいお腹はぺこぺこである。
そして待つこと2日、筍様を抱えた郵便屋さんのチャイムは鳴らされた。いそいそ玄関を開ける。
"重いですよ、気をつけてくださいね。"
と申し訳なさそうな郵便屋さん。いえいえ、こちらこそワタクシめのために筍様を運んでくれてありがとうと感謝こそあれそんな顔をなさることはない。
と、玄関まで筍様を入れてもらったのだが…何か様子がおかしい。部屋へ運び入れようとするがもの凄く重い。まともに運んだら腰がやられそうな重さだ。
おかしい、確かに5キロのはず…急いで購入履歴を確認してみる。
たけのこ 20キロ 3000円!!
いつのまにか5キロが20キロに変更されており、箱の中には筍のバケモノがびっちり詰まっていた。
呆然。この筍様たちをどうやって茹でればいいのだろうか…戦いが始まった。いつもなら頭を落としてそのまま茹でるが、そんなことをしていては鍋に入らない。とにかく皮を剥くしかない。無心に皮を剥くこと1時間、筍様の皮はゴミ袋2袋分になった。
次はあく抜きだ。幸いぬか床の足し糠用の糠があったのであく抜きには事足りる。
ありったけの大きな鍋をだす。三口コンロ全て火を全開にして茹でる、茹でる…こと、2回戦4時間。筍様に全力で向き合った5時間であった。
部屋中、筍の青い香りで満ち満ちて、春の名残の中に初夏が近づいていることを想う。もう山は笑っているのだ。日本が一番美しい季節(と、私は思っている。)
がやってくる。と同時に筍も終わりで少し切なく思ったものだった。
旬のものはたくさんあるが筍はほんの一瞬で市場から消えてしまう。水煮も売ってはいるがやはり茹でた筍とは風味も食感も全然違う。違いを見せつけてくるあたりも筍は憎らしく愛らしい。今年も私の筍愛は止まらなかった。まだ4月は半ば、去年の出来事を踏まえてももう少し私は筍前線から目が離せない。