【謎はいつもそこに】昔の友達
地域のお祭りに行くと、懐かしい友達に再会することが多い。
中学や高校の同級生に会えたり、知っている子供が大きくなっていたり、なんだか毎年面白いのだ。
今年はかなりレアな再会が起きて、大昔にカフェで一緒に働いていた人に会った。
当時、私はデザインの専門学校に通っていて、放課後はカフェでバイトしていた。そのカフェはまったく普通のカフェだったのだが、多分オーナーの趣味で従業員は若い女子だけで構成されていたから、みんなそれぞれ仲良くなって遊んだりしていたのだ。
その中にいた★ちゃんは2〜3歳年上で、たまにご飯を食べに行って話し込んだりする仲になった。おしゃれで可愛い★ちゃんは、素敵な女の子だった。
ある時、★ちゃんの妊娠が発覚した。
相手は深い絆で結ばれていた彼氏で、彼は社会人だったからすぐに結婚することが決まって、バイトメンバーは祝福ムードに色めき立った。
それから程なくして、いよいよ彼が正式に★ちゃんの家に挨拶に行くんだって、髪も短く切ったんだって〜、と誰かが言ってた頃だったと思う。
★ちゃんの彼が事故で亡くなってしまったのだ。
バイト仲間から深夜にかかってきた電話でそのことを知らされ、その日はほとんど眠れなかったのを覚えている。
そこからの★ちゃんの人生はかなりハードモードだったと思う。
妊娠中や産後しばらく経ってからも時々会っていたけど、私には話を聞いてあげるくらいしかできなかった。
出産も結婚も経験していない実家暮らしの19歳の私には、★ちゃんの状況がすべて計り知れなかったから何も言えなかったし、何もしてあげられなかった。
お子さんが3歳くらいの頃までは時々思い出したように会っていたけど、★ちゃんの躾が厳しすぎて見ていて辛くなったり、★ちゃんにも彼氏ができたりして、少しずつ疎遠になっていって
私もそのうち夫に出会ったり、結婚して子育てが始まったりで今に至っていたのだが、ほんの数日前に★ちゃんと彼を思い出す場所を通ったことで、どうしてるかなぁと思い出していたのだ。
その★ちゃんが祭りの境内にいるのを見かけたのである。
絶対にそうだ!とすぐにわかった。
でも、声をかけていいのかわからなくて躊躇してしまった。(そう見えないことはわかってるけど)私は意外と引っ込み思案なのだ。
そこそこ広い境内に人も多い状況だったから、たまたま近くに来たなら声をかけようと思って、気にせず盆踊りを何周か踊ったりした。
また別の高校時代の友人にばったり会って立ち話をしていた時に、目の前を★ちゃんが通って、がっつり目が合った。
「★ちゃんだよね?!」
爆音で盆踊りの曲がかかっているから、大声で呼び止めた。
彼女も驚いていたけど、私がどこの誰か、わかってくれてるのか今ひとつ自信が持てなかったので名前を言うと、
「わかってるよぉ〜!」
と言ってくれて、少し話せた。隣にいる男性はもしかして…と思ったら、やっぱり息子さんだった。すっかり大人の男性になっていて、3歳だったあの子が!と感慨深かった。
こんなふうに一緒にお祭りに来てくれるような優しい男性に育ったのは、★ちゃんが旦那さんの悲しみを持ちながら、ひとり本気で向き合って育てた結果なんだなと思った。
あの頃の若かった私には、見ていて苦しくなる程厳しく子育てしているように見えてたけど、きっと子供も彼女もお互いに本気で“生きてきた“んだ。
それが伝わってきた。
「今も誰かと会ってる?」
と聞かれて、当時のカフェメンバーのことだとわかり、
「誰とも繋がってないよー、★ちゃんは?」
と聞くと、具体的なフルネームをひとり挙げてくれたのだけど、まるっきり知らない名前だった。
「あ、もう忘れちゃったかな」
と★ちゃんは笑ってたけど、私の中でひとつの疑惑が持ち上がった。
あれ…?これはもしかして…
やっぱり私が誰かわかってないんじゃ…?!
中学とか高校の友達と勘違いしてるのかな???と勘繰るくらい、そのフルネームの名前は知らない人だった。
疑惑を抱えつつもまた少し話し、息子さんとも話し、和やかに別れた。
私たちが話しているところを少し遠目に夫が見ていたようで、★ちゃんと別れてから夫がやってきて
「なんかさっちゃんのこと本当に思い出してなさそうじゃなかった?」
と言ってきたので、
「やっぱりそう思った?!ちょっと私も自信なくなってきてたんだよね」
なんて話し、
でもこういうのって数日経って「ああ!」って突然思い出したりするから、きっと何日かしたら思い出すよ〜、ということで落ち着いた。
私は昔からちらっとでも会った人の顔は忘れないし、名前も一回で覚えるタイプだから、たまに記憶力が良すぎて気持ち悪がられることもある。
だから相手が私を覚えてなくても、私が記憶力良すぎるだけだから仕方ないと思っているのだ。
とにかく、★ちゃんが私を覚えていてもそうじゃなくても、あれからもきっと彼女の人生には色々あったのだろうけど、変わらず元気に生きていて、息子さんも素敵に育っている事実だけで十分だった。
それから二日が経ち、キッチンでジンジャーエールを仕込んでいた時だった。
突然あの名前の人を思い出したのだ!
★ちゃんが今も会ってると言った、フルネームの子を!
少しお姉さんだったため、当時バイトを仕切ってくれていたあの人だ!
顔もプロフィールも思い出し、自分の記憶力自慢はもはや過去の遺物なのだと思い知った。
数日経って「ああ!」と言ったのは私の方だったのである。
完成したジンジャーシロップを冷蔵庫から出した炭酸水で割って飲むと、炭酸がほとんど抜けててなんだかなぁと思ったのだった。