新型コロナと脳
発症してから21日が経った。今週から仕事も再開しているし、少し出かけることもできるようになった。通常の生活が戻りつつある今、様々な感覚がある。
私は医療従事者でも学者でもないから、これは一人のアーティストのただの感想文だと思って読んでいただけると嬉しい。
発症してから10日目くらいのこと。
体調的には日々回復している実感もあり、あと2〜3日したら働けるかもしれないな、という気持ちが湧いてきた頃だ。
ふと夜中や明け方に目が覚めると、いつも体に意識を向けた。
息苦しさやコロナっぽさがないことを私は体の隅々まで感じて、確認して、安堵する。
だけど、どこかで本当に逃げきれた自信がないのだ。
“これで本当に助かったのか?“そんな疑問が湧くのである。
死に近づいたことは確かにトラウマになったかもしれないけど、そういう感傷的なことではない。
私は、“コロナウイルスが体内に入る前の私“とはもう違う私になっている。
発症する前までいた世界とは違う場所に移動してしまった。そんな体感がある。
同時に感染した友人夫婦と定期的に通話でシェアリングをしているのだが、やはり二人も同じ体感を持っていて「コロナ前の自分にはもう戻れないんだなっていう気持ちになる」と言っていた。
誕生や死がゲートをくぐることと同じように、私たちはコロナというゲートをくぐり、次の世界に行ってしまった。そして戻ることはできない。
まるで次元を引っ越したような感覚だ。
新しい世界は、なんだか空が異様にきれいに見える。彩度や質感が今までと違うというか、そっくりな別世界に見えるのである。
このことは友人たちも同じように感じていて、毎日空がきれい過ぎて驚くと言っていた。
コロナから逃げきれた自信がないのはそういう意味で、まるで“コロナウイルス“というチップを埋め込まれてしまったことで自分が別の自分になったり別世界へ移行してしまったような感覚だ。
高熱で寝込んでいた時、突然「デフォルトモード」という言葉が頭に響いた。
なんだろうと思い、とりあえずその言葉を検索してみると「デフォルト・モード・ネットワーク」というものがヒットした。それは脳の状態を表す言葉だった。
これまで、脳は集中した時に疲れ、何も考えていない時は休まると考えられていたのだが、近年の研究では何も考えてない時の方がエネルギーを使うことがわかったらしい。その仕組みの鍵となるのがデフォルト・モード・ネットワークだと言う。
話をしたり走ったりと、意識的な活動に使われるエネルギー量は5%なのに対し、脳細胞の維持や修復には20%使われている。そして残りの75%は何も考えていない時や意識的な活動をしていない時に消費されているらしいのだ。
この75%の状態をデフォルト・モード・ネットワークと呼ぶ。記事の中では自動車のアイドリングで喩えられていた。
そこで有効なのは瞑想で、緊張でもリラックスでもない第三の心的状態となり、エネルギーの消費を減らすことができるらしい。
前回の記事で、私はもうダメかもしれないと思った時に斉藤一人さんの脳の話を何度もリピートして聴いていたと書いた。ここでも脳だ。
一人さんは「脳は自分が頑張らなくて済むようにサボりたがるんだよ。だから脳に騙されちゃいけないよ」と言っていた。
デフォルト・モード・ネットワークの過剰なエネルギーの浪費は、もしかしたら脳の作戦なのではないか、と思う。脳は常に私たちを上回って、斜め上を行くからだ。
一人さん曰く「病気をしてる時、脳に『お前がやってるって知ってるぞ』って言い続けると脳が『まずい』と思ってやめるんだよ。それを言ってすぐ治った人もいるし、言い続けて3ヶ月ですっかり治っちゃった人もいるからやってみてね。...だけどまずいことにこの話は今脳も聴いてるんだよ。だから『それなら4ヶ月病気でいればこの人諦めるな』って脳は思うんだよ」
第三の心的状態という瞑想は、そんな脳の“裏をかける“ということかもしれない。
新型コロナウィルスの体験談を観たり読んだりしていて思うのは、その人の弱いところに出るのだなということ。
人によってお腹の調子を崩したり、腰が痛くなったり頭痛だったり、ベーシックな症状以外にその人の弱いところに不具合が出る。そんな風にピンポイントで弱点を理解して突いているのはウイルス自体がやっているとは思わない。
確実に脳が伝達したり、指揮をとっているはずだ。
味覚や嗅覚がなくなるのは、決して味わう能力や嗅ぐ力が弱まるわけではない。
感覚器と脳を繋ぐ電気信号が遮断されるからだ。
私は、昔祖母の痴呆が進んだ時に、祖母の嗅覚がなくなった事を思い出した。
匂いがしないからヘアコロンを大量につけてしまい、家中ヘアコロンのものすごい匂いが充満している中、祖母は「何も匂いがしない」と言っていた。
痴呆の原因も、脳の老化である。
新型コロナは脳をジャックするウイルスなのではないかと思うのだが、今のところ世の中にそういう話は出てこない。
これはあくまでも一人のアーティストの感想文である。