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ファンケル肌研究の最前線(前半)
こんにちはファンケル総合研究所note編集部です。
記念すべき第一回は「ファンケル肌研究の最前線」と称し
今年8月20、21日に大阪にて開催された加齢皮膚医学研究会で発表した、皮膚に関する最新研究について、前半・後半の2回に分けてお届けします。
発表者である高橋理子さんにインタビューし、その最新の研究内容を
わかりやすく紐解いて行きたいと思います。
はじめに
編:今回「触覚の鈍化が皮膚状態と関わる可能性」という題名で発表されたとのことですが、まずは学会発表お疲れ様でした。
高橋:ありがとうございます。お陰様で発表は好評で、成功裏に終えることができました。今は本研究を論文として提出するために鋭意執筆中です、春以降には学会誌に掲載予定です。
高橋理子さんプロフィール
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自己紹介
■入社年度(中途入社)
2006年
■研究分野(経験)
皮膚科学、免疫、安全性、薬理(薬物相互作用含む)
■研究の信念
自分の感性を信じて冷静に判断し、楽しんでやりきる。
■趣味
散策(街、山、海)、音楽鑑賞・演奏、絵画鑑賞・製作、ガーデニング、心地よい空間づくり(整理整頓)
■好きなもの・こと:家族・友人との「おうちごはん」、民芸品、陶芸品、里山(特に棚田)、日本文化(茶道、華道、書道)、建築。
編:普段高橋さんは「ビューティサイエンス研究センター 皮膚科学第一グループ」に所属されていますが、普段はどのような研究をしているんでしょうか?
高橋:所属部署の名の通り 皮膚科学=肌に関する研究を行ない、肌のアンチエイジングをテーマに取り組んでいます。
これまでファンケルは創業以来、
化粧品に防腐剤等を使用しない「無添加化粧品」
によって多くの方々の肌トラブルに向き合ってきました。
防腐剤等の添加物が肌にどんな影響を及ぼすのかを明らかにし、無添加を使い続けることでどんな恩恵があるのかー
そんな研究を深めてきました。
編集:添加物の影響と肌状態については、過去にリリースが出ていますね。https://www.fancl.jp/news/pdf/20220610_sukinkeaseihinnochoukishiyouniokeruhadanoeikyou.pdf
肌にとってマイナスとなる添加物はエイジングにつながる。
無添加へのこだわりがアンチエイジングの近道、ということでしょうか。
高橋:そうですね。肌にとってマイナスとなる要素を除くことは、肌本来の美しさを保つ方法です。そして近年では、
「肌へのマイナスを無くす」
という観点に加えて
「肌本来の力を高めてプラスへ」
という取り組みも進んでいます。
実は今回の学会発表は「触覚」というアプローチで、肌をプラスに持っていくこれまでにないアンチエイジングの概念に着目した新しい試みなんです。
触覚の鈍化とは
編:新しい試み、と聞くとワクワクしますね!
では早速研究の内容に入っていきたいと思います。
まず、表題の【触覚の鈍化が皮膚状態と関わる可能性】の前半部分の
「触覚の鈍化」とはどのような状態を指すのでしょうか?
高橋:まず「触覚」とは触れたり・触れられている、ということを自覚する感覚のことです。この感覚が鈍くなってしまうことを「鈍化」と言います。
編:なるほど、触れられるなどの刺激があったとしても、感覚が鈍って
「触られていると気づきにくくなった状態」ということですね。
ちなみにその鈍り具合にも色々程度があると思うのですが、感覚の鈍さ・鋭さは計測できるのですか?
高:はい、このディスククリミネーターという器具を使って測定することができます。1ミリ刻みですが、数値化することができます。
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これは皮膚を2本の針先で刺激する器具で、2本の針の間隔が段階的に設けられています。この2本の針を任意の場所、例えばこのように指先に同時に押し付けて使用します。
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2本の針の間隔が広いうちは2点で接していると知覚できますが、間隔を狭めていくとだんだん2点ではなく、1点で触れているようにしか知覚できなくなってきます。
編:面白いですね!お話を聞きながら自分でやってみてますが、だんだん2点なのか1点なのか分からなくなってきます。ぜひ今お読み頂いているみなさんも、指二本の爪の先で手の甲を刺激してみて下さい。
2本の指の間を狭めていくと、だんだん2点なのか1点なのか分からなくなってくるはずです。目を瞑るとさらに分からなくなってきます。
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高橋:実際の計測は測定者が被験者に見えないように器具を押し当てて、何点で刺激を感じるのかをテストしていきます。
この計測法を2点識別検査と言い、
2点を知覚できたとき、
・2本の針の間隔が狭いほど感覚が鋭い
・2本の針の間隔が広いほど感覚が鈍い
ということになります。
編:先ほどから自分の手でやってみてますが… 自分の感覚は鋭いのか鈍いのか気になってしまいました。前段の通り高橋さんはアンチエイジング研究に携わっているということですから、やはり、、、年齢を重ねると感覚は鈍くなってきてしまうということでしょうか?
高橋:その通りです(笑)
詳細なデータは後ほど紹介しますが、
皮膚の感覚は加齢でだんだん鈍ってくる
と言われています。
そして今回の研究では
感覚の鈍化がどのような肌状態と関連するのかを探るべく、さまざまな肌測定を行って検証しているんです。
編:題名の「触覚の鈍化が皮膚状態と関わる可能性」の後半部分ですね!
実際には、触覚が鈍化すると皮膚がどのような状態になる、という仮説なのでしょうか?
高橋:皮膚感覚の鈍化に伴って肌のキメが乱れたり、ハリが失われたりするのでは、という仮説です。先ほどもお話しした通り、皮膚感覚の鈍化はよく知られている事実です。
お年寄りが、低温火傷してしまうほどの高温のお風呂に誤って入ってしまう事例は、広い意味で、こういった感覚の鈍化にも起因しています。
ただ、私の研究対象である触覚、特に「頬」の肌の感覚に関しては、それほど論文等の情報が多くなく、まずはそこの確認データを取得するところから検証はスタートしました。
ここまでのまとめ
・触覚の鋭さは2本の針での刺激で計測できる。
・触覚は加齢と共に鈍化していく。
・「触覚の鈍化に伴って肌のキメやハリが失われるのでは」
という仮説に基づいた研究を行なっている。
頬の感覚を数値化する
高橋:今回は20代から60代の女性に対し、ディスク・クリミネーターによる2点識別検査で、頬の触覚について測定しました。
編:年代ごとに、頬の触覚の鋭さを測定したんですね。
高橋:まずは、結果をご覧ください。
・横軸が年代
・縦軸が2点での刺激と認知できた最小のディスク・クリミネーターの間隔
=二点識別閾値※
・棒グラフの値は各年代の平均値
を示しています。
※ある値を境に意味が変わるとき、その値を閾値と言います。
このテストでは、間隔を変化させていった際に〇〇mmを境に知覚できた、というとき、その間隔の値が閾値=二点識別閾値に相当します。
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高橋:ご覧の通り、年齢を経るにつれて、グラフが伸長しています。つまり
2点の間隔を広くとらないと2点として知覚できなくなっている=感覚が鈍くなっている
ということを示しています。
編:本当ですね、50-60代だと約 7 mmの間隔まで広げないとわからないということは、触覚が鈍くなっているんですね。先ほどおっしゃった、皮膚の感覚は加齢に伴ってだんだん鈍ってくる、というお話そのものですね。
しかし、何故加齢によって2点の識別ができなくなってしまうのでしょうか?
高橋:さまざまな要因が考えられますが、その一つに触覚のメカニズムが挙げられます。触覚を脳に伝える感覚受容器は、皮膚に点在していて、この点在する密度が加齢によって変化したために、2点の識別がし難くなった可能性があると考えられます。下の図のように、赤い点が針による刺激で、感覚神経がマス目のように存在していると考えてみましょう。
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若い頃は感覚受容器/神経が点在する密度が高い
=マスが細かい
加齢と共に密度が低下して密度が下がる
=マスが粗い
マスが細かければ刺激を2点として知覚できますが、
マスが粗くなると刺激を1点としてしか知覚できなくなる
ということが判ると思います。
編:わかりやすいですね!だんだん感覚受容器のマス目が粗くなって、触覚の解像度が落ちていく様が理解できました。
ここまでのまとめ
・加齢で頬の触覚は鈍くなっていた。
・感覚受容器は皮膚に点在し、その点在密度が触覚の鋭さに関わっている。
触覚と肌のキメ
次に、この試験に参加頂いた方々の肌の「キメ」と「ハリ」を測定してみたところ、興味深い結果を得ることができました。
※これより以下のデータは全て30〜40歳代の被験者様のデータについて統計解析したものです。
まず肌の見た目である「キメ」についてです。
三次元で撮影した顔写真を専用の解析ツールで、皮膚表面の形状を数値化しました(縦軸の数値が低いほど肌が滑らか=キメが整っている)。
さらにこの結果をディスククリミネーター測定の結果に基づいて
触覚が鈍化してしまった群(二点識別閾値7mm以上)
触覚が鈍化していなかった群(二点識別閾値7mm未満)
に分けたところ、次のような結果を得ることができました。
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結論として、二点識別検査で7mm以下を判別できた群は、キメが整っている
傾向にあることがわかりました。
編:ちょっと待ってください、急にデータが難しくなりました(汗
一度整理させてください。
・このデータは点が下の方にある方が良い(肌のキメが整っている)
・左側は触覚が鈍化している群(7mm以上接触点が離れていないと「2点で触れられている」と区別がつかない群)
・右側は触覚が鋭敏な群
ということですね。
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編:さらに青い四角い箱と、箱に横線が走っていますが。
高橋:はい。測定したデータを昇順に並べたとき、
・上下1/4を除いた残り半数の集団(1/4以上3/4以下)を箱に見立てたもの
・横線は全体に対してど真ん中の順位を取った方のデータ(中央値)
です。
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編:こう見ると、明らかに7mm未満の群の方がキメが細かい肌、という感じがしますね。
高橋:はい、その通りです。ただグラフの
「見た目では7mm未満の方がキメが整っているな」
というだけでは何も結論付けられません。
詳細は省略しますが、データを統計にかけて、
それぞれの群の間に生まれた差が偶然ではなく必然的な差である
と判断する必要があります。
この「必然的な差」を「有意差」と言いますが、今回の両者のデータには統計上「有意差がある」ことが確認できました(✳︎マークは両者の間に有意差がある、という印です)。
編:つまり今回の測定の結果、
触覚が鋭い群は、触覚が鈍化している群よりも、肌のキメが整っている。そしてそれは偶然ではない。
ということが確認されたんですね!
高橋:はい、これは仮説を裏付ける結果であり、ひとつの発見だと捉えています。実際の肌表面の写真でも、この差ははっきりしていました。
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ー後半へつづくー
ここまでは肌の見た目の部分についてお届け致しました。
後半では、肌の物理的な性質「ハリ」ついて検証した結果について、お届けしたいと思います。