お芝居と音楽〜黒御簾の位置の謎(1/2)
今回は、歌舞伎に使われる音楽のおはなし。
歌舞伎の「歌」は音楽のことといわれ、歌舞伎になくてはならない要素です。
歌舞伎の音楽は、大きく分けて、表に出ずにカゲで演奏する場合と、舞台に出て演奏する場合とがあります。今回は、カゲの音楽の代表、黒御簾(くろみす)音楽のお話です。
黒御簾とは
まずは基本のキ。黒御簾のお話からいたしましょう。歌舞伎の舞台では、舞台に向かって左側にある黒い、簾(すだれ)のかかった部屋があります。この格子窓のある部屋が、黒御簾です。↓
ここは、歌舞伎版オーケストラピット。三味線方、唄方、打楽器や笛を演奏する囃子方がこの部屋のなかで、格子の中から、舞台の様子を伺いながら、多い時は10人程で、演奏しています。
黒御簾で演奏される音楽は、登場人物の出、引っ込み、心情吐露など、その場面の雰囲気にあった曲が演奏されます。
歌舞伎の効果音は、毎日、生演奏で、ひと月の間、役者さんの呼吸をはかりながら、演奏されています。贅沢な演劇ですよね。
以下は、江戸時代の芝居小屋の様子を描いた「大芝居繁盛之図」。この当時は、黒御簾にあたる演奏スペースは、囲われていないようで、どちらかと言うと、舞台袖で演奏しているイメージ。しかも、演奏スペースは舞台の右側にだったようです。
(おまけ)大芝居繁盛の図に描かれている人々
右側、黒御簾スペースの前にいるのは、ツケ打ちさん。役者が見得をする時にバッタリという効果音を出すのが、この方で、昔は大道具さんの持ち場。仕事の合間に、役者に頼まれて打っていたようで、それぞれの役者付きのツケ打ち係がいたとか。
現在では、大道具とは離れて、ツケ専門の職となっていますが、大道具の会社に所属している方が多いようです。
音楽とは関係ないですが、左側の人もご紹介。尻からげをして座っている人がひとり。この人は、舞台番。今でいうところの、警備員さん。昔の客席は、芝居中も飲食自由。お酒が入ってお客が暴れ出すなんてことも。
喧嘩が起これば止め、舞台に上がろうとする客を制止するなどの役割をしていました。
黒御簾の位置の疑問
さて、話を黒御簾にもどします。
黒御簾の位置は現在、舞台の左側(下手)。
しかし、ご覧いただいたように、「大芝居繁栄之図」では、舞台の右側(上手)。
この図から判断すると、江戸時代の芝居小屋は、
①舞台は客席に張り出した形で、下手にも客席があり、後ろにもお客がいる。
②幕が納めらている場所が、下手の天井。
③花道は、現在と同じ、下手側。
いまの歌舞伎では、幕をしめる際は、上手から下手に向かって(右から左へ)ひかれます。幕がはじめある位置、幕だまりは、上手です。
昔も今も、位置は違えど、幕だまりと、黒御簾は対面の関係にあるということはかわりません。
そこで、わたくしは、幕の引く方向をなんらかの理由で変更したために、黒御簾が、上手から、下手にうつしたのではないかと考え、次回は、その理由を考察していくことにいたします。