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【R5予備論文】刑訴法 答案検討

▶︎70minで解いてみた

第1 設問1
1. 問題の所在
 明文はないが、長期の身柄拘束である勾留には、短期の身柄拘束である逮捕手続を先行させるべきと考えるのが、被疑者の人権を不当に制約しない観点から適切である。
 本問の甲は、本件暴行の事実で逮捕手続がとられていないため、勾留が許されないのではないか、つまり、逮捕前置主義の要請に反するのではないかが問題となる。
2. 逮捕前置主義の解釈
 (1) まず、同主義がとられている趣旨は、上記のとおり、比較的短期の身柄拘束を先行させ、被疑者の人権保障を全うすることにある。したがって、原則としては、逮捕のない事件につきいきなり勾留手続に出ることはできない。
 (2) しかしながら、ある事件(A)で逮捕・勾留されている被疑者に、別の事件(B)の嫌疑が加わった場合、新たにBについても逮捕手続きから必ず踏まなければならないとすれば、その分身柄拘束期間は長期化し、本来の逮捕前置主義の趣旨たる、被疑者の身柄拘束期間の長期化防止に逆行することになる。
 (3) そこで、ABともに勾留の条件(理由および必要性)が備わっているのならば、すでにAで逮捕・勾留されている被害者を改めてBでも逮捕手続きをとることなく、交流することが可能であると解する。
3. 本問へのあてはめ
 上記について本問に当てはめるに、甲は本件住居侵入・強盗致傷の事実で逮捕・勾留がなされている状態で、別途勾留の理由および必要性が備わった本件暴行の事実につき逮捕を経ずに勾留することは許されると解する。

第2. 設問2
1. 犯罪事実については、一罪一逮捕一勾留の原則がとられ、不当な身柄拘束の蒸し返しが仕組みとして防止されている。ところが再逮捕は明文(○○条)で許容されるため、それに続く勾留も、許容の余地はあると解する。しかしその許容要件が緩いものであれば、不当な身柄拘束を防止する趣旨を没却してしまうため、一度勾留を終えたあとに新たな証拠が発見されるなどの事由が発生した場合に限られると解する。
2. 本問において、甲は、9月28日に一度本件住居侵入・強盗致傷の事実で釈放されているところ、その後乙の取調べにおいて、甲の共謀を裏付ける新たな証拠が発見されており、改めて同事実で甲を勾留する必要性が生まれていると言える。
3. 以上より、本問では甲を再勾留することが可能である。

以 上

▶︎振り返り

1. 逮捕前置主義の趣旨を把握できてなく、適当に"人権保障"で流してしまった
2. 再逮捕・再勾留(東地S47.4.4)と一罪一逮捕一勾留(仙地S49.5.16)が見事にこんがらがっている
3. 再勾留が許容される場合の考慮事項を覚えてなく、「新たな証拠が発見された場合」のみを挙げているのがまずい

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▶︎インプット

<A. 逮捕前置主義>

  • 内容:勾留を行うには、同一の被疑事実について逮捕手続を先行させなければならないという原則

  • 形式的根拠:条文上、勾留が逮捕手続の先行を予定していると見受けられること(207Ⅰ

  • 実質的根拠:捜査の初期段階では身柄拘束の必要性が流動的であるため、比較的短期の拘束を先行させてその後に裁判官の判断で勾留させるという二重の司法審査を与えることで、身柄拘束期間を最小限にとどめる(不当な身柄拘束を防止する)こと

<B.  再勾留>

  • 原則:禁止。同一被疑事実について繰り返し逮捕・勾留することは、203条ないし205条の厳格な時間制限の意味を没却するから。

  • 許容理由:再逮捕が199Ⅲにより許されるところ、再勾留も明文で禁止されてはおらず、逮捕と密接不可分の関係にある手続であるから。(実際上も、逮捕期間のみで被疑者を起訴するかどうか判断することは通常困難である。)

  • 許容要件:①社会通念上捜査機関に強制捜査を断念させることが首肯し難く、②身柄拘束の不当な蒸し返しではないと認められる場合

  • 考慮要素:上記①②の判断にあたっては、先行の勾留期間の長短(先行が短いほど適法に傾くが、先行が20日満期だったとしても再勾留が即NGになるわけではない)、その期間中の捜査経過(先行にて被疑者がダンマリ決め込んでいた場合は再勾留適法に傾く)、身柄釈放後の事情変更の内容(釈放後の新たな事情によって嫌疑や逃亡のおそれが再び生じること)、事案の軽重(重大事件ほど被疑者を放し飼いにできないので適法に傾く)、検察官の意図、その他諸般の事情を考慮する。

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▶︎自力再起案

第1. 設問1
1. 甲は、本件暴行の事実について逮捕されていないところ、この状態で同事実により勾留をすることは、逮捕前置主義に反しないか。
 (1) まず、逮捕前置主義は、法に明文規定はないものの、刑訴207Ⅰが、勾留には逮捕手続を先行させることを想定した立て付けとなっていることや、捜査の初期段階では身柄拘束の必要性が流動的であることから、比較的短期の拘束たる逮捕を長期の勾留に先行させることが、被疑者の人権保障に適うといった点に鑑み、同主義は法の採用するところと解する。
 (2) そして、先行する逮捕手続が同一の被疑事実に限定される根拠は、条文(199Ⅲ、200、210、60、61等)上、被疑事実ごとに逮捕勾留手続を認めているとみられる点、および被疑者の権利保障にある。そのため、先行されるべき逮捕手続は、同一の被疑者であればよいのではなく、同一の被疑事実を理由としている必要がある。
 (3) 本問において甲は、本件暴行の事実について逮捕手続が取られていないから、上記主義に反し、勾留が許されないように思える。
 しかしながら、同主義の実質的な趣旨は、上記のとおり被疑者の不当な身柄拘束を防ぎ人権保障を全うする点にあった。そうだとすれば、甲がすでに本件住居侵入・強盗致傷の事実で逮捕・勾留されている状況で、別途勾留の要件を備えた本件暴行の事実で勾留をすることは、本件暴行事実での逮捕期間分、身体拘束期間を省略でき被疑者に利益であるから、逮捕前置主義の例外として認められて然るべきである。
2. 以上より、甲を本件暴行の事実で勾留することは許される。

第2. 設問2
1. 本件住居侵入・強盗致傷の事実で甲を勾留することは、一度釈放した同一事実につき再度の勾留となるが、認められるか。
2. 同一被疑事実についての再勾留は、安易に認めれば、刑訴203ないし205条が設ける厳格な時間制限の意味を没却するため、原則として許されない。
 もっとも、再逮捕については、199Ⅲの許容するところであり、再勾留も特段明文で禁止はされていない。また、実際的にも、再逮捕のみで起訴の要否を判断することは難しく、逮捕と密接不可分な勾留についても再勾留と認める余地があると解するのが妥当である。
3. では、再勾留はどのような要件のもと許容されるか。上記原則は被疑者の不当な身柄拘束を防ぐ趣旨に出たものであるから、再勾留による新たな身柄拘束という被疑者の不利益を凌ぐほどの必要性、相当性、不当な身柄拘束でないといえること、が揃って初めて許容される。上記を判断するに際しては、先行する勾留期間の長短やその期間中の捜査経過、事案の軽重といった諸般の事情を考慮する。
 (1) 本問では、先行する勾留期間の中で甲は一貫して黙秘していたため、本件住居侵入・強盗致傷につき特に手がかりは得られていなかった。そして同事実は、無期懲役の実刑もあり得る重大な犯罪事件であり、捜査機関にその捜査を断念させることは社会通念上首肯し難い。そうしたところ、先行する勾留期間後、乙の取調べによって、甲との共謀を裏付ける新たな証拠が発見されている。
 (2) これらの事情を総合して考えれば、同一事実につき再度の身柄拘束を科されることについての甲の不利益を遥かに上回る程度に、再勾留の必要性と相当性は認められる。
3. 以上より、甲の勾留は認められる。

以 上

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再勾留については、当てはめがまだ甘い…。小林先生の答案(H28)が神……

 再逮捕・再勾留は、199条3項の趣旨である逮捕・釈放の繰り返しによる不当な自由侵害を防ぐという趣旨を凌駕する合理的な理由がある場合、すなわち、①新証拠や逃亡・罪証隠滅のおそれなどの新事情の発覚により再逮捕・再勾留の必要性があり、②事案の軽重や嫌疑の程度等の諸般の事情から、被害者の利益を考慮してもなお再逮捕・再勾留がやむを得ないということができ、③身柄拘束の不当な蒸し返しでないと認められる場合に限って適法であると考える。

 ①(略)時間的に接着した日時において被害品と同一物を所持していたのであり、犯人であれば犯行時刻と近接した時間帯に被害品を所持しているであろうことからすれば、本件被疑事実の犯人は甲であると推認することができる。よって、上記新事実は甲が犯人であるとの疑うに足りる理由になるので、再逮捕・再勾留の必要性が認められる。

 ②(略)本件被疑事実の嫌疑は強いと言える上、本件被疑事実は窃盗及び現住建造物放火という基本的には実刑が想定されるような重大犯罪であるから、事案解明の必要性は極めて高く、捜査機関がこれについて被疑者の身柄を拘束できず充分な捜査を尽くせないこととなるのは首肯し難いと言える。よって、甲の利益を考慮してもなお再逮捕・再勾留はやむを得ないといえる。

 ③(略)最初の逮捕勾留当時、甲は一貫して本件被疑事実を否認していたため捜査の端緒を得にくかったため捜査の当たりをつけることさえ難しく、犯行場所であるH県から離れたL県における古美術店での売却である以上捜査機関が覚知できなかったのも無理はないと考えられる。よって、柄拘束の不当な蒸し返しでないと認められる。

https://note.com/shihou_tk4521/n/n0c40dd7e4081?sub_rt=share_sb

(お わ り)

*参考:
判例百選 第11版
辰巳 R5予備 A答案再現&ぶんせき本

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