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微生物学の父 レーウェンフック 顕微鏡を科学に

それまでオモチャだった顕微鏡で、
最初に微生物を発見して研究した人を知っていますか?


少年時代

1632年、アントニー・ファン・レーウェンフックは、
オランダのデルフトに、かごを作る職人の子として生まれました。
デルフトにはおおきな港があり、
世界中から最先端のいろんなものが入ってきます。
日本からもです。

虫めがね

レーウェンフックは16才で学校をやめ、
洋服の生地をあつかう店ではたらきはじめました。
洋服の生地を売るということは、
売る前にちゃんとした生地かどうか確かめなくてはなりません。
細い絹糸ですから、確認するには虫メガネを使います。
当時の虫メガネや顕微鏡の倍率は20倍くらいでした。

もっと見えるものを作りたい

レーウェンフックは、
もっと大きく拡大できる虫メガネを作れないだろうかと考え始めました。

 ※有名なフェルメールの絵「地理学者」のモデルはレーウェンフックという説があります。

世界一の顕微鏡

凝り性のレーウェンフックは、メガネ職人からレンズの作り方を学び、
仕事の合間にひたすらガラス玉をみがきつづけました。
そして、小さいほど拡大率が大きいことに気付き、
直径1㎜の小さなレンズを何百も作りました。
一番よくできたものの倍率はなんと275倍!
もはや顕微鏡です!しかも、倍率は当時としては世界一。

微生物の発見

レーウェンフックは顕微鏡で身近なあらゆるものを観察しました。
1674年、湖の水をとってきて、
観察をはじめた彼はいつも手伝ってくれる娘にむかってさけびました。
「マリア!ちっぽけな生きものがいるんだ!ぐるぐる動きまわっている!」
そこにはたくさんの美しい小さな動くものたちがいたのです。
レーウェンフックが「微小動物(アニマルクル)」と名づけた生きものたちは、
現在、微生物(びせいぶつ)とよばれています。
身近なものを片っ端から顕微鏡で観察したレーウェンフックは、
ほかにも、原生動物や細菌、赤血球、動物の精子などを発見し、
多くの研究者たちをおどろかせました。

ミクロの世界

1665年、イギリスの科学者ロバート・フック
レンズ2枚の顕微鏡を改良し(倍率約150倍)、         
昆虫の体・目・足、植物の花や種など、              
あらゆる小さなものを観察し、生き生きと描写して、
『顕微鏡図譜(ミクログラフィア)』を出版しました。
その中でコルクに小さな穴がたくさん見えることに気づき、
「セル(小さな部屋)」と名づけました。

ロバート・フックが「セル」と名づけたものは、          
今でもセル、日本語では細胞とよばれています。     
アマチュアの科学者であるレーウェンフックの微小動物(アニマルクル)についての報告書は、
プロの科学者であるロバート・フックが確認しました。

そのほかの顕微鏡にかかわるできごと

1653年、ペトルス・ボレルス、逆さまつげなどを顕微鏡で観察し、医療での使い方を提案。
1661年、マルチェロ・マルピーギ、顕微鏡による観察で毛細血管を発見。
 
1855年、ロベルト・レーマック、顕微鏡の観察で細胞はほかの細胞からしか生まれないと宣言。           
1857年、ルイ・パスツール、顕微鏡で牛乳やチーズ等を観察し発酵の原因は微生物であると発表。                
1858年、ルドルフ・フィルヒョー、顕微鏡で細胞を観察し、健康な人の細胞と病気の人の細胞にち
    がいがあることを発表。

1871年、ルイ・パスツール、細菌が人間の病気の原因のひとつであることを証明。
1876年、ロベルト・コッホ、顕微鏡で炭疽病の動物の血を観察し、同じ炭疽病の動物には、同じ形
    の微生物がいることを証明。

 
1927年、ジョージ・ニコラス・パパニコロ、子宮頸部の細胞を顕微鏡で観察し、正常な細胞とガン
    になりかけの細胞を見分けられることを証明。

1928年、アレグザンダー・フレミング、顕微鏡で細菌やカビを観察し、最初の抗生物質であるペニ
    シリン
を発見。
1941年、ペニシリン薬として使えるようになり、感染症で亡くなる人がへる。

現在

ここまでずっとお話してきたものは光学顕微鏡とよばれます。
現在でも、血液検査や尿検査などに使われています。
光学顕微鏡は倍率2000倍が限界です。
1930年代に開発された電子顕微鏡は200万倍の倍率があり、
細胞のなかの細胞核やミトコンドリアのしくみ、
細菌よりずっと小さいウィルスも観察できます。
カグラという原子を見る顕微鏡も活用されています。

レーウェンフックからのメッセージ

実際に見てみないとわからないのは、むりのないことです。

参考文献

サラン・テイラー 著, 本郷尚子 訳. 世界をうごかした科学者たち 医学者. ほるぷ出版. 2020.
フェリシア・ロー 著, 本郷尚子 訳. 世界をうごかした科学者たち 生物学者. ほるぷ出版. 2018.
藤嶋昭 監修. 世界の科学者まるわかり図鑑. 学研プラス. 2018.
芳賀靖彦 編. マンガ年表歴史を変えた科学・技術100上宇宙・生命・知識. 学研プラス. 2021.
茨木保 監修, 鵼りつき 漫画. 医学のひみつ. 学研教育出版. 2014.
藤嶋昭 監修. すごい科学者のアカン話. ナツメ社. 2020
左巻健男 監修. 世界一トホホな科学事典. 西東社. 2019.
米村でんじろう 監修. 実験でわかる発見・発明大百科②. 新日本出版社. 2021.
尾嶋好美 著. おうちで楽しむ科学実験図鑑. SBCreative. 2021
細矢剛 監修. わくわく微生物ワールド①地球ではたらくカビとバクテリアたち. 鈴木出版. 2017.
赤木かん子, 正道 著. 微生物の図鑑ミクロの世界の住人たち. 新樹社. 2016
赤野裕文 著, 会田博美 絵. すっぱいのひみつ. 金の星社. 2021.
北元憲利 著. のぞいてみようウイルス・細菌・真菌図鑑②. ミネルヴァ書房. 2014.
ヘルシスト編集部 編. 乳酸菌、宇宙へ行く. 文藝春秋. 2017.
鶴見俊輔ほか 編. ちくま哲学の森5. 筑摩書房. 1990.
利倉隆 構成・文. フェルメールの秘密. 二玄社. 2008.
尾崎彰宏 著. 西洋絵画の巨匠5フェルメール. 小学館. 2006.
福岡伸一 著. フェルメール光の王国. 木楽舎. 2011.
スティーブ・パーカー 著, 千葉喜久枝 訳. 医療の歴史. 創元社. 2016.
フランク・M・スノーデン 著, 桃井緑美子・塩原通緒 訳.
疫病の世界史 上 黒死病・ナポレオン戦争・顕微鏡. 明石書店. 2021.
スーザン・オールドリッジ 著, 野口正雄 訳. シリーズ知の図書館4図説世界を変えた50の医学. 原書房. 2014
William & Helen Bynum 編, 鈴木晃仁 鈴木実佳 訳. Medicine―医学を変えた70の発見. 医学書院. 2012.
トム・ジャクソン 編, 山野井貴浩 監訳, 日高翼・菅野治虫 訳.
歴史を変えた100の大発見 生物 生命の謎に迫る旅. 丸善出版. 2019
秋山実 著. マイクロスコープ浜野コレクションに見る顕微鏡の歩み. オーム社. 2012.

参考にしたサイト
日本顕微鏡工業会 顕微鏡の歴史https://microscope.jp/history/03.html
 

奥付

微生物学の父―レーウェンフック―顕微鏡を科学に
発行 2022年5月30日
監修 茨城県立医療大学アイラボキッズ代表 鹿野直人准教授
文・絵 島本真帆子
発行所 茨城県立医療大学地域貢献研究アイラボキッズ
連絡先 m.shimamoto@outlook.jp
ラジオトークで「きなさのおやすみ前の読み聞かせ」配信中
科学者の紹介やエッセイなどの朗読配信をしています。

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