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たまにはゾクゾクしたい方へ

米澤穂信というとアニメ化された「氷菓」が有名ですが「満願」とか「儚い羊たちの祝宴」とか背筋が凍るミステリーも多いです。今回紹介するこの小説はまた違う恐怖。

主人公の嵯峨野リョウは、事故死した恋人のノゾミを弔うため、東尋坊に来ていたところ、不思議な眩暈に襲われ崖から転落する。 目が覚めるとそこは、流産で生まれてこなかったはずのリョウの姉・サキが、自分の代わりに嵯峨野家の子として存在する世界だった。

リョウは冷めてて何でもそつなくこなしていくタイプ。熱い人間や一生懸命な人間をちょっと馬鹿にする性格。そんなリョウがこちらの世界に来てみると、あれ、こちらの世界のほうが何か全てが上手く回っている‥人間関係も何もかも。僕のいないこの世界は何だかとっても上手く回っている。あれ、僕っていらない人間なんじゃ‥。
リョウのいる世界では父と母の関係は冷え切っていてお互い不倫し放題。兄はバイク事故で植物人間に。
姉がいる世界では父も母も不倫関係を清算し今では毎年2人で旅行に行くくらい仲良し。兄も大学生活を謳歌している。

頑張っている人や一生懸命な人、熱い人をちょっと冷めた目で見てしまうことは高校生くらいにはよくある気がします。
リョウも決して頑張っていないわけではないし全く情がない訳ではない。
だけど気付いてしまうんです。
自分がいる世界では‥何もかも受動的に受け入れて控えめで気を使っているのに周りの状況、人間関係は一向に良くならない。
父が母がそして兄がどうしようもない人間だと思っていたのに姉がいる世界では全て上手くいっている。
つまり自分こそが「ボトルネック」だったのだ、と。

姉のサキは明るく天真爛漫で時にお節介や周りを振り回しながらも周りを救っていくんです。
リョウはサキに言います。
「もう生きていたくない」
「そんな‥君だって悪いことしたわけじゃない。」
「そう。なにもしていないんだ。」
悪いことはしていない。でも自分を取り巻く状況に嫌気がさしているのに何もしてこなかったことに気付くんです。

リョウももしかしたら状況が良くなるためには‥といろいろ考えたかもしれません。だけど考えているだけで受け身で「周りがよくならない。周りがおかしいからだ」と被害者意識を持っていてもやはり何も変わらないんです。

作者の意図はわかりませんがなんとなくそんなメッセージがあるのではないかと思いました。


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姫草ユリ子
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