あなたはどう生きたいか。
2年くらい前だったか。ネットのニュースで「女性の生涯未婚率がトップなのは意外にも高知県」という記事があったが私はちっとも意外とは思わなかった。
豪快、豪傑。そんなイメージが高知県の女性にはある。（不快に思われる方がいたらごめんなさい）島崎和歌子に広末涼子、そして作家の宮尾登美子。
パン泥棒の作者さんも高知県出身らしいが、どんなお方なのだろう。
宮尾登美子の作品は特別な出来事が起こる訳ではないのに中身はずっしりと詰まっている。そんな感じ。
「土佐の13人の女から紡いだ13の物語」という著者が初めて試みたルポタージュフィクション。ここに出てくる女性は皆強い。
どれを読んでも勇気づけられる話ばかりなのだが特に好きなのが「おさよさんと珊瑚」という話である。
浮気相手の妻が愛人のところに子供と一緒に転がり込んできて（浮気相手は蒸発。身体が弱いとかで俺はもうどうもしてあげられないからこの人を頼りなはれ、みたいな書き置きを残した。）おさよさんが大好きな珊瑚のセールスをしながら皆を養うという。（おさよさんにも浮気相手との間にできた子供あり）
「妾が本妻を養うなんて‥私もほんまに土佐の女やなぁ」と苦笑いするおさよさんがめちゃくちゃ格好良い。大好きな珊瑚に誠実に向き合って商売を成功させたのだ。
土佐の女じゃないとこんな粋な話は思い付かないのかもしれない。
あと宮尾登美子といえば「鬼龍院花子の生涯」が有名だろうか。（ちなみに映画の「舐めたらいかんぜよ」というセリフは出てきません。）
読んでみたらわかるが花子ではなく養子として鬼龍院鬼政の家に来た「松恵の生涯」という感じ。
鬼政（一応父親）の松恵に対する扱いは「時代だから」「ヤクザだから」では済まされないくらいにひどい。ろくに教育も受けさせず全く注意も払わずこき使ってきたくせに、松恵に求婚してきた議員さんに「松恵は儂のものだ」と指をつめさせる‥。松恵に対する愛情というより単に所有物と思っていたのだと思う。
「女の口は噤むためにある」「はしかい女は気疲れする」なんて今の若いお嬢さん方が聞いたら卒倒するだろうな。
宮尾作品は非常に優れていると思うが、珠玉の名作であったとしても現代の価値観に合わないものは否定される世の中だから全ての人に受け入れられる作品ではない。（私は好きだが向田邦子の「あ、うん」とかもそうだと思う）女性差別と感じる方もすごく多いだろう。
しかし松恵の生き方は格好良いとしかいいようがない。
極道の世界を忌み嫌い地に足をつけて生きようと必死に耐えてきて必死に勉強してきた松恵こそが1番義理人情に厚かった。衰退する鬼龍院家や花子を何とか救おうとする姿に読者はエールを送るだろう。
若いときから教師やお針子で生計を立てようと努力し続け50代になってもまた新たに学校で学ぼうとする姿に感服した。
小さなアパートだが、やっと自分1人の城を持った喜び。亡き夫の骨（お葬式にすら出させてもらえなかったので盗んできた骨）の前で紅茶を飲むひととき。ようやく手に入れたささやかな幸せ。
林真理子が「宮尾さんの本は濃く熱く中身がぎっしりと詰まっている。」と言っていたが正にその通りだと思う。
で、このような素晴らしい作品を生み出した宮尾登美子であるが宮尾登美子自身は自己中心で見栄っ張り。方々で借金をしてくる。
再婚相手は新聞社で働いていたのだが借金返済のため、その退職金を返済に充てたほどである。
身内にいたら絶対嫌なタイプの人間だ。
お金を無心することはものすごく勇気がいる。
貸してもらった人との人間関係はもちろん悪くなるだろうし、「あいつは金にだらしない」なんて噂が立てば目も当てられない。
そういえばホリエモンも著作で「好きなことをやれ。金がないなら知り合いに頭を下げて借りたらいい。」みたいなことを言っていた。
これができるのはやはり自分の才能を信じきっているからに他ならないと思う。
凡人の私はかえすあてがないからできません。
とはいえ、「お金がない」と素直に言えるのは良いことかもしれない。（年齢にもよるかもしれんが。）私はお金がなくても、恥ずかしいから「ない」って言えないタイプの人間だが、「ベルサイユのバラ」でポリニャック夫人が「宮廷に出て体面を保っていけるお金がないからでございます‥」って言った時に、マリーアントワネットは「まぁ‥お金がないなんてこの世で1番恥ずかしいことをちっとも隠さずに‥なんという清らかな魂を持った人なのかしら‥」って感動してたもんね。何故あそこまで感動したのかよくわからんが‥。
宮尾登美子はいろいろなところで借金をしては人に迷惑をかけてきたのだと思う。しかし、みっともなくても人に迷惑をかけても人に嫌われても自分の人生を生きている人にはとてつもないパワーを感じる。
明日からはもう少し自分の好きに生きてみようかな、と思う。
良い人は都合の良い人。誰の記憶にも残らないのだから。
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