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SNSも何もない時代に‥副業の天才。
元内閣総理大臣、犬養毅の孫である犬養道子さんの本。
旅の見聞録なのですが、フィクションではないのにこれだけハラハラドキドキしたのは初めて。
この時代にこれだけのビジネスを考えるなんて‥。今だったらどれだけのことを成し遂げられたでしょう。
犬養さんは昭和23年から10年間アメリカやヨーロッパを歩き回りました。
最初にアメリカに渡り、ボストンで勉強しながら旅費を貯めようと計画。しかし渡米早々に結核に罹りサナトリウムでの生活を余儀なくされます。普通ならここで心が折れてしまいそうですが、「予想外にレベルの低いボストンでの講義を受けるくらいなら本を読んでたほうがいいしついでにお金儲けもしてしまいましょう」みたいな。なんてすごいバイタリティ。
サナトリウムで見舞客の1人の海軍士官と仲良くなった犬養さん。その人はパラシュート係でパラシュートのヒモがたくさん余っているという話をしました。
「パラシュートのヒモは耐久性に富む最上級の糸で作られる‥」
ここでこのヒモで何かを作って売ろう‥とビジネスを思い付きます。
が、特に何を作るかまで考えていなかったのに見切り発車をしてしまうのが犬養さんのすごいところ。
最初はレース編みをしようと思ったのですが編もうとしてから「生まれてこのかたレース編みをしたことなかった」というのも何とも面白いですね。
私は何かをするときはめちゃくちゃ情報を漁ってしまうタイプなのでこういう方は本当に尊敬します。
犬養さんは結局ベルトを作ることにして、いろいろなデザインのものを作り窓の外を通る人を呼び入れてビジネスを始めました。
最初の買い手となった婦人が宣伝してくれたおかげで注文はどんどん来るように。
お金がある程度貯まってからは、雑誌でカトリック信者の多い東部や南部でロザリオがよく売れている、と書いてあったのを見てビーズや針金を買い込みロザリオも販売。
「ロザリオはただの飾りに使うものではないから頑丈でしっかりしたものを。しかし人間は飽きっぽいから一年くらいで壊れて新しいのを欲しくなるような塩梅で作る」
戦略も非常にしっかりしています。
口コミでどんどん評判は広がり、ゆっくり療養していられないくらい注文が殺到したので同じ療養者で生活に困っている人に協力してもらい、ロザリオを売り続けました。
治療費も欲しかったラジオも買うことができ順風満帆、潤いまくりだったところ‥ある警官が病室を訪ねてきます。
警察にまでベルトとロザリオの評判が行き渡っていたのだ、と喜ぶ能天気な犬養さん。しかし警官が持っていたのは「逮捕状」でした。
「スカラシップ(奨学資金)の留学生は米国内で発病した場合速やかに帰国すること。スカラシップの留学生は商売をすることを禁じられている。」
犬養さんは言葉巧みに粘り強く押し問答をしその場を切り抜けます。その場はそれで押し切り、しばらくしてアメリカを離れよう、と船で旅立ちますがそこにまで警官は追ってきます。
最後、船の中で警官と対峙するシーンは本当に格好良いです。
船がアメリカの領域を出るまで警官に喋り続ける犬養さん。この警官もなかなか粋な人でしたので船がアメリカの領域を出ると、「ここまで来たらアメリカの政府はもう貴方に用はないのです。」と立ち去ります。
他にも「お城をもらった話」など犬養さんの行動力やコミュ力の高さなど学べることがたくさんある名著です。
犬飼さんの「何事においてもむつかしいことから手をつけるのは愚の骨頂である」は名言だと思います。
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