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鋳型

最近、珍しくマンガを読んでいるのですが、「青野くんに触りたいから死にたい」というホラーラブコメみたいな感じのマンガが面白いです。

ムーのウェブページにて無料で読めるので、気になった方は読んでみてください。

そのマンガのシーンで、学生の優里ちゃんと死んで幽霊になって現世に戻ってきた青野くんが学校内で話す時、普通に話してると優里ちゃんが独り言を話してる変人になってしまうので、それを気にした幽霊の青野くんが優里ちゃんに学校内では、電話をかけているふりをしながら話そうと提案し、優里ちゃんは学校内では携帯電話をかけてるふりをしながら幽霊の青野くんと話すようにしているというシーンが出てきます。

なんだかずっと学校内で電話をかけているのも変なような気がしますが、独り言を言っているように見えるよりは、まだマシなのかもしれないですね。

自分が勤めている会社でも同じように休憩中ずっと電話をしている人がいるのですが、毎日休憩になると電話をかけているので気になってその人を見てみると、スマホを耳に当てている様子がなかったのでハンズフリーで話しているのかとも思ったのですが、耳にイヤホンをしていなくスピーカーフォンで相手の声も聞こえないので、独り言を言っているのか、それとも先に紹介したマンガと同じように幽霊と話しているのか。

もしくは、イマジナリーフレンドか。

イマジナリーフレンドといえば、僕が好きな劉慈欣とういう作家の「三体」というSF小説の第2章「黒暗森林」の登場人物に、羅輯(ルオジー)という主人公がいるのですが、羅輯には脳内彼女いるという奇特な設定があります。

イマジナリーガールフレンドというのでしょうか。

その脳内彼女ができたきっかけが、羅輯の元恋人で恋愛小説家の白蓉(パイ・ロン)が誕生日プレゼントに羅輯が最も理想である女性を描いた恋愛小説を書いてプレゼントしてほしいと言われ、小説を書いていくうち実生活に自分の小説で描いた理想の彼女が現れる(羅輯にしか見えない)という、とてつもなく中二病的な話なのですが、その話をちゃんと成立させているのにとても感動しました。

三体を翻訳した大森望さんは、その設定が読者から1番不評だったと言っていましたが。

その話の中で、羅輯が自分の頭がおかしくなってしまったと駆け込んだ病院の精神科医と羅輯とのやりとりの内容がとても面白かったです。

「わからないんですか?ぼくはもっとも深い愛情を、幻に捧げたんですよ!」
「ほかの人たちの恋愛対象は実在すると思ってるんですね?」
「あたりまえでしょう」
「いいえ、違います。大部分の人間の恋愛対象も、想像の中に存在しているだけです。彼らが愛しているのは現実の彼・彼女ではなく、想像の中の彼・彼女に過ぎません。現実の彼・彼女は、彼らが夢の恋人をつくりだすために利用した鋳型でしかない。遅かれ早かれ、夢の恋人と鋳型の違いに気づかされます。もしもこの違いに適応できれば、ふたりはともに歩むことになるでしょうし、適応できなければ別れる。そういう単純な話なんです。あなたが大多数の人々と違っているとしたら、あなたには鋳型が必要ないという点ですね。」

劉慈欣 三体Ⅱ 黒暗森林より

この話からすると、簡単に言ってしまえば僕ら自分以外の人間(主観で捉えた時)は保々幻だということになります。

幻というと変な捉え方をされてしまうかもしれないですが、たとえ家族や友人・恋人のような近しい人でも100%その人のことを知っているという人はいないのではないかと思います。

だからといって、わからないままの状態に脳の中ではしておけない為、コミュニケーションを取るために50%や20%でもその人のわかる部分で「鋳型」を作っている(無意識に)のではないかと思います。

この話が、三体Ⅱで出てくる三体人に対抗する為の人類側の作戦「面壁計画」の伏線で書かれているのかもしれないです。

羅輯が、白蓉に一度書いてきた文章をダメ出しされた時の指摘もとても面白かったです。

「アプローチがまちがってる」と白蓉は言った。
「あなたがいま書いているのは作文ね。小説の登場人物になってない。キャラクターの十分間の行動には、彼女の十年分の経験が反映されているのよ。プロットの中だけ考えてちゃだめ。彼女のすべてを想像しなきゃいけない。実際に文字になるのは氷山の一角」

劉慈欣 三体Ⅱ 黒暗森林より

この指摘がきっかけで、羅輯に脳内彼女(鋳型のない彼女)ができたのですが、実際に小説家でもそれに近い現象があるようです。

今に、認知科学やバイオテクノロジーがすごく発達したら、いちから自分の物語を作られた人間(ポストヒューマン)ができてしまうのではないかと思ってしまいました(森博嗣さんのWシリーズでは、似たようなことが描かれていて面白かったです)

倫理的な問題で無理ではあると思いますが。

話を戻すのですが、もしその独り言を言っている可能性のある同じ会社の人が、イマジナリーフレンドと話しているとしたら小説家としての才能があると思うので、是非小説を書いていただきたいです。

という幻(鋳型)を、僕が勝手にその人に抱いているという話でした。

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