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そして、ワタシ達は正義のミカタになった。 第二話 岐路

「いいか?美玖。
お前は“国”を守るために、
この世に生を受けたんだ。
その使命を果たしなさい。
もし果たさなければ、お前を
“アイツ”のようにしても構わないんだぞ」

『いいえっ…!嫌ですっ…!
お父様っ…!
私は普通の女の子として
産まれたかったんですっ…!
決して戦争兵器として戦う為に
私は産まれたわけではっ…!』

「馬鹿者っ!!
国のために尽くさなかったら、
人を超えた力を持つお前は
ただの殺人兵器になるんだぞ!?」

『その私を殺人兵器化させたのは…
誰でもなく…お父様っ…!!
あなたじゃないですか…!?!?』

「御二方とも落ち着いてください。
金村幕僚長の言い分も
金村美玖さんの言い分も
私には痛いほど解ります。
私だって本当は
普通の男性として生きたかった。
でも、英雄となる宿命から
一度も逃げることをせず、
英雄としての使命を
果たしてきました。
だからこそ、金村美玖さんを
責任持って育成しますし、
彼女を必ず守ります。
それに、私はできれば
あの“X・ツァーリ”のようには
させたくないのです…。
どうか、私と彼女の嘆願を
認めてはくださいませんか…!?」

「………分かった。
日本の英雄である渡辺くんが
そこまで言うのであれば、
君に娘を一任しよう。
ただ、もし私の娘が
この国に反旗を翻したり、
君の下から逃亡した際は
君の手で娘を処分するんだ。
…いいな?」

「……承知いたしました。
その覚悟はできております」

『ちょっと…!!
お父様は人の心ってものが
お持ちではないのですかっ…!?』

「……控えなさい。
金村幕僚長も辛いお立場に
おられるのだ…」

『……ッ!……かしこまりました…』

「正当防衛とはいえ…
私…人を殺めちゃったんだ…」

この手で初めて人を殺めた感覚が

時間が経過すればするほど

ジワジワと押し寄せてきて、

私にとって気味が悪かった。

『……こんな私を…助けてくれてありがとうございました…。あなたがあのとき助けてくれてなかったら…きっと私もママと同じようになっていたかもしれない…。…私にとって…あなたは命の恩人です…』

私が放心状態になっていると、あの子は声を震わせながらお礼を言ってくれた。

「そんな…。命の恩人なんて…」

私がそうボソッと呟くと、

女性A「二人とも怪我は大丈夫…!?」

近くにいた女性が心配そうな表情を浮かべてこちらへ駆け寄ってきてくれた。

「私は無事ですが…この子は足にガラスが刺さってしまって…」

女性A「あら、本当じゃない…!!早く救急車呼ばないと…!!」

女性は急いで119番に電話をかける。

『あ、ありがとうございます…。わ、私は大丈夫ですから…私よりも他の怪我してる人を優先してください…』

女性A「そんな…無理しちゃダメよ…」

女性B「そうよ…!応急処置で何か私たちにできることはないかしら…」

男性A「お嬢さん…
やるじゃないか!!
あんな極悪人を
返り討ちにするなんて
“英雄”だよ…!!」

他の女性達が少女の対応に追われる中、一人の男性の声が聞こえた方向を見ると、壮年の男性が安堵した表情を浮かべて、私を讃えた。

そんな“英雄”だなんて…。

私は英雄じゃなくて…

正当防衛という理由で

一人を殺めてしまった

“凡人”なだけなのに…。

“本当の正義の味方”なら、

どんな敵であっても

殺さなかったはずなのに。

男性B「何が“英雄”だよ…。もう少し早く来てくれさえいれば、俺の妻と娘が助かったかもしれないんだぞ…!?」

項垂れながら声を震わせて怒りを露わにする別の男性が壮年の男性と私を罵る。

男性C「それは違うだろ…。彼女だってたまたま自身が能力者であっただけで、能力者ではなかったら今頃死んでいたかもしれない…。この時が来るまで自身が能力者だったことが気づかなかったのは仕方のないことだし、むしろ俺たちが助かったってことだけでもありがたいと思わないと…」

若い別の男性が私と壮年の男性を擁護する。

男性B「お前は黙ってろっ…!!お前に俺の気持ちなんかわかるわけがない…!」

男性C「そんなの分かってるよ…!!俺だってあの悪人に友達を殺されたっ…!ここにいるみんな、今回の件で怪我したり、誰かを失ったりしてる人達ばっかだ!!辛いのはお前だけじゃないんだよ!今はあの子に俺たちが助けられたことに感謝すべきじゃないのか…!?」

男性B「それができたら苦労しねえよ…。俺だって罵りたくねえよ…」

男性は項垂れながら号泣する。

男性C「…」

誰も彼をこれ以上責めることはできなかった。

私はどちらの男性の気持ちも分かるからこそ、なにも反論もできず、ただただ口を噤むことしかできなかった。

辺りを見渡すと、ビルが燃えて黒煙が舞って空はどす黒くなり、破壊されたビルの瓦礫が散乱しているなど地獄絵図であった。

怪我を負った者を介抱する者、亡くなった者の遺体を抱いて泣く者、絶望的な光景に呆然とする者、街を破壊した“張本人”の骸に対して怒りを向けて何度も蹴り上げる者などと様々であった。

そんな最中、

女性C「あの遠くからこちらに向かってくるものは…なに…?」

男性D「あれは…!?」

迫り来る人影を捉えた人々は騒めく。

そのとき、私はグイッと謎の引力に引っ張られてその人影に引き寄せられていく。

「うわっ…!?誰か助けてっ…!!」

男性C「お、おいっ!?だ、大丈夫か…!?」

『お姉さんっっ…!?!?』

少女の必死の叫びも虚しく、

彼女は人影に引っ張られていき、

声も届かなくなる。

女性C「一体どうなってるの…!?」

警官の服を身に纏い警視庁の文字が刻まれた腕章をつけた女性二人が空中浮遊しながら徐々に地上に降り立つ。

そして、彼女らは混乱する群衆に呼びかける。

??「皆さん!大丈夫ですっ!
落ち着いてください!
私たちは敵ではありません!
隣の者とあちらにいる者も
警視庁の者であり、
特殊能力を持つあの女性を
保護しにきただけです!」

男性C「そんなキミたちも空中を浮遊しているが、キミたちも特殊能力を持っているのか…!?」

??『まあ……ざっくり言うとそんな感じです…!』

??「それより早く皆さん安全なところに退避してください!ここにぼっーと突っ立っていると急に火の玉がかかってくるかもしれませんよ」

??『ええと……
皆さんここは危険なので
私たちに従って
退避してください…!』

男性D「わかりました…!」

周りの群衆達は物腰柔らかな警察官に誘導されて避難していく。

が、もう一人の女性警察官は足にガラスの破片が刺さった女子に話しかけた。

??「正源司陽子さん。
あなたも能力者ですよね」

『え…??』

??「申し訳ございませんが、
あなたは保護対象者として
保護させていただきます」

「は、離してっ…!!
あ、あなた何者…!?」

私は何らかの引力で私の体を動かす
謎の女性に対して問いかける。

『ごめんね、小坂菜緒ちゃん。
私の名前は“マグネットガール”。
警視庁公安部直属のヒーローよ。
あなたには私もできれば
手荒なことはしたくないの。
大人しく従ってもらえるかしら?』

「なぜ…あなたが私の名前を…!?」

『それは、ずっとあなたが
私たちの調査対象だったから。
あなたはあなた自身も
気づいてすらいない
特殊能力を持っているの。
そのことを昔知った日本政府が
あなたを秘密裏に調査してた。
その担当者の一人が私なわけ。
そして、その調査対象のあなたが
久しぶりに特殊能力を使った。
だから、あなたを今ここで
“日本政府の育成ヒーロー”として
私が保護することにしたの。
これで分かってくれた…?』

「い…嫌ですっ…!
私は正義の味方なんかでもなく…
自己防衛とはいえ、
力を制御できずに
人を殺してしまったんです…。
それに…
助けられなかった人だって
大勢いた…。
こんな私なんて…今更…
ヒーローになんかなれない…。
せめて…私は…私は…
“一般人”として生きたかった…」

『はぁ…。あなたを見てると
何だか昔の私を見てるみたい…』

「えっ…?」

『実は私もあなたと同じ状況で
日本政府から保護されて
“ヒーロー”になったの。
かつての私は母を守るために
母に手をあげようとした暴漢を
誤って殺してしまって、
自暴自棄になっていた…。
そんなときに助けてくれたのが
かつての上司の新内さんだった。
彼女が居たから今こうして
私は“人殺し”という負い目を
背負わずに“ヒーロー”として
生きることができている…。
だからこそ、できれば私が
今のあなたを助けたい」

「でも…
政府直属のヒーローになる
ということは…
政府の命令によっては
人も殺さないと
いけないんですよね…?」

『確かにそうとも言える…』

「なら…反対です…!
もう私は誰も殺したくないんですっ…!」

『でも、
たとえあなたがヒーローではなく
一般人として生きる道を
選んだとしても
力が暴走していつか誰かを
殺めてしまうかもしれない…。
そのとき、あなたは
本当の“人殺し”になってしまう。
それならば、政府の力を借りて
己の力を制御しつつ
ヒーローとして活躍する道も
アリなんじゃないかな?
それに…
政府直属のヒーローとして
人を殺したとしても、
あなたは今の“殺人者”ではなく…
“英雄”として扱われる』

「“英雄”なんて言っても…
“殺人者”には変わりはないです…。

“一人を殺せば殺人者だが、百万人を殺せば英雄だ。殺人は数によって神聖化させられる”

かつてのチャップリンだって…そう言ってたのに、私はこんなの正当化できないです…」

『そう…。
別にその考え方は否定しない。
ただし、自分の力に怯えながら
一般人として必死に生きるか、
自分の力をうまく利用して
ヒーローとして生きるか…
ちょうど今が
あなたの人生の岐路だと
私は思うけど…
あなたはどちらを選ぶ?』

「私は“一般人”として生きます」

『そう…。とても残念だけど、
あなたの決断だから仕方ない…。
なら…私は今からあなたと
闘わなきゃ行けないわね…』

「…覚悟はできてます。
私は私の生き方を選びたいので」


       To be continued...