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『そしてワタシ達は正義のミカタになった。』-第一話- 「殺-アヤメ-」

翼の言われた通りにD2出口から大学院図書館を抜け出し、私は駆けた。

曇り空の色がどす黒くなっていく。

何分駆けただろう。

私は悲鳴を背後から聞こえたとしても、周りに目もくれず走り続けた。

翼は無事だったのだろうか?

翼も逃げていてほしい…。

そう願いながら、

私は一心不乱に駆けた。

しかし、道の行き先の途中で

【速報です。海洋大学院図書館が襲撃され、少なくとも16人が死亡しました。政府はタスクフォースを派遣し…】

というテレビの音が聞こえる。

周りの人々が逃げるなか、私は立ち止まった。

「立ち止まった」というより、「立ち止まらざるを得ない」が正しかった。


速報の音声がした左の方へ向くと、古びた緑の庇がある電化製品屋の売り物のテレビから速報が流れていた。

このとき

翼が私を命がけで

守ってくれたと知った。

それと同時に、

翼の安否が

一層不安になった。

しかし、

ここで立ち止まってられない。

足が痛くなっていたが、無理を強いて目の前の道を走っていく。

「いいか?菜緒。

菜緒は正義感の強い子に育ちなさい。

己が正しいと思った方向を貫きなさい」


亡き父の言葉が

私の頭の中で反芻する。

この逃走が私の本当の

“正義”なのだろうか…?

私はそう葛藤しながらも、

駆けることをやめなかった。

が、10m先の道が爆発音とともに目の前が火の海に包まれる。

周りの建物のガラスが爆風で割れ、突然の出来事に私は立ち止まった。

私同様逃げていた人々が炎に消えていく光景を目の当たりにして、私は唖然とする。

すぐ目の前にいた高校生くらいの少女は生きていたが、足に割れたガラスの破片が刺さって歩けなくなっていた。

「大丈夫ですか!?」

私はすぐさまその少女へ駆け寄り、介抱しようとする。

咄嗟の判断だった。

父のあの言葉が

私を駆り立てた。

周りの人々は阿鼻叫喚となり、来た道に引き返そうとする者、口論する者、泣き叫ぶ者、呆然とする者など様々いた。

『ママが…ママが…』

少女は呆然とした状態で火の海の方を指差す。

足の痛みよりも家族を失った痛みの方が強く、まるでかつての私のようだった。

私が少女にとりあえずここから離れるよう伝えようとしたそのとき…

手に赤い炎を携えた謎の人物が現れる。

「俺の名前はファイヤーデビル!!逃げても無駄だぞぉ〜!?ここでお前達は焼け死んでもらうんだからなぁ〜!?俺の宣伝にお前達に生贄になってもらうんだからなぁ〜!!」

『こんなことして、あなたの目的はなんなんですかッ…!?ママを…ママを殺しておいてッ…!』

少女は怒りを滲ませて、涙ながら訴える。

「俺はこの地域一帯を牛耳る企業の水産学研究者から私の特許が奪われてねぇ〜!!特許庁もグルの組織的犯行のせいで俺の研究者生命はどん底に堕ちた!!!だから今度はこの街一帯を地獄のどん底にしてやろうと思ったんだよ!!俺をここまで堕とした研究者も先程始末したし、あとはこの街で逃げ惑う人々を殺戮して特許庁も恐怖に陥れてやる!!!だから、お前達も死ねぇ!!!」

『そんなのアンタの勝手でしょ!?!?なんで罪のない人達も殺されなきゃいけないの!?!?』

「黙れ!!クソガキ!!」

その人物は舞い上がる炎をこちらへ浴びせかかる。

「危ないっ…!!!」

私は咄嗟に少女の前へ立ち彼女を庇う。


これで私も死んだかと思ったが、

少女を庇ったと同時に、なぜか私の体が発光して炎を瞬時に消し去った。

「ば、馬鹿なッ…!?」

「嘘…?私の手が光ってる…!?」

「おのれッ…!!お前も能力者かッ…!!今すぐ殺してやるッ!!!」


「よく聞いてくれ。菜緒だけでも助けたい」

「いいか?菜緒。

菜緒は正義感の強い子に育ちなさい。

己が正しいと思った方向を貫きなさい」

翼…。そして、お父さん…。

あのときの言葉の本当の意味が

今わかった気がする…。

 私は

   “正義のミカタ”

       になるために、

        産まれてきたんだ…。

      

「絶対アンタみたいなのに負けない!!!」

私は腕から発せられる緑の光弾を彼へめがけて投げた。

バレー部で鍛えた投球…!!

ここで活きてっ…!!

「そんなの効かねえよ!!うおりゃあああ!!」

彼は炎の盾を作り防御するが、その炎の盾を光弾はすり抜ける。

「な、なんだと…!?」

彼に緑色の光弾が命中して、彼の全身が焼き尽くされる。

「ウギャアアアアァァァア…‼︎‼︎タ、タスケテェ…‼︎グォ…ォッ…」

彼は悲鳴をあげてもがき苦しみ、みるみるうちに焼け焦げていき、最後は炭になった亡骸となった。

少女は死にゆく彼の姿を見て、

呆然とした。

私も恐れ慄いた。

自身の能力の脅威と
そして、
初めて殺人を犯したことに対して。


「遂に研究対象の能力を観測しました。タスクフォースによる殲滅をせずとも、研究対象が殲滅対象を殺害した模様。急ぎ拉致し、研究所へ移送し、新内長官の監督下に置きます。……はい、承りました」

「タスクフォース引揚準備用意。これより直ちに研究対象拉致計画の実行を開始。二人は人々の誘導を」


「了解です…」

「承知いたしましたっ!」

 
「 小坂菜緒ちゃん…。
 酷だけど、アナタには
 今日から“戦争兵器”に
 なってもらうから…」



       To be continued...