サイゴンから来た妻と娘

もう何回読み直したかわからないこの本。
最初に出会ったのはもう20年前のこと(!)です。

出会いの場所はベトナムのハノイ。
当時大学生の私は、ベトナムに語学留学していた友達の寮に2週間ほど居候しながらぶらぶらしていました。

その友達が、夜日本料理屋にバイトに行く前「暇ならこれ読んでていいよ」と渡してくれたのが「サイゴンから来た妻と娘」。読み始めると止まらなくて一気に読んでしまいました。

以来数年に一回のリストラ(蔵書整理)にも耐え生き残り、私の本棚に20年居続けてくれる大切な本です。

著者の近藤紘一さんは新聞記者としてベトナム戦争下のサイゴン(現ホーチミン)に駐在。サイゴン陥落の日も現地にいて、そのことも「サイゴンの一番長い日」という本にされています。

「サイゴンから来た妻と娘」は、ベトナム人の奥様と娘(連れ子)との日本での日常を描いた、よりパーソナルな文章になっています。

また著者は同作で大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞されています。見たことないですがドラマにもなってるようですね。

やっぱり記者としての筆力というか、文章がとにかく上手くて読ませます。前半はサイゴンでの奥様との生活も描かれているので当時のベトナムの状況を知るルポとしても面白いです。

そして一番印象的なのは近藤さんの奥様や娘さんへの優しい視線とユーモアあふれる文章。奥様の生命力旺盛で逞しく誇り高い魅力が存分に描かれています。

近藤さんは、過去の結婚で辛い経験をされてその喪失を補完するかのように前妻と正反対の奥様と結婚した、ということを書いていますが、奥様の底抜けの明るさ逞しさに魅了されてそこに生きる活力を見出したのでしょう。

話はそれますが私のことを少し。大学に入った頃の私は、大学の専攻は美術史という就職には全く結びつかない学問で、将来したいこともなく、サークルにも所属せず、映画と本の世界に入り浸っていました。

長すぎる4年間の自由時間に現実感覚を失くしてしまったというか。
なんだか途方に暮れていました。そんな時に行ったベトナムで、すごく元気をもらえたんです。

ベトナムはものすごい史跡名所があるわけでもないんですが、町や人々にとにかく活気があって、太陽が強くて、朝起きるだけでも明るい気持ちになれる。日本にはない生命力に溢れていて、帰国するころには生きる活力を取り戻していました。

帰国した私は日本語教師の養成講座に通い始め、大学を卒業してから台湾に日本語を教えに行きました(ベトナム語は難しすぎたし第二外国語が中国語だったので)。以来、日本でも形は変えながらも外国人のサポートを仕事にしています。

大学生の頃のベトナム滞在から、私は人生で停滞があるたびに海外に行って状況を打開するということをしてきた気がします。そしてこの本もいつも傍らにありました。何年かに一度は読み返して、その度に面白いと感じます。そんな本は他にはないです。何にそんなに惹かれるのかわからないんですが。。

きっとベトナムにも、著者にも惹かれているんだと思います。
ちなみに第一版は1981年!私もまだ生まれていない。

近年は急速に発展を遂げたベトナムですが、コロナ対策でも中国並みのゼロコロナ対策を強いてたかと思えば頃合いであっさり全面解除してみせる鮮やかな立ち回り。相変わらず強かで逞しい姿を見せてくれ、さすがかの国、とにやりとするのでした。










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