データ卓球 (仮)

卓球において、データ分析が普及してきていると感じている。

回転数やスピードを把握するものはもちろん、コース取りやラリー数などさまざまな観点で分析がなされている。

しかしながら、その分析の目的の多くが、目下の対戦相手のスカウティングや、パフォーマンス力向上を目指したものである。

もちろんパフォーマンスに関するデータを分析していくことは重要であると考えているが、その活用方法にはまだまだ拡大余地があると考えている。

具体的には、最も力を入れてデータを活用していくべきは、ジュニア段階の選抜であると考えている。

卓球では、若い頃にしか獲得できない能力が非常に多く、かつそうした能力が最終的に大人になった時に、「持続的な勝利」に向けた差別化の源泉となる。

そのため、若い頃に、ある程度有望なメンバーを厳選し、集中して投資を行なっていくことは非常に有意義であると考えている。

そこで今回は、データ卓球への入り口として、ホープス世代以降どういった能力を持った選手に投資していくべきなのか?について考えてみたい。

先に述べておくと、結論としては「勝利時の3-0勝利率が高い選手」となる。


調査概要

今回の調査は大きく分けて2つのステップに分けられる。

1.ホープス世代時の実力とジュニア終盤期の実力の数値化とスコア上昇グループ・減少グループの特定

2.実力スコア上昇グループと減少グループの違いについての考察

また、選手選定やスコア算出については以下の要領で行なった。

調査1 ホープス世代時の実力とジュニア終盤期の実力の数値化とスコア上昇グループ・減少グループの特定

対象


1994年〜2004年生まれで、全日本ホープス(小5・小6)において超好成績(下記スコアで3ポイント以上)をおさめた選手

スコア算出方法

・ホープス時
全日本選手権ホープスにおいて、優勝:5ポイント、準優勝:4ポイント、ベスト4:3ポイント、ベスト8:2ポイント、ベスト16:1ポイントとした。
また、2年連続でベスト16以上に入っている場合は2年間の合計が実力スコアとなる。

・ジュニア終盤期
インターハイにおいて、優勝:6ポイント、準優勝:5ポイント、ベスト4:4ポイント、ベスト8:3ポイント、ベスト16:2ポイント、ベスト32:1ポイントとした。また、実力スコアは高2時と高3時のスコアを足し合わせて算出している。

注1:インターハイに出場しないエリアカ所属選手や、コロナによるインハイ中止世代については、全日本ジュニアにおける成績を代わりに用いた。

注2:インターハイのスコア算出範囲をベスト32としたのは、ホープスと異なり3学年合同で開催されており、競争が激しいことを反映している。

グルーピング方法

・実力スコア上昇グループ
実力スコアが5以上伸びている選手

・実力スコア減少グループ
実力スコアが3以上減少している選手。また、ここでは怪我や進路上の理由で卓球を休止していたと思われる選手は除いて選出している。


おまけ調査


データを見ていくと色々と新発見があった。

近年実力スコアが急激に伸びる選手と、急激に落ちる選手が増加しているのである。そして、その結果として実力ランキングの変動が増加している。

私の仮説として、育成環境の充実(高水準な個人トレーナーの増加、試合動画の充実、試合・技術解説コンテンツの増加)とスパルタ式指導の終焉が要因として挙げられると考えている。

近年は社会通念上、365日24時間卓球を半強制的にやらせるということが困難になってきている。

そのため、選手個人が主体的に練習していくことが求められている。

そうした中で、豊かな環境をフルに活用し、自律的に卓球に打ち込める選手に関しては指数関数的に実力を伸ばせるようになっている。

その一方で、他律的しか卓球に打ち込めない選手に関しては、環境の充実という恩恵に預かることはできず、単に練習量が減少していくだけである。よって実力が著しく低下していくのでないかと考えている。


調査2 実力スコア上昇グループと減少グループの違いについての考察

以上のもとで実力上昇グループ8名、実力スコア減少グループ10名を特定した。

ここからは、上昇グループの選手と減少グループの違いを考えることで、どういった選手がホープスからジュニアにかけて成長していくのか検証していきたい。

今回は2つの観点で比較を行なった。
(1)フルセット(3-2)での勝利割合
(2)勝利試合に占める3-0勝利の割合
である。

(1)フルセットでの勝利割合

一般的に、フルセットでの勝利割合が高い選手は「勝負強い」と捉えられることが多い。また、ひどい場合は勝負強いというイメージがさらに派生し、「選手としての強い」「逆境に強い」「伸び代がある」となり、結果として実力以上に評価され、チームの代表選手として選ばれることもある。

実際にデータを見てみるとどうだろうか?

結論としては、意外にも勝負強さはその後の成長にほとんど影響を与えないと考えられる。

実力上昇グループについては平均してフルセット勝率は67%、実力減少グループは65%と有意な差はなかったのである。

熱血派監督は往々にしてフルセット勝利率が高い選手を愛する傾向にあるが、愛するまでにとどめて、いざ選抜に当たっては公平に評価することをお勧めする。

(2)勝利試合に占める3-0勝利の割合

では逆に、ほとんど記憶に残らないことの多い、3-0勝利について見てみよう。

結果としては、実力上昇グループは平均して3-0勝率は58%、実力減少グループは46%と圧倒的に実力上昇グループの方が高いことがわかる。

減少グループでは、10人のうち3-0勝率50%を上回ったのはたった5人である一方、上昇グループでは8人中6人が50%を上回っている。

実際に上昇グループの篠塚大登選手は75%、谷垣佑真選手は69%の3-0勝利率を記録している。その一方で、減少グループには30%を下回る選手も3名おり、一番低い選手に関しては10%となっている。

全員の記憶に残るフルセット勝利よりも、あまり記憶に残らない3-0勝利の方が、今後を左右する重要なファクターなのである。

注:実力上昇グループの方がホープス時代に圧倒的な実力を有しており、そのため3-0勝利率が高いのではないか?という指摘もあるかもしれない。念の為見てみたが、上昇グループの実力スコアは4.5、減少グループの実力スコアは4.9とむしろ減少グループの方が高かったので心配なさそうだ。

今後の展望

では、なぜ「勝利試合に占める3-0勝利の割合」が高い選手が伸びているのだろうか。

3-0勝利が多いことの要因として
・基礎技術(台上・ブロック・ドライブ等)に穴がなく、水準が高い
・サーブレシーブが特別うまい
・精神的に安定している
といったことが考えられる。

実際に篠塚選手や谷垣選手はこの全てを満たしていると私は勝手に思っている。(特に篠塚選手はサーブがめちゃめちゃうまいらしい)

そして、ここからは完全に仮説であるが、これら3つの要因の裏には、「回転能力の高さ」があり、

回転をかける能力が高い
→サーブレシーブがうまい+基礎技術の習得が早い
→基礎技術が安定しているため、どんな相手がきても基本的に大丈夫!と精神的にも安定

という構造になっているのではと邪推している。

そのため、僕としては「回転をかける能力が高い選手が伸びる」のではないかと考えている。

そして、回転をかける能力が突出して高い選手は、ホープス世代においては体格差や試合運びが下手という理由から十分に活躍できていない。

しかしながら、中学高校を経て体格差が埋まり、試合にも慣れていった結果、「回転をかける能力」が勝利を分かつ重要なファクターとなり、結果としてその能力に長けている選手が多い「勝利時の3-0勝利率が高い選手」が伸びたというストーリーが私の仮説である。

終わりに

今回は非常に重要なテーマについて、極めて限られたデータをもとに、稚拙な分析手法で調査を行なった。

・プロのパフォーマンス面だけでなく、幼少期の選抜時におけるデータの利活用の必要性を訴えること(直感に反した結果が起こりうること)

・その活用例を示すこと

が主目的であるため色々と大目にみて欲しい。

色々と気になることは山積みなので、今後また機会があったら続きを書いてみようと思います。


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