握り寿司・大阪風
もうずいぶん前の話ですが、とある地方都市で学校給食をいただきました。主菜は「イカのナポリ風」という、揚げたイカに細切り野菜をケチャップで煮込んだソースをかけたものでした。とてもおいしかったのですが、「ナポリ風」が気になって栄養士(当時はまだ栄養教諭という職種はなかった)さんに聞いてみると、「イカとケチャップだからナポリ風です」との答えでした。その時は「なるほど~」と感心しておきましたが、心の中では首を傾げていました。
今回は「○○風」料理について妄想します。
クラシックフレンチの〇〇風
クラシックフレンチには〇〇風と和訳される料理がたくさんあります。有名なものをいくつかご紹介します。(〇〇の部分には食材が入ります)
▶〇〇 bonne femme (〇〇のボヌ・ファム)
辞書をみると、bonne femmeは「女性」あるいは「女房」となっています。おふくろの味だからbonne femmeらしいのですが、日本では「貴婦人風」と訳されている場合があります。女房よりも貴婦人の方が高級っぽいからでしょうか? おふくろの味なら「おふくろ風」でよさそうですが、そうなると一気にビストロ感が出るのでだめなのでしょうか。
▶〇〇 financier (〇〇のフィナンシエール)
financier は「お金持ち」と訳されます。洋菓子のフィナンシェは金の延べ棒を模してあることから名付けられました。
料理のフィナンシエールは「〇〇の金持ち風」では品がないのか「資本家風」と訳されることが多いようです。なんだかオーダーするのが恥ずかしいような気がするのですが…。
▶〇〇 Rossini (〇〇のロッシーニ)
ロッシーニはセビリアの理髪師等多くの作品を発表したイタリアの作曲家です。そのロッシーニさんは大変な美食家でもあり、創作料理にも情熱を傾けました。トリュフとフォアグラを贅沢に使う「牛フィレ肉のロッシーニ風」は彼のレシピ通りに作られたと伝えられています。この他にも数百もの「○○のロッシーニ風」という料理がありますが、そのほとんどはロッシーニが考案したものではありません。「ロッシーニ風」としておけば食通が喜ぶのだとか。日本で言うなら「魯山人風」です。やっぱりクラシックですね。
これらの料理は、よほど料理に精通していなければ、食べただけで「おっ、○○風だな」なんて分かるような物ではありません。筆者程度の舌では○○風だと言われても分かりません。
エッグベネディクト・ニューヨーク風
分からないと言えば、筆者がいままでに食べた最高に分からなかった○○風は、東京のホテルで食べた「エッグベネディクト・ニューヨーク風」でした。
エッグベネディクトはそれまでにも何度か食べたことがありましたが、メニューに「いかにもニューヨーク風に仕上げました」と書いてあったので、結構なお値段でしたが食べてみました。
同席していたシェフの皆さんは「なるほどー、ニューヨークっぽいですねー」とおっしゃっていましたが、筆者にはどこがニューヨークっぽいのかさっぱり分かりませんでした。さらに、そのことを素直に告白したときの、同席したイタリアンシェフの言葉がさらに謎でした。「それはさー、山下さんがニューヨークの風に吹かれたことがないからだよー」
彼が大阪の友人なら盛大にツッこむところだったのですが、「そーなんですねー」と言うにとどまりました。
イカのナポリ風
給食の「イカのナポリ風」は港町ナポリにちなんでイカとケチャップなのですが、イタリアではケチャップは料理には使いません。例外として、フライドポテトやホットドッグ等ファストフードには使うそうです。しかもメチャ好きやん!ってぐらい使うそうです。でもちゃんとした料理には使いません。パスタにケチャップなんてあり得ないらしいです。イタリア人のプライドでしょうか。
ですから、日本でよく見かけるケチャップ料理はナポリの人たちからすれば「なぜこれがナポリ風?」「イタリアン?」「ナポリタン?」となるのです。
余談ですが、北イタリアのピエモンテにはルーブラというスパイシーなトマト調味料があります。見た目はケチャップですが、味はぜんぜん違います。
イカのピッツバーグ風
トマトケチャップはアメリカととても縁が深い調味料です。ですからケチャップ料理なら、世界で初めてトマトケチャップを販売し、現在でも販売量世界一のメーカーの本社があるアメリカ・ピッツバーグにちなんで「イカのピッツバーグ風」と名付けるべきなのです。でも、なんだかピンとこないネーミングだからそうはならなかったのでしょうね。
握り寿司・大阪風
「○○風」と名付けられた料理は、◆国(地方)の特産食材から◆国(地方)の名物料理にあやかって◆国(地方)の独自調理法から◆国(地方)の独自調味料から◆なんとなくイメージで…等の理由で名付けられています。もちろん、その国(地方)の特色を忠実に再現した○○風もありますが、筆者の経験では上の写真の「握り寿司・大阪風」と同じようなものが多かったような気がします。大阪人なら間違いなく「なんでやねん!」とツッこんだ後に爆笑するようなやつです。
もし、食事に出かけて「○○風」と名付けられた料理に出会ったら、後でその○○地方を調べてみることをお勧めします。それも料理の楽しみ方のひとつですよ。